1
荒れ果てた機械街の路地で鉄屑を拾い集める少年少女5人は作業に夢中になるあまり、いつの間にか人相の悪い10人の男たちに囲まれていた。
「逃げろ!」
リーダーのハヤトの叫びと共に5人は四方に散ったが、さすがに倍の人数を突破するのは叶わなかった。
ノーマルどころかロースペック機身の少年少女たちは、闇サイバー医師の改造したボディを持つ男たちに、四肢のいずれかを掴み上げられる。
「放せ!」
ハヤトが自由になる脚で男の1人の胸を蹴ったが、相手は鼻で笑っただけだ。
「屑鉄どもが、屑鉄を集めてやがる」
ハヤトを捕まえた男が嘲れば、他の男たちもドッと笑った。
ハヤトの仲間たちは皆、怯えている。
彼らに戦う術はない。
「そんなお前たちでも、まとめて売れば少々の金になる。オレたちの縄張りから、目障りなゴミも消えるしな」
ハヤトを掴む丸鼻の男が、少年少女たちのこれからの運命を告げた。
非力な彼らにも、ネットのバックアップは存在する。
しかし、データの海に逃げたとて、再び戻る機身は無く、デジタルゴーストになるのが関の山だ。
すなわち、ここで人生を終えるか、売り飛ばされた先で奴隷として生きるかの2択。
ハヤトは悔しさに歯噛みした。
「行くぞ」
丸鼻の男が仲間を促し、歩きだす。
「おい」
男たちの上方から、女の声がした。
ならず者たちが一斉に、そちらを見上げる。
鉄屑山の頂きに、1人の女が座っていた。
銀のボブヘア、切れ長の眼の娘だ。
機身は20代前半。
黄色に黒縞の道着を着ている。
「何だ、お前」
丸鼻が、すごんだ。
「オレたちがゲドウ団と知らないのか?」
「ゲドウ団?」
娘が首を傾げた。
「知らないね。あたしは、この街に来たばかりさ」
彼女は、鉄屑の斜面を滑り下りてくる。
「なるほど。バカに教えてやるよ。この街でオレたちに逆らうと、どうなるかをな!」
丸鼻が子供たちを捕らえていない5人に、顎で指図した。
5人が娘を囲む。
丸鼻が彼女の機身をジロジロと見つめた。
「どノーマルの身体か。お前も売り飛ばしてやる。痛めつけてやれ!」
1番、娘に近い男が、両手で掴みかかった。
娘の高速右ストレートが、男の顎を砕く。
バランスを崩した相手の胸を娘が蹴り、もう1人とぶつけた。
残った3人が唖然とする隙に、娘はスルスルと接近する。
諸手打ちした両拳が2人の顔面を砕き、最後の1人に右ハイキックを決めた。
頭部を破壊された4人はおろか、仲間にぶつかり、下敷きになった男もジタバタと立ち上がれない。
「な!?」
丸鼻が驚愕する。
「女! 何者だ!?」
「あたしはガオコ」
娘が名乗った。
「まさか、ノーマルボディで…お前も改造しているな!?」
「ああ。そうだね。設定は少し変えてる」
ガオコが頷く。
「ガキどもは、もういい! この女をやれ!」
ハヤトを放した丸鼻の指示に、4人の男は少年少女を自由にした。
彼らは鉄屑の陰に逃げる。
同時にかかってきた4人の拳をガオコはまるで魔法の如く避け、短打と肩をぶつけて転倒させた。
そして、残った丸鼻の顔面に高速の左パンチを放つ。
それを鼻先で止めた。
「ヒッ!」
丸鼻が、腰を抜かす。
「まだやる? データの海に帰りたいなら、相手になるよ」
丸鼻は悲鳴をあげ、四つん這いで逃げ去った。
それに、フラフラの男9人が続く。
「フッ」と笑ったガオコに、ハヤトたちが駆け寄った。
「姉ちゃん、強いね!」
「そうか?」
ガオコが右眉を上げた。
「まだ修行の途中さ」
「なのに、あんなに強いの!? すげー!」
少年少女たちの憧れの眼差しが、ガオコに注がれる。
「ノーマルボディなのに!」
「んー。さっきの奴らは何?」
ガオコが訊いた。
「ゲドウ団だよ。この辺じゃ、やりたい放題。誰も止められない。きっと、仕返しに来るよ」
ハヤトが表情を曇らせる。
「姉ちゃん、もう逃げた方がいいよ」
「いいや」
ガオコが首を横に振った。
「こっちから、あいつらに会いに行こう」
「え!?」
ハヤトたちが青ざめる。
「やめなよ! ゲドウの手下は大勢だし、1人、すごく強い奴が居るんだ!」
「強い奴?」
ガオコの瞳が、ギラッと光った。
「用心棒だよ。さっきの奴らより良い機身で、ずっとずっと強いんだ」
「それなら、なおさら行かないとね。奴らのアジトの場所を教えて」
ガオコは、ニヤリと笑った。




