第7話"覚悟"
西部戦線編1章、全然終わりませんでした。
「英志さん!透也!」
「...?風夏さん?先程休めと言ったのになぜここに...っ!?」
「風夏、お前...なんで、え?さっきお前、撃たれたはずじゃ...」
「えぇ...でも、治してもらった」
「え...?」
「いえ、そんな事起こりえません。何をしたのか知りませんが、大人しく休むべきで...」
さっきまでボロボロだったのに、なぜか急に五体満足で前線に戻ってきた風夏を見て、透也も英志さんもかなり動揺していた。ま、そりゃそういう反応になるわな...
「...2人とも、俺のことを忘れてるんじゃないか?」
「...?...!?なっ、あなた...」
「君は...零君!?なぜここに...」
「3等兵軍医楠木零、ただいま前線に到着しました!」
「...なに、それ?」
「え、こういう礼式とかないのか...?」
前世(と言っていいのかは分からないが)、何かしらの漫画で見た覚えのあるセリフを言ってみたが、この世界にはそういう文化はなかったらしく、なんか白けてしまったが...まぁいい。
「基地の方の人たちは治療が終わった。ここからは、前線のサポートに入るよ」
貰ったサブマシンガンを構えつつそう言うと、透也が見たことないくらい引きつった顔でこちらを見ていた。
「...変顔か?」
「ふざけてる場合じゃないんですよ!?あなたに死なれたら僕がどれだけ怒られると思ってるんですか!?頼むから基地で大人しくしててください!!」
「零君...気持ちはありがたいが、透也の言う通りだ。ここは危険すぎる、今すぐ基地に戻るんだ!」
あ〜、2人とも(透也は微妙だけど)俺の心配してくれてるのか...ほんと、優しい人たちだな。
だが...そういう論点で言えば、俺なんかよりよっぽどみんなのが危ないことをしている。なんせ...
「俺は死なねぇから大丈夫。傷もすぐ治るから」
「え...?って、まさか!?あなたのスキル、あなた自身にも影響を及ぼすのですか!?」
「おう。だから、俺はほぼ不死身みたいなもんだぜ」
「はぁ!?なんですかそれ!?とんだ戦況の破壊神じゃないですか!?」
「...それは褒め言葉として受け取っていいよな?」
「...!!だとしても、あなたの参加を認めることはできません...!」
「はぁ!?いいだろ別に、死なないんだから!!」
と言い争っていると、英志さんの叫び声が聞こえた。
「...!!2人とも、砲撃が来るぞ!!」
そう言われ空を見上げると、巨大な黒い塊がこちらへ向かって飛んできているのが見えた。
「なんだありゃあ!?」
「...!!チッ、しょうがない人ですね、あなたは...!!」
ドカアアアァァァァン!
その塊は、空中で少しずつ落下を始めたあたりのタイミングで、透也の狙撃によって撃ち抜かれ...そのまま空中の高い位置で爆散した。
「うぉ、すっげ...!」
今まで見たことのない、リアルかつ巨大な爆発に思わず見とれてしまった。
そんな俺を見ながら、透也は呆れたような顔をしていた。
「...零さん、あなたは最前線から少し引いた位置から、タンクに向けて回復を与え続けなさい。それだけで、相手はそのうち撤退を余儀なくされるでしょう」
「...!あぁ、分かった!!」
「くれぐれも死ぬんじゃありませんよ!!」
「任せろ!」
俺はその場から5歩ほど下がる。そして...あたりの様子を確認する。
味方の陣形は、タンクが全員一列に並んで、前で攻撃を受け止めている。そして、その裏から射手がサブマシンガンで相手に攻撃を加えている。
全員が一列に並び、とても広く綺麗な陣形だった。
そして、そこには...
「...射手のほとんどは、見覚えのあるヤツらだな...」
俺が治療した兵士たちが、懸命に撃ち合いに参加している。その様は、さっきまで怪我で身も心も打ち砕かれていたとは到底思えないほど生き生きしていた。
それに対して、相手の陣形は...
「くそっ、なんとか立て直せ──ぐあぁっ!」
「タンク、早く前に...ぎゃぁっ!」
なんというか...ぐっちゃぐちゃだった。
なぜかタンクが少し引いた位置にいて、射手が前に出ていた。それだけでも意味がわからないのに、どうやら今陣形を組み直しているようで...全員大混乱に陥っているように見えた。
人数が多い故の弊害...なのだろうか?指示が通りにくいからか、全然思うように動けていないらしい。
こんな状態で、対抗なぞ出来るわけもなく...
