エンディング
あすか:「皆様、最終ラウンドにふさわしい、それぞれの信念と未来へのメッセージ、誠にありがとうございました。ダーウィンさんの科学的探求心と自然への畏敬。ラマルクさんの生物の主体性と努力への賛歌。ペイリーさんの信仰と道徳の灯火。そしてスペンサーさんの進歩への揺るぎない確信。これらの言葉は、19世紀という変革の時代に投げかけられた問いの重さと、それに応えようとした巨人たちの熱量を、私たちに鮮やかに伝えてくれました」
(あすか、静かにクロノスタブレットを操作する。背景LEDには、これまでの四賢者の顔写真と、それぞれのキーワードがゆっくりと流れ、やがてそれらが融合していくような映像に変わる)
あすか:「皆様の時代から、およそ一世紀半以上の時が流れました。その間、科学は驚くべき速度で進歩し、皆様が情熱を注がれた『進化』というテーマもまた、新たな光と複雑さをもって私たちの前に立ち現れています」
(クロノスタブレットの画面が輝き、メンデルのえんどう豆の実験、ワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の模型、ヒトゲノム計画のイメージなどが次々と映し出される)
あすか:「ダーウィンさんがそのメカニズムを完全には解明できなかった『遺伝』の謎は、グレゴール・メンデルさんの法則の再発見と、その後のDNA構造の解明によって、分子レベルで理解されるようになりました。これにより、あなたの自然選択説は、ネオダーウィニズムとして、より強固な科学的基盤を得ることになります」
(ダーウィン、深く頷き、かすかに安堵の表情を浮かべる)
あすか:「そしてラマルクさん、あなたの『獲得形質の遺伝』という考えは、長らく顧みられることはありませんでしたが、近年、『エピジェネティクス』という新しい研究分野が注目を集めています。これは、遺伝子の配列そのものは変わらずとも、生活習慣や環境要因によって遺伝子の働きが変化し、それが子孫に影響を与える可能性を示唆するものです。もちろん、あなたの時代の説がそのまま証明されたわけではありませんが、生物と環境の相互作用、そして経験が世代を超えて何らかの影響を残すという視点は、再び科学の俎上に上りつつあるのかもしれません」
(ラマルク、驚いたように目を見開き、かすかな希望の色を瞳に宿す)
あすか:「ペイリーさん、あなたが問いかけられた『設計の巧妙さ』は、現代の生物学者たちをも魅了し続けています。例えば、バクテリアの鞭毛モーターのような、還元不可能な複雑さを持つとされる構造は、今もなお進化の過程を巡る活発な議論の的です。科学は、その複雑な構造が自然選択によって段階的に形成されうると説明しようと試みていますが、生命の精巧さに対する畏敬の念は、科学者であっても持ち続けるべきものかもしれません」
(ペイリー、静かに目を閉じ、神への祈りを捧げるかのような表情を見せる)
あすか:「スペンサーさん、あなたの『適者生存』という言葉は、良くも悪くも社会に大きな影響を与えましたが、現代の進化社会学や進化心理学は、人間の行動や社会構造の起源を、より洗練された形で進化論的に説明しようと試みています。そこでは、単純な競争だけでなく、ダーウィンさんも指摘された『協力』や『利他行動』の進化もまた、重要なテーマとなっています。社会の『進歩』とは何か、という問いは、今も私たちにとって最も困難な課題の一つです」
(スペンサー、腕を組み、興味深そうに頷きながらも、自説の普遍性を確信しているかのような表情は変わらない)
あすか:「このように、皆様が切り拓かれた問いは、形を変え、新たな知見を得ながら、今この瞬間も私たちの中で生き続けています。『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』。この根源的な問いに対する最終的な答えは、まだ誰にも分かっていません。しかし、一つだけ確かなことがあるとすれば、それは、私たちがこの問いを考え続ける限り、人間は人間であり続けられる、ということではないでしょうか」
(あすか、スタジオの対談者たち、そしてカメラの向こうの視聴者に、優しく、しかし力強い眼差しを向ける)
あすか:「ダーウィンさんが示されたように、私たち人間もまた、広大で美しい自然の一部です。ラマルクさんが願ったように、私たちには自らの意志で未来をより良くしようと努力する力が備わっているのかもしれません。ペイリーさんが教えてくれたように、目に見えるものだけが全てではなく、私たちの心には精神的な拠り所が必要なのかもしれません。そして、スペンサーさんが信じたように、私たちは絶えず変化し、未知なるものへと向かっていく存在なのかもしれません」
(あすか、一歩前に進み出て、その声には深い共感がこもる)
あすか:「今宵、時空を超えて集まってくださった四人の賢人たち。その魂のぶつかり合いは、私たちに多くの勇気と、そして謙虚さを教えてくれました。未来は、誰かに与えられるものではなく、私たち一人ひとりの選択と行動、そして絶え間ない対話によって、紡がれていくものです。この『歴史バトルロワイヤル』というささやかな試みが、皆様にとって、ご自身の物語を、そして私たちの共有する未来を考える、ほんの少しのきっかけとなったのなら、案内人としてこれ以上の喜びはございません」
(スタジオの照明が最も明るくなり、感動的な音楽がクライマックスへと向かう)
あすか:「チャールズ・ダーウィンさん、ジャン=バティスト・ラマルクさん、ウィリアム・ペイリーさん、ハーバート・スペンサーさん、この奇跡のような邂逅に、心からの感謝を申し上げます。あなた方の偉大な知性は、これからも私たちの道を照らし続けてくれることでしょう」
(四人の対談者たちは、それぞれの表情で、あすかの言葉に応える。ダーウィンは穏やかな笑みを、ラマルクは満足げな表情を、ペイリーは厳粛な頷きを、スペンサーは自信に満ちた会釈を返す)
あすか:「そして、この熱い戦いを見守ってくださった全ての視聴者の皆様、本当にありがとうございました! 『歴史バトルロワイヤル EVOLUTION WARS ~進化論頂上決戦~』、これにて閉幕とさせていただきます」
(あすか、深々と一礼する)
あすか:「また、いつか、どこかの時空で、新たな物語の声をお届けできる日まで。皆様、どうぞお健やかにお過ごしください。ごきげんよう!」
(あすかの最後の言葉と共に、スタジオは万雷の拍手(SE)に包まれる。四人の賢人たちは、一人ずつ、穏やかな表情で立ち上がり、それぞれのスターゲートへと静かに歩みを進める。スターゲートが青白い光を放ち、彼らの姿が光の中に消えていく。最後に残ったあすかもまた、視聴者に向かって一礼し、静かにスターゲートへと消えていく。背景LEDには、宇宙に浮かぶ地球が大きく映し出され、そこに「The story continues...」というメッセージが浮かび上がる)