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ラウンド1・前半:生命は変化するのか?~進化思想の萌芽と自然の観察~

(オープニングの興奮冷めやらぬ中、スタジオの照明が落ち着いた知的なブルーに変わり、背景LEDには「ROUND1:生命は変化するのか?」という文字と、古代の化石や原始的な生物のイメージ映像が映し出される)


あすか:「さあ、皆様、いよいよ最初の論戦のゴングが鳴り響きました。ラウンド1のテーマは『生命は変化するのか?~進化思想の萌芽と自然の観察~』。ダーウィンさんが『種の起源』で世界を揺るがす以前から、生物のあり方については様々な考察がなされてきました。そもそも、私たちが目にしている多種多様な生き物たちは、太古の昔から全く変わらぬ姿で存在し続けてきたのでしょうか?それとも、悠久の時の流れの中で、その姿を変えてきたのでしょうか?」


(あすか、クロノスタブレットを操作し、ラマルクの席の前にスポットライトを当てる)


あすか:「この根源的な問いに対し、ダーウィンさんよりも早く、生物は変化するという革新的な考えを体系的に提唱されたのが、ジャン=バティスト・ラマルクさんです。あなたの『用不用説』、そして『獲得形質の遺伝』という考えは、まさに当時の常識に挑戦するものでした。ラマルクさん、まずはあなたのお考えの核心を、熱く語っていただけますでしょうか?」


ラマルク:(待ってましたとばかりに、ぐっと身を乗り出し、力強い声で)「もちろんですとも、あすか嬢!そして、ここにいる皆さんにもはっきり申し上げておきたい!生物は断じて、石ころのように不変な存在などではない!生きているのだ!環境からの刺激を受け、自らの内に秘めたる生命力によって、絶えず変化し続ける存在なのです!」

(ラマルク、こぶしを握り、熱っぽく続ける)

ラマルク:「私の『用不用説』とは、実に明快な原理です。生物が特定の器官を頻繁に、そして強力に用いるならば、その器官は次第に発達し、強化される。逆に、用いられない器官は衰え、ついには消滅することさえある!例えば、キリンのあの長い首!あれは、より高い木の葉を食べようと、何世代にもわたって首を伸ばす努力を続けた結果、獲得された形質なのです!あるいは、沼地で獲物を探す水鳥の長い脚!あれも、体を濡らさぬよう脚を伸ばし続けた努力の賜物!」


ダーウィン:(穏やかに聞きながらも、少し眉をひそめ、小さく首を傾げる)


ラマルク:「そして最も重要なのは、こうして個々の生物がその生涯で獲得した素晴らしい形質、努力の結晶が、子孫へとしっかりと受け継がれていくということ!これが『獲得形質の遺伝』です!これなくして、どうして生物が環境に適応し、より複雑で完璧な方向へと進化していけるというのかね、ダーウィン君!」


(ラマルク、最後にダーウィンに鋭い視線を向ける)


あすか:「キリンの首や水鳥の脚…なるほど、非常に分かりやすい例えです。生物自身の『努力』が形となり、それが次の世代に伝わる…。ラマルクさんの説は、生命のダイナミズムを感じさせますね。さて、このラマルクさんの情熱的なご説明に対し、ダーウィンさん、あなたはいかがお考えですか?ラマルクさんの言う『用不用説』そして『獲得形質の遺伝』、これは生物の変化を説明する上で、十分なものと言えるのでしょうか?」


ダーウィン:(ゆっくりとラマルクに視線を向け、丁寧な口調で話し始める)「ラマルク先生の先駆的なお仕事には、心から敬意を表します。生物が固定されたものではなく、変化しうるという視点を明確に示されたことは、非常に大きな功績です。しかしながら…そのメカニズムとして提唱された『用不用説』、そして特に『獲得形質の遺伝』につきましては、私自身、長年の観察と実験を通して、いくつかの疑問を抱かざるを得ませんでした」