「射手、総攻撃だ!」
「「「「おう!!!!」」」」
ドドドドドドドドドドドッ!
「うわぁっ!」
「ぐはっ!」
「がはっ!」
前方でまごついている射手たちを軒並み撃ち抜いていく。
この戦場は、今や完全に味方が支配していた。敵を圧倒し、味方はほぼノーダメージのまま、どんどん敵の数を減らす。こりゃ、もう俺の出番はなさそうだな...
そう思っていたが、俺の出番は思ったよりも早くにやってきた。
キュン!
「!?ぐはっ...!」
「...!」
味方タンクの1人が、突然大量に出血しながら倒れた。
なんだ、今何が起きたんだ...?
「とりあえず...俺の出番だな!」
急いで撃たれたタンクの近くへ行き、サブマシンガンでタンクを撃つ。すると、途端にさっきまで大量出血していた箇所の傷は塞がり、元通りとなる。
ただし...突然の大量出血で意識が飛んでいるため、即復帰はできない。倒れたままになっていると邪魔になるので、その人を引きずって少し引いた位置まで下げた。
「ふぅ...なるほどな、これが俺のやるべき仕事ってわけか」
前線での初仕事だったが...そこまで難しくなさそうだな。やること自体はシンプルだし...
それより、問題は...今の攻撃は、なんだったんだ?急に倒れたが...
「零さん、今のは狙撃手です」
「え...?狙撃手?」
さっきまで前線で戦っていた透也が俺のいる位置まで下がってきて、教えてくれた。
「狙撃手は...まぁ、名前の通り狙撃をする人です。射程が長く、連射できない単発の狙撃銃を使用する、後衛ポジションの兵ですね」
その辺の認識は、前世と大して変わらないようだな。まぁ...ひとつ、違うことがあるが。
「狙撃手は、基本狙撃手向けの加護もしくはスキルを持っている可能性が高いです。射程が伸びるなり、視力がいいなり...ですので、狙撃手の人によって、得意とする間合いやシチュエーションが全然違います」
「なるほど...」
前世にはなかった概念である、加護とスキル。これらを駆使して狙撃してくるとは、恐ろしい限りだ。しかも、その加護とスキルは十人十色であり、対策すら不可能という鬼畜システム...本当に恐ろしい世界だな...
「狙撃手は、射程が長いのは当然なのですが...使用する銃と、先程も言った通り、狙撃手の腕次第でそのステータスは大きく変動します」
「ステータス...?」
「弾速重視の銃か、威力重視の銃か...これによって、高い命中率と手数を誇る、後方から前衛の援護をする軽量級狙撃手になるか、たった一撃で相手の前衛タンクを撃ち抜く重量級狙撃手になるかが変わります」
「なるほど...」
この世界の、戦争における役割はかなり複雑だ。色んなポジションや、使用する銃の種類によって役割が分けられ...さらに、その役割の中にも、こうして細かく分類されることもある。
かなり難しいが...これを覚えておけば、相手の役割が何か把握できるし、そこから相手の弱点が見えてくるのだ。
ま、そんな高等技術を身につけるのは、俺にはまだ先の話だが...
「とにかく...相手には、重量級狙撃手が後ろに控えてるってことだな?」
「そうですね。味方のタンクが疲弊していたとはいえ...装甲ごと一撃でぶち抜くほどの火力を持っていました。そこから考えるに、恐らく連射はないでしょうが...脅威たりえますね。どうにかして排除すべきでしょう」
排除...といっても、どうやってやるんだ?
「ふむ...ではここで問題です。狙撃手を倒す時、ある決まった手順で倒すことができないと、一生倒せないと言われています。その手順はどんな感じか、考えてみてください」
「...?急になんだ?」
「あなたを戦争に慣れさせるためです。こういった戦場において大切なことは...自分で生き延びるために考えることですから」
「...なるほど...」
といっても、今も戦争中だし、なんなら俺のちょっと前ではバリバリ撃ち合いが続いているわけだが...
