Ⅳ.
「逆鱗」
先程と同じく、異能力使用時により、黒く染まった右手を握り込む仕草で今度は炎を出現させたのは、緋華だった。
俺の霊絽に配慮してくれているのか、実験の道具を壊したくないのか……その変わらない仏頂面から表情を読み取る事は、俺にはまだ出来ない。
俺も俺で、第六形態を出現させようと左手を前に出すと、ウィーンと、訓練場の自動扉が開かれた。
「あ!嵐いた〜!へぇ、霞隊長には聞いたけど、こんな所で特訓か〜!頑張ってるね、嵐」
「ツルミヨ……!?」
「ツル……ミヨ……って誰だ……?」
髪先が紫かかった白髪、肩上まで伸ばされた髪を後でハーフアップに結び、軽快な口調に、白黒ジェケット、紫シューズ、黒ハーフパンツを着用し、ヘッドフォンを装着している。小柄なので、身長は百五十cmもないだろう。
それが、物怪・ツルミヨだ。
急に入って来たかと思えば、ははっ、と笑ってこちらへ来る。
緋華も、竪海も警戒態勢に入っている様だ。
「おい、九条……こいつの説明をしろ」
「まぁ、物怪だ」
「い、いや、だから何の物怪で……どうしてここに……?」
「僕はツルミヨ、本名は素戔嗚。まぁ、伝説の神様だからって別に特段強いわけじゃないよ。
僕、元々守護系だしね。それに、僕なんかよりも真希の方が……」
「?真希?誰だ?」
「ううん、何でもない!ねぇねぇ、それより君達さぁ、最近流行りのバンド、RI:ENDの公式サイトに公開された新曲・〝ネバーランド〟聞いた?
今回のもすごく良かったよね!何ていうか、情があって、歌詞に深い意味が隠されてそうな感じ!
考察しがいがあるよ〜」
「お、おぉ……」
何処かオタク気質で、何処か闇を纏ったツルミヨに圧倒されながらも、緋華はチラチラとこちらを見てきているし、竪海は押されている。
唯一、藍菜だけがツルミヨと普通に話している様だ。
自己紹介をしつつ、和やかに雑談している四人。
確かに、俺も最初ツルミヨと出会った時は竪海の様な感じだった。
ぐいぐいと押されに押されて結局、あいつに―――。
そこまで思い出して俺は、ハッと現実へ目を向けた。
そうだ。
俺が今、目を向けなければいけないのはこの現実だ。
過去じゃない。
そんな事、とっくに理解していたはずなのに……。
「……。ねぇねぇ、皆!僕も特訓混ぜてくれない?最近鍛えてなかったから少し力出しにくくて……」
「もちろん……!ねぇ、緋華ちゃん?」
「うん、別にいいよ。ね、兄さん」
「そうだな。俺達研究所から来たから、そんなに強くないけど……」
「兄さん……か」
「?ツルくん、どうしたの?」
ぼそっと呟いたツルミヨの言葉に反応したのは、藍菜だった。
ツルくんと言う呼び名にツルミヨと俺がガバっと顔を上げ、ツルミヨが小さく真希に似てる、とまた呟いた。
今度は、俺以外には聞こえていない。
悲しそうな、でも愛おしそうな顔をして、すぐにいつもの明るい仮面を被る。
そんなツルミヨの瞳には、何故か紺色の長髪をサイドテールにして結んだ、少女の笑顔が映っている様な気がしたのは、俺の気のせいだろうか。
「ううん、何でもない!それじゃあ、宜しくね!」




