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「何の真似だ?」
ジャズモが眉間をしかめる。
「ガオコ姉ちゃんは、オレたちを助けてくれた! だから…」
ハヤトと仲間たちは震えていた。
だが、逃げはしない。
「今度はオレたちが守る!」
「フッ…ゴミめが!」
ジャズモの放った正拳を、ハヤトが横にかわした。
否、ハヤトがかわしたのではない。
背後から伸びたガオコの両手が、ハヤトの身体を掴んでずらしたのだ。
女拳法家の両腕は小さな助っ人たちを、後ろに退がらせた。
そして立ち上がり、ジャズモと相対する。
「ほう」
用心棒の双眸が光った。
「さっきの蹴りで両腕を砕いたと思ったが…受けるのは巧いようだな」
ジャズモが構える。
「まあ、いい。どうせ、おれの敵ではない。次の攻撃でバックアップに戻してやろう」
ガオコも構えた。
その瞳は静かだ。
「ハッ!」
気合と共に放ったジャズモの右拳は、ガオコに届かなかった。
それよりも速い彼女の右カウンターが用心棒の顔面を捉えたからだ。
「ぐへっ!」
衝撃に顎を砕かれ、ジャズモは2歩、退がった。
「おっ…おぼぁ…な、何だ!?」
ジャズモが眼を剥く。
「その速さは!? バカな!」
「あたしも機身を改造してるのさ」
ガオコが、再び構える。
「改造!? そのノーマルボディを改造したところで…」
ジャズモも構えた。
2人が接近する。
「ああ。逆だよ、逆」とガオコ。
「逆?」
「あたしは機身の性能に制限をかけてる」
「制限…制限!? う、嘘をつくな!」
「あれ? 今、殴られたの忘れた? もう、データの海に片足を突っ込んでるんじゃない?」
ガオコが、ニヤッと笑う。
「殺す!」
ジャズモの両腕が、ガオコを襲った。
が、しかし。
「おぅッ!?」
またしてもガオコの打撃が、速さで上回った。
しかも2撃、3撃、4撃。
胸、腹、脚と、続け様に打たれたジャズモが、どんどん退がる。
「おおっ、おおぉッ」
怯むジャズモに、ガオコが「ほらね」と笑った。
「30%まで下げてた能力を50%に上げた」
「50!? それで半分だと!?」
驚愕するジャズモの前で、ガオコが構える。
「さあ、それじゃ、そろそろ終わりにしようか。あたし、怒ってんだよ」
ガオコの双眸が、大型肉食獣の如き、殺気を放つ。
「子供たちに手を出したろ。許せないね。あんたをデータの海に沈める」
「ぬおぉぉぉーッ!」
叫ぶジャズモが、ガオコに突進した。
敵の両拳を余裕でかいくぐったガオコの右ボディアッパーが、用心棒の機身を宙に浮かせる。
女拳法家が7本の指を立て、ジャズモに見せつけた。
「冥海まで、あと7つ!」
まず、右フックがジャズモの顔面を捉える。
「ひとつ!」
返しの右バックハンドブロー。
「2つ!」
強烈な打撃で左右に振られ、ジャズモの機身は空中の、その場に留まってしまう。
「3つ、4つ、5つ、6つ!」
左右の拳が横殴りに、用心棒の胸を打つ。
「おぁぁぁッ!」
もはや反撃も叶わぬジャズモの両脚が、ようやく地に着いた。
グラグラと揺れる用心棒の機身の胸に。
ガオコの渾身の掌打が、叩き込まれる。
「7つ!」
「ぐはぁぁッ!」
大きくしなった機身の背中へ衝撃波は突き抜け、形勢悪しと見て逃げ出したゲドウの両脚まで破壊した。
「ギャー!」
ならず者のボスは悲鳴をあげ、地面に転がる。
「猛虎7撃」
ガオコが「ふぅ」と、息を吐く。
そして、ジャズモをにらんだ。
「データの海に逝っても忘れるな。もし戻ってきて悪事を働けば、またあたしがぶちのめす。100回でも200回でもね」
「ぐはぁぁぁ!」
ジャズモの機身が、粉々に砕け散った。
「ひぃぃぃ!」
地面でもがくゲドウの側に、ガオコが立つ。
「ゆ、許してくれ! 俺が悪かっ」
命乞いの途中で、彼の頭はガオコに砕かれた。
「冥海で手下たちが待ってるよ」
入口を向いた彼女に、ハヤトたちが駆けてくる。
「すげーよ! 姉ちゃん、ホントにすげー!」
大喜びする少年少女たちの頭を、ガオコが優しく撫でた。
「さあ」
女拳法家が、来た道を見る。
「そろそろ、行くかな」
「「「「「えー」」」」」
少年少女たちが落胆する。
「どこに行くんだよ?」とハヤト。
「着の身、着のまま。修行の旅さ」
ガオコがニヤッと笑う。
「宇宙は広い。どこかの星に、あたしより強い奴が居る」
「姉ちゃんより強い!? そんな奴、居るもんか!」
少年少女たちが、ハヤトの言葉に頷く。
「それを確かめる旅さ!」
こうしてガオコは、瞳を輝かせた少年少女たちに見送られ、歩きだした。
目指すは次の街、そして次の星。
女虎の進む先に待つのは果たして、どんな戦いか。
まだ見ぬ強敵との出逢いに思いを馳せ、ガオコの機身はビリビリと電流を走らせるのだった。
おわり
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大感謝でございます\(^o^)/