まぁいいか、考えてみよう。
「えっと...まず、相手の位置を把握する」
「どうやって?」
「それは...一発撃たせるしかないよな?」
狙撃手は、基本遠くから狙撃してくる。だから、肉眼で探すことは不可能に近いが...一発撃たせれば、どこから撃ってきたのか大体わかる。だから、これ以外に方法はないだろう。
「そうですね、正解です。次は?」
「えっと...近寄る?」
「まぁ...あながち間違いでもありませんが、今回はそのような方法は適しません。なぜだか分かりますか?」
「...相手の狙撃手が、敵陣の後ろの方にいるから、近づけないのか」
仮に狙撃手と1vs1をするのなら、近寄るのが一番手っ取り早い。近寄ってしまえば、単発の向こうより、連射できるこちらの方が有利だからだ。
ただ、今回はそうではない。軍と軍の戦争であり、狙撃手は多くの前衛・中衛に守られ、その遥か後方から狙撃している。近づくのは至難の業といってもいいだろう。
「じゃあ...うーん、どうすればいいんだ...?」
「やはり分かりませんか...まぁ、仕方ないでしょう。僕が今からお手本を見せます」
「お手本...ってことは、お前狙撃手を倒せるのか!?」
「馬鹿にしているのですか?僕にかかれば、狙撃手1人くらい赤子の手を捻るように殺せますよ」
「...!!」
殺す...殺す、か...
俺が心の底から嫌いな言葉のうちのひとつだ。授かった生命を、確固たる意志を持って消すなんて...医者である俺は、そんなことは到底許されざる行為だ。
だから、俺は殺すという言葉が嫌いでならない。日常で気軽に使っているのを聞くと、心底気分が悪くなる。
だが...
ここは、戦争の世界。殺さなければ、いつか殺される。だから...殺す。
そういう世界なのだ。なんのためらいもなく、たった1発の銃弾で、人を殺す。命を奪う。
そんな...最低な世界。
「...いつか俺も...人を殺す日が来るのだろうか?」
そんな日は来てほしくない。誰の命も、奪いたくなんてない。俺はいつまでも...人の命を救う、医者で在りたいから。
「さて...なんにせよ、もう1発撃ってもらう必要がありますね」
「...?なんでだ?さっきもう1発撃っただろ?」
「残念ながら、時間が経ちすぎました。今頃、場所を変えてしまっている頃合でしょう」
「あ、確かに...」
狙撃手は、位置がバレたらかなり不利になる。だから、撃ったあと移動するのは当然といえば当然か。
「さて...撃ってくるまでは待機、ですかね」
「あぁ、そうだな...」
「暇ですし、僕は前線の撃ち合いに戻りますが...あなたは、狙撃で撃ち抜かれた味方をすぐ治療できるよう、しっかり待機しておいて下さい」
「あぁ。わかった」
透也は再び、タンクの後ろから相手へ向かってサブマシンガンで容赦なく撃ちまくっていた。
というか...いつの間にか、相手の陣形が変わっている。さっきまでのぐちゃぐちゃではなく、相手もうちみたいに綺麗に列になり、タンクが前で攻撃を受け、裏から射手が攻撃してきている。
「...こうして見ると、加護とスキルってほんとやべぇ能力だな...」
前で攻撃を受け止めているタンクは、何発打たれても動じていない。それは、装備が頑強であることも影響しているのは間違いないが...最大の要因は、加護もしくはスキルにある。
なんせ、加護かスキルによって、全身の耐久力を向上させたり、弾丸を通さない体質になれたりもするらしいからな...
「...さて、そろそろまた狙撃が来てもおかしくない頃合いだと思うが...」
かなり時間が経ったし、移動して次の対象に狙いを定めていてもおかしくはない。いつ来てもいいよう、全体を見て待機しておこ──
ドッ!
「!!来た!」
視界の左端、血飛沫を上げて倒れるタンクの姿が目に映る。そして、同時に...
高速で敵陣奥から伸び、一瞬で消えた閃光も。
「透也!狙撃手は敵陣奥右側にいる!右から狙撃が飛んできてた!」
「了解です。さぁ...これで、終わりにしましょう」
透也は、さっきまで使用していたサブマシンガンを片付け、代わりに背中にかけていた銃を構える。
サブマシンガンに比べ、銃身が遥かに長く、スコープがしっかりしている。この世界で、実際に見るのは初めてだが...それでも、これが何か分かった。これは...
まさしく、狙撃銃だ。
「...ここです」
ダァン!
透也は、タンクたちの陰から、敵陣後方右奥あたりめがけ、一発の弾丸を撃つ。その1発は、わらわらと前線で隊列を組む敵兵たちの頭上を通過し──隊列のはるか後方へと一直線に飛んでいく。
「...当たったのか?」
放たれた弾丸は、途中で視界から消えてしまったためどこに行ったのかは分からないが...
