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結局、ガオコは我を通し、ハヤトたちにゲドウ団のアジトまで案内させた。
崩れたビル街の陰に隠れた少年少女たちに礼を言って、ガオコが敵のバリケードに歩きだす。
その背中をハヤトたちは、不安げに見つめた。
砦の前には2人の大男が居る。
改造ボディを軋ませ、2人はガオコに襲いかかった。
ジャンプしたガオコの両脚が左右に開き、大男たちの顔面をクリティカルで捉えた。
バランスを崩す2人は再び立ち上がろうとするが、そこにガオコの左右の打ち下ろしパンチが背中から胸まで突き抜ける。
「やっぱり、すげー!」
ハヤトが大喜びした。
ガオコは大門の前に立ち、腰を落とした。
両眼を閉じ、深呼吸する。
「ハァッ!」
気合と共に、右掌を鉄門に打ち当てた。
当たった場所から、門全体へと衝撃が波状に伝わっていく。
重い門扉にヒビが走り、粉々に四散した。
ガオコが砦内に入る。
広いスペースに男たちの機身が、ひしめいていた。
ズラリと並んだ彼らと、中央まで進んだガオコが相対する。
彼らが左右に割れ、大柄な男が現れた。
ハゲ頭の40代。
機身は改造されている。
「お前か、俺の手下に手を出したのは?」
男が問うた。
すると手下たちの中から、先刻、ガオコに捻られた丸鼻が「そいつです! 間違いありません!」と叫ぶ。
ハゲ男の顔が、怒りに歪む。
「そっちが悪事を働いたからさ」
ガオコが説明した。
「それは通らん。ここでは、このゲドウ様がルールだからな」
ゲドウが右手を挙げた。
「このバカ女をスクラップにしてやれ」
右手が下り、改造機身の男たちが怒号を上げ、ガオコに殺到する。
何も考えぬ野獣たちの突進に、ガオコは両手の高速連打で応えた。
打ち倒し、吹っ飛ばした敵を後ろの敵にぶち当てる。
それを繰り返し、機身を前進させるガオコの要所要所で放つ回し蹴りが、荒くれたちの四肢を壊し散らした。
ガオコの周りにゲドウ団の機身が、あれよあれよという間に山積みにされていく。
離れた入口から中を覗き込む少年少女たちの瞳が、希望にキラキラと輝いた。
今まで自分たちを虐げた者たちが、彼らのふるっていた容赦ない暴力を持ってしても、あっさりと敗れる様に、胸がすく思いがしたのだ。
ガオコはノーマルボディから煙のひとつも吹かず、恐るべき早技でならず者たちをぶちのめした、
電子頭脳を破壊され、データの海に帰った者も居る。
彼らが再び新たな機身で甦るかは、ガオコには預かり知らぬことだ。
少なくとも、ボディには機能停止をもたらす彼女の無慈悲な攻撃は、瞬く間に悪党どもを叩き、砕き、地に這わせた。
「おおお…」
瞳を大きく開き、部下たちの折重なった機身を見つめたゲドウが唸った。
ボディから煙も上げず、涼しい顔のガオコがハゲ頭のボスへと歩を進める。
その刹那。
横あいから突如、飛んできた男の飛び蹴りが、彼女を襲った。
「シッ」
吐息を洩らし、ガオコはキックをかわして、後方へ跳ぶ。
ゲドウを背に庇い、30代前半の青い髪の男が立っていた。
青い道着を着ている。
「遅いぞ、ジャズモ!」
ゲドウが怒った。
「この女の動きを見ていた」
ジャズモが笑う。
「なかなか速いな。ノーマルボディにしては強い」
スッと、斜めに構えた。
手招きで、ガオコを誘う。
「だが、おれには通用せん。経験も才能も機身も、全てお前を上回っているからな」
「試してみなよ」
ガオコも両手を前に出し、構えた。
2人が、にらみ合う。
ジャズモが突進した。
高速の左右の突きが、ガオコを襲う。
ガオコの両手が、打撃を巧みに受け流した。
しかし、ジャズモの攻撃は止まらない。
引き込むディフェンスにバランスを崩されることなく、次々と拳を繰り出した。
そのあまりの速さに、ガオコは防戦一方だ。
機腕が次第に、煙を吹き始める。
「フハハ! そのボディではな!」
笑ったジャズモの胴打ちからの回し蹴りが、ガオコの両腕ガードごと、彼女を吹っ飛ばした。
着地したガオコは勢いを殺せず、入口近くまで転がる。
ジャズモがガオコの前に走り、仁王立ちで見下ろした。
「勝負あったな。データの海に帰れ」
用心棒が右手を振り上げた、その時。
陰から走りだした少年少女たちが、ジャズモとガオコの間に立ち塞がった。