ラマルク:(腕を組み、不満げに鼻を鳴らす)「ほう、疑問とな?具体的に聞かせてもらおうじゃないか、ダーウィン君」


ダーウィン:「例えば、鍛冶屋の腕は確かに太く強靭になりましょう。しかし、その鍛冶屋の子供が、生まれながらにして父親と同じように太い腕を持って生まれてくるでしょうか?あるいは、事故で尾を失った犬の子が、尾のない状態で生まれてくるという証拠はあるでしょうか?私が知る限り、そのような後天的に獲得された形質が、安定して子孫に遺伝するという確固たる証拠は、残念ながら見出すことができませんでした」

(ダーウィン、少し間を置いて続ける)

ダーウィン:「キリンの首の例も、興味深いですが、別の解釈も可能ではないでしょうか。キリンの群れの中に、たまたま少しだけ首の長い個体がいたとします。そして、乾季になり低い場所の草が枯渇した際、そのわずかに首の長い個体だけが、他の個体よりも高い場所の葉にありつき、生き延び、子孫を残す機会に恵まれた…そのようなことが何世代も繰り返された結果、徐々に首の長いキリンが主流になった、とは考えられないでしょうか?」


ラマルク:(顔をしかめ、やや声を荒らげて)「たまたま、だと!?ダーウィン君、君は生命の神秘を、そんな行き当たりばったりの『偶然』に帰してしまうのかね!生物が持つ、環境に適応しようとする内なる力、絶え間ない努力をあまりにも軽視しているのではないかね!それではまるで、風に吹かれる木の葉ではないか!」


スペンサー:(二人のやり取りを興味深そうに聞いていたが、ここで口を挟む)「ふむ、ラマルク先生の言う『内なる力』というのも魅力的ではあるが、ダーウィン君の言う『たまたま有利な形質を持つものが生き残る』という視点も、なかなかどうして、私の言う『適者生存』の萌芽を感じさせるじゃないか。どちらも、生物が環境と無関係ではいられないという点では一致しているようだ」


ペイリー:(それまで黙って三人の話を聞いていたが、ここで静かに、しかし威厳のある声で口を開く)「お言葉を返すようですが、スペンサー殿。そして、ラマルク殿、ダーウィン殿。お二人の議論は、そもそも根本的な前提において、大きな見誤りを犯しておられるように私には聞こえますな」


あすか:「ペイリーさん。と申しますと…?」


ペイリー:「お二人は、生物が『変化する』ということを、当然の前提として語っておられる。ラマルク殿は生物自身の努力で、ダーウィン殿は…その…『たまたま』の積み重ねで、と。しかし、私は問いたい。そもそも、なぜ生物がかくも大きく姿を変える必要があるのですか?神が、この世界をお創りになった時、それぞれの生物は、それぞれの役割と場所に最もふさわしい、完璧な姿で創造されたのではなかったのですか?」


(ペイリー、ゆっくりと周囲を見渡し、特にダーウィンを真っ直ぐに見つめる)


ペイリー:「ライオンにはライオンの、小鳥には小鳥の、そして人間には人間の、それぞれ与えられたる姿と本性がある。それらは悠久の時を経ても変わることのない、神聖なる秩序の一部です。それを、環境が変わったから、努力したから、あるいは『たまたま』で、別のものに成り代わるなどと考えるのは、創造主の完璧なる計画に対する冒涜とさえ言えるのではないでしょうか?」


ラマルク:(ペイリーの言葉に、カッと目を見開き)「冒涜だと、ペイリー殿!?あなたは、この動的で、変化に満ちた自然界の姿を見て、なおも生物が石のように固定された存在だとおっしゃるのか!それこそ、生命に対する冒涜だ!生物は生きている!常に環境と対話し、より良きもの、より完璧なるものへと向かう衝動を内に秘めているのだ!」