「当たりましたよ。頭に直撃です」
「...!!ということは...」
「死んだでしょうね。多分、即死です。任務完了です、よくやりましたね」
透也は、告げる。あまりにも冷たく、機械のような声で。
それは、その言葉は...透也にとっては、なんの意味ももたない言葉。ただ、事実を俺に報告するためだけの、ありふれた言葉。
でも...その一言は、俺にとっては...精神を抉るのに最適な言葉のひとつだった。
「...他に、方法はなかったのか...?」
「ありません。一撃で殺さなければ、かえって苦しめるだけですから」
「............」
俺はさっき、戦争で大きな怪我をした人がどうなるのか、この目で見た。全てに恐れを抱く者、痛みにひたすら悶える者、狂気に犯され狂った者...三者三様だが、みな苦しみを伴う痛みを背負っていた。
それと同じだ。ここで殺さず無力化しようとすれば、痛みや恐怖に支配される可能性だってある。分かっているのだ。
でも...それでも...
「...なんで」
「?どうかしましたか?」
「なんで人を殺して、そんな平然としてんだよ...!!」
それだけは...俺には、到底理解できなかった。
人は...人を殺した時、普通ではいられなくなる。恐怖、焦燥、不安...負の感情が心を蝕み、死者の怨念に一生取り憑かれることになる。
なのに、こいつは...あまりにも平然としていた。人を殺すことを、当然のように受け入れて、伝えて...
俺は、それだけが信じられなかった。なぜなら、それは...
人を殺し慣れたヤツの反応なはずだから。
「なぜって...戦争中だからに決まってるでしょう?」
「...?」
透也は、呆れたような顔でこちらに近づく。
「ま、あなたは<堕天使>、戦争を知らない甘ちゃんには到底理解出来ない考え方・価値観であることは否めませんね。ですが...」
透也は、真剣な表情で続ける。
「ここは戦争。敵を殺した者が、評価される場だ。敵を撃って、殺して、自分は生き延びる。それが出来る者のみが誉れを得られる、そういう世界です」
「...でも、それでも...」
「あなたは今、僕に対して「狂っている」、そう思っているでしょう?」
「...あぁ、そうだ」
コイツは、狂っている。俺は、そうとしか思えない。
俯きながらしたその質問に対する答えは...あまりにも、簡単なものだっあ。、
「そうです。僕たちは、狂ってるんですよ」
「...え?」
そのすっとんきょうな答えに、一瞬困惑し、顔を上げる。
「僕たちは、戦争に赴くにあたって、3つのものを捨てる覚悟で戦地に足を踏み入れます。それは、なんだと思いますか?」
「...えっと...命?」
「ひとつはそうです。あと2つは?」
「...え、えっと...」
「タイムアップです。これ以上は待てません」
透也は、腕時計を見る仕草をしながらそう言う。
「僕らが捨てる覚悟でいる3つのものとは...まず、あなたが言った、命。そして2つ目は...正気です」
「正...気?」
正気を捨てたって...どういうことだ?
「僕たちは戦地に足を踏み入れる時、正気を捨て去ります。それは、命を懸ける...つまり、死ぬことさえ厭わないという、覚悟の現れ。死への恐怖を捨て去るため、理性ごと捨て去るのですよ」
「...それって、つまり...」
「...零さん、あなたの認識は正確です。そう、僕たちはみな、狂っているのですよ」
「...っ!!」
「この場にいる全員が、あらゆる恐怖を捨て去り、この場に立っている。理性も正気もない、獣に等しい生物となり、ここで戦っているのです」
理性も、正気も...ない?
「そうでもしなければ、狂ってしまいますからね。自身が死ぬ恐怖、自身が傷つく恐怖。そして...他者を、傷つけてしまう恐怖」
「...!!」
「僕たちは、狂っている。だから、人を殺せる。こんなにも容易く、ね」
「...そん、なの...」
「おかしくなんてありません。これが...この世界における、「普通」なんですよ」
それは...あまりにも残酷で、無慈悲な言葉の数々。
俺は...現代日本で、ぬくぬく暮らしてた俺とは、程遠い世界。受け入れ難い、狂人たちの思考。
「零さん。あなたにとっては、これは残酷な言葉であると理解しています。でも...理解しているからこそ、言いましょう。