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ラウンド2・前半:神の設計か、自然の選択か?~『種の起源』の衝撃~

(スタジオの照明が、真理の探求を象徴するような白と金色のトーンに変化。背景LEDには、複雑な歯車が組み合わさった機械のようなイメージと、美しい蝶の羽の拡大図などが交互に映し出される。中央には「ROUND2神の設計か、自然の選択か?」という文字が輝く)


あすか:「皆様、ラウンド1では『生命は変化するのか』という根源的な問いに対し、熱い議論が交わされました。そして今、私たちはその核心へとさらに踏み込みます。もし生命が変化するのだとしたら、その驚くべき多様性、そして時に信じがたいほど精巧な体のつくりは、一体どのようにして生まれたのでしょうか?ラウンド2のテーマは、『神の設計か、自然の選択か?~『種の起源』の衝撃~』です!」


(あすか、ダーウィンに穏やかな視線を向ける)


あすか:「ダーウィンさん、あなたの著書『種の起源』で提唱された『自然選択説』は、まさにこの問いに対する一つの答えとして、世界に衝撃を与えました。改めて、その自然選択というメカニズムの骨子を、そしてそれを導き出すに至った観察について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか?例えば、かの有名なビーグル号での航海でご覧になったことなど…」


(クロノスタブレットにあすかが触れると、ダーウィンの席の前にガラパゴス諸島の地図や、様々なフィンチの嘴のスケッチがホログラムで浮かび上がる)


ダーウィン:(席に座り直し、少し前かがみになって、落ち着いた、しかし熱意を込めた声で語り始める)「ありがとうございます、あすかさん。自然選択説は、決して複雑怪奇なものではございません。むしろ、単純な原理の積み重ねなのです。まず、生物には個体差、つまり『変異』があることは皆様ご存知の通りです。同じ親から生まれた兄弟姉妹でさえ、姿形や性質は少しずつ異なりますね」


(ダーウィン、周囲を見渡し、特にペイリーに視線を送る)


ダーウィン:「そして、これらの変異の一部は、親から子へと『遺伝』する傾向があります。次に重要なのは、生物は、その環境で生存し繁殖できる数よりも、はるかに多くの子供を産むということです。つまり、そこには必然的に『生存競争』が生じます。限られた資源、捕食者の存在、厳しい気候…生き残るための闘いです」


(ダーウィン、浮かび上がったフィンチの図を指し示しながら)


ダーウィン:「ここで、ガラパゴス諸島での経験が重要になってまいります。あの諸島では、島ごとに環境が微妙に異なり、そこに生息するフィンチという小鳥たちの嘴の形が、驚くほど多様であることに気づきました。ある島のフィンチは硬い種子を割るのに適した太く短い嘴を持ち、別の島のフィンチは昆虫を捕らえるのに適した細長い嘴を持つ…といった具合です。これは一体何を意味するのか?私はこう考えました。それぞれの島で、たまたまその島の食物環境に適した嘴の『変異』を持った個体が、他の個体よりもわずかに生存しやすく、より多くの子孫を残すことができたのではないか、と。このプロセスが何世代にもわたって繰り返されることで、それぞれの島で特徴的な嘴を持つフィンチの集団が形成された。これが『自然選択』、あるいはスペンサーさんが的確に表現された『適者生存』の基本的な考え方です」


(ダーウィン、少し息をつき、言葉を続ける)


ダーウィン:「これは、私たちが家畜や農作物の品種改良で行っている『人工選択』と非常によく似ています。人間が、自分にとって都合の良い形質を持つ個体を選んで交配させ、望みの品種を作り出すように、自然界では、環境が『選択者』となり、その環境で生き残るのに有利な形質を持つ個体を選び出していくのです。そこに、超自然的な力や、あらかじめ定められた計画は必要ありません」