ダーウィン:(ペイリーの言葉に、静かに反論する)「ペイリー先生のおっしゃる『完璧な創造』というお考えは、確かに魅力的です。私も若い頃、先生の著作を拝読し、自然界の精緻な構造に神の御業を感じたこともございました。しかし…」

(ダーウィン、少し言葉を選ぶように続ける)

ダーウィン:「しかし、ビーグル号での航海の途中、南米の各地で発見した化石の数々…それらは、現生の生物とよく似ていながらも、明らかに異なる特徴を持っていました。また、ガラパゴス諸島のような、近接していながらも環境の異なる島々では、同じ種類の鳥でありながら、嘴の形や大きさが島ごとに僅かに、しかし明確に異なっていることを発見したのです。もし各種が完璧な形で創造されたのであれば、このような地理的な変異や、過去の生物と現在の生物との連続性、そして不連続性は、どのように説明できるのでしょうか?」


あすか:「化石の記録、そして地理的な変異…。ダーウィンさんの具体的な観察例は、ペイリーさんの『種の不変性』というお考えに、鋭く問いを投げかけますね。ペイリーさん、これに対してはいかが反論されますか?」


ペイリー:(ダーウィンの言葉を冷静に受け止め、少し顎に手をやりながら)「ダーウィン殿の観察眼には敬服いたします。確かに、化石の中には現生の生物と異なる形態のものが見られますし、地理的な変異も存在しましょう。しかし、それは必ずしも『種が変わった』ということを意味するものではありません。それは、あくまで同一の『種』の範囲内での変異、いわば神がお許しになった多様性の範囲内での揺らぎに過ぎないのかもしれません。あるいは、それらの化石は、ノアの洪水のような大変動によって絶滅した、我々がまだ知らない別の『種』の残骸である可能性もございます」

(ペイリー、確信を込めて続ける)

ペイリー:「一つの種が、全く別の種に変わるなどということは、自然の秩序を乱すものです。犬がどれほど多様な品種に分かれようとも、犬は犬であり、猫にはなりません。その基本的な『型』、神がお定めになった『設計図』は不変なのです。ダーウィン殿の観察されたフィンチの嘴の違いも、あくまでフィンチという『型』の中での適応であり、フィンチが別の種類の鳥に変わったわけではありますまい」


スペンサー:(ペイリーの言葉に、やれやれといった表情で肩をすくめ)「ペイリー先生、失礼ながら、その『神の設計図』というお話は、いささか議論を停滞させてしまうように思えますな。我々は、観察可能な現象とそのメカニズムについて語り合っているのであって、信仰の是非を問うているわけではない。ラマルク先生もダーウィン君も、少なくとも生物が何らかの形で環境に適応し、変化するという現象そのものは捉えている。問題は、その『どのようにして』という部分でしょう」

(スペンサー、得意の表情で続ける)

スペンサー:「そして、その『どのようにして』という問いこそが、私の言う『進化』の法則へと繋がっていくのです。ラマルク先生の言う『努力』も、ダーウィン君の言う『有利な変異の選択』も、見方を変えれば、より環境に適したものが生き残り、そうでないものが淘汰されるという、より大きな原理の一側面と捉えることができる。そう、それこそが『適者生存』なのです!」


あすか:「ありがとうございます、スペンサーさん。ラマルクさんとダーウィンさんの議論に、ペイリーさんの神学的視点からの鋭い指摘、そしてスペンサーさんの包括的な視点が加わり、早くも議論は多角的に展開し始めました。ラマルクさんの『用不用説』、ダーウィンさんの観察に基づく疑問、ペイリーさんの『種の不変性』、そしてスペンサーさんの『適者生存』…。生命は変化するのか、しないのか。もし変化するとすれば、その力は何なのか。最初の問いは、ますます深まっていきますね」


(あすか、クロノスタブレットに表示された論点を指し示す。スタジオの緊張感は保たれたまま、最初のラウンドが核心に迫っていく)

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