Ⅴ.
「それじゃ、ペアを決めようか。 緋華は僕と。嵐は……藍菜とどうかな?」
ツルミヨがヘッドフォンを首にかけ、軽やかに告げた。
訓練場の中心で、それぞれの霊力が静かに渦巻き始める。
「私と、九条さんが……」
藍菜がおずおずと前に出る。
俺は無言で彼女を見据え、左手を微かに震わせた。
冷たい空気は、常に俺の皮膚を針で刺すように攻め立てている。
「手加減はしない。……来い」
「は、はいっ! ――異能力、氷叫!」
藍菜の黒く染まった手元から、美しいが俺にとっては致命的な「氷の礫」が放たれる。
俺は奥歯を噛み締め、その「冷たさ」が肌に触れる前に声を絞り出した。
「第四形態、怪壁……!」
漆黒の障壁が展開され、氷の礫を弾き飛ばす。
だが、その衝撃で舞い散った冷気が霧となり、俺の頬をかすめた。
「……っ!」
焼けるような激痛。
俺は声を殺し、痛みを燃料に変えるようにして距離を詰める。
一方、その隣では―――。
「本気で行くよ、ツルミヨ。――逆鱗・双炎」
緋華の両手から、巨大な二条の炎がツルミヨを飲み込まんと迫る。
対するツルミヨは、一歩も動かない。
ただ、鼻歌を歌うような余裕で右手を掲げた。
「いい熱量だね。緋華、やっぱり研究だけじゃなくて、コッチの才能もあるよ」
ツルミヨの周囲に、幾何学的な模様を描く紫の透過シールド――八重垣――が展開される。
緋華の猛火はその障壁に触れた瞬間、勢いを失うどころか、まるで吸い込まれるようにシールドの紋様に蓄積されていった。
「吸い取られてる……!?」
「正解。僕のシールドは、受けた衝撃を運勢に変えて溜め込むんだ。……さて、サビの時間だよ」
ツルミヨが指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、シールドに蓄積された緋華自身の炎が、何倍もの衝撃波となって弾け飛んだ。
「反撃―――螺旋紫雲、吉凶」
「あっ!?」
爆風に押され、緋華が後退する。
ツルミヨはそれを追いかけず、優雅に着地した。
「あはは、ごめん。ちょっと溜めすぎちゃったかな。
……ねぇ、嵐。そっちはどう?」
ツルミヨの呼びかけに、俺は藍菜の追撃を「怪壁」で凌ぎながら、苦々しく答える。
「……喋る余裕があるなら、そっちで遊んでろ」
俺の視界が、痛みのせいで赤く染まり始める。
藍菜の「氷」は、俺にとっての天敵だ。
守れば守るほど、周囲の温度が下がり、俺の怪絽が悲鳴を上げる。
「九条さん、顔色が……! すみません、私、やっぱり……」
「……謝るな。続けろ」
「で、でも……!」
俺が強引に地面を蹴り、藍菜の懐に飛び込む。
その背中で、ずっと沈黙していた撞依が、獲物を見つけた蜘蛛のようにクスクスと笑った気がした。