あすか:「変異、遺伝、生存競争、そして自然選択…。ダーウィンさんのご説明は、具体的な観察に基づいており、非常に説得力がありますね。人工選択とのアナロジーも分かりやすいです。しかし、この『目的のない選択』という考え方に、真っ向から異を唱えられるのが、ペイリーさん、あなたですね。ダーウィンさんのご説明を聞かれて、いかがでしょうか?」


ペイリー:(ダーウィンの説明の間、じっと目を閉じて聞いていたが、ゆっくりと目を開き、厳かな、しかし力強い声で反論を始める)「ダーウィン殿の観察力と、それを体系化しようとする熱意には敬服いたします。フィンチの嘴の些細な違い、あるいは家畜の品種改良…それらは確かに興味深い現象でしょう。しかし、それをもって、生命全体の、そして何よりも人間の眼球のような、かくも精巧で複雑な器官の成り立ちまで説明できるとお考えになるのは、あまりにも飛躍が過ぎると言わざるを得ませんな!」


(ペイリー、手にしていた分厚い書物(『自然神学』)をテーブルに置き、両手を広げて語気を強める)


ペイリー:「ここに、一本の時計があるとしましょう。道端で偶然これを見つけたとします。その時計が、歯車やバネ、針といった部品が精巧に組み合わされ、時を刻むという明確な目的のために機能しているのを見たならば、我々は誰しも、これを作った時計職人がいたに違いない、と考えるでしょう。その部品が偶然に集まり、偶然に組み合わさり、偶然に時を刻み始めたなどと考える者はおりますまい!」


(ペイリー、ダーウィンを真っ直ぐに見据える)


ペイリー:「さて、ダーウィン殿。人間の眼はどうでしょう?レンズがあり、虹彩があり、網膜があり、視神経がある。光を集め、像を結び、それを脳に伝えるという、見るという明確な目的のために、完璧に調和して機能している。この眼という驚くべき器官が、あなたが言うような『たまたまの変異』と『目的のない自然選択』の積み重ねだけで生じ得ると、本気でお考えか!それは、時計が偶然にできると信じるよりも、さらに荒唐無稽な話ではございませんか!」


(ペイリー、声を一段と張り上げ)


ペイリー:「フィンチの嘴のわずかな違いは、時計の表面の些細な装飾の違いに過ぎません!しかし、眼の構造、あるいは鳥の翼の構造、昆虫の変態…自然界に満ち溢れるこれらの驚異的な仕組みは、全て、それらを設計し、創造した偉大なる知性、すなわち神の存在を雄弁に物語っているのではありませんか!これを『設計論(ArgumentfromDesign)』と申します!」


ラマルク:(ペイリーの熱弁に、腕を組みながらも少し頷き)「ふむ、ペイリー殿の『時計の比喩』は、確かに分かりやすい。ダーウィン君の言う『偶然』に全てを委ねてしまうのには、私も抵抗がある。やはりそこには、何らかの目的や方向性…私が言うところの『生命の火花』とでも言うべきものが働いていると考える方が自然ではないかね?」


スペンサー:(ペイリーの言葉を冷ややかに聞き流し、ダーウィンに助け舟を出すように)「ペイリー先生の雄弁には感服しますが、それは科学的な説明というよりは、信仰告白に近いものですな。『神が設計した』と言ってしまえば、そこで思考は停止してしまう。ダーウィン君は、その『どのようにして』というプロセスを、観察可能な現象から説明しようとしている。そこが決定的に違う。その『時計』が、最初から完璧な形で出現したのではなく、もっと単純な光を感じる斑点のようなものから、気の遠くなるような時間をかけて、少しずつ改良されてきた可能性は考えられないのですかな、ペイリー先生?」


あすか:「ペイリーさんの『時計職人の比喩』、そして『設計論』は、非常に強力な反論ですね。ダーウィンさん、人間の眼のような複雑な器官が、目的のない自然選択だけで生じうるというご主張に対し、ペイリーさんは『荒唐無稽だ』とまで仰っています。これに対して、どのようにお答えになりますか?スペンサーさんも示唆されましたが、時間の経過という要素は、どのように関わってくるのでしょうか?」


ダーウィン:(ペイリーの気迫に臆することなく、冷静に、しかし確信を持って言葉を返す)「ペイリー先生の『時計の比喩』は、確かに巧みで、多くの人々の心に響くものでありましょう。そして、人間の眼のような器官が、現在の完成された形で、一朝一夕に偶然生まれたなどとは、私も考えておりません。それは不可能です」


(ダーウィン、少し間を置き、言葉を選ぶように続ける)


ダーウィン:「しかし、スペンサーさんが仰ったように、時間のスケールが重要なのでございます。私たちが日常で感じる時間とは比較にならない、地質学的とでも言うべき、何百万年、何千万年という長大な時間の中で、ほんの僅かな、しかし生存に有利な変化が積み重なっていった結果として、現在の複雑な眼も形成され得ると考えます」


(ダーウィン、クロノスタブレットに浮かんだ眼の単純な構造から複雑な構造へと変化する図解を指し示す)


ダーウィン:「例えば、最も原始的な眼は、おそらく光の明暗を感知できる程度の、皮膚にある色素の斑点のようなものだったかもしれません。それでも、光のある方向が分かるというのは、生存にとって大きな利点です。その色素の斑点が、たまたま少し窪んで、光の方向をより正確に捉えられるようになった個体が、さらに有利になる。その窪みが深まり、やがて水晶体のようなレンズの役割を果たす透明な組織が覆い…といった具合に、それぞれの段階で、ほんの僅かでも機能が改善され、それが生存と繁殖に有利に働くならば、自然選択はそのような変異を保存し、積み重ねていくでありましょう」


(ダーウィン、ペイリーに再度向き直り)


ダーウィン:「重要なのは、それぞれの進化の段階における『不完全な眼』であっても、それが全く眼がない状態よりは有利であるということです。ペイリー先生は完璧な時計を例に出されましたが、針が一本しかない時計でも、全く時計がないよりはましでしょう。自然選択は、常に相対的な有利さに基づいて働くのです。そして、その積み重ねが、あたかも熟練した職人が設計したかのような、驚くほど精巧な構造を生み出す力を持っているのだと、私は信じております」


ペイリー:(ダーウィンの説明に、眉間のしわを深くしながら)「ダーウィン殿、あなたは『気の遠くなるような時間』と『ほんの僅かな有利な変化の積み重ね』と仰るが、それはあまりにも都合の良い仮定に満ちていませんかな?その『ほんの僅かな有利な変化』が、都合よく次々と現れ、都合よく積み重なっていくという保証はどこにあるのです?それこそ、無数のサイコロを振り続け、偶然にも全てのサイコロが同時に六の目を出すのを待つようなものではありませんか!そのような奇跡の連続を、『自然』という名で呼ぶのは、言葉遊びに過ぎません!」


ラマルク:(もどかしそうに)「そうだ、ダーウィン君!やはり君の説には、生物自身の主体的な努力や、環境への能動的な適応という視点が欠けている!光を感じる斑点を持つ生物が、もっとよく見たいと『願い』、その器官を使おうと『努力』することで、初めてその器官は発達し、次の世代へとより良い形で受け継がれていくのではないのかね!『偶然』と『選択』だけでは、生命の力強さ、その創造性を見誤ってしまうぞ!」


あすか:「ダーウィンさんの『段階的進化』と『時間の力』という反論に対し、ペイリーさんからは『都合の良い仮定に満ちている』、ラマルクさんからは『生物の主体性の欠如』という厳しいご指摘がなされました。ダーウィンさんの自然選択説の根幹が、今まさに問われていますね…」


(スタジオの緊張感が一段と高まる。ダーウィンは静かに反論の言葉を探し、ペイリーは揺るがぬ信念の表情を浮かべ、ラマルクはもどかしげに腕を組み、スペンサーは次の展開を待つように鋭い視線を送っている。)

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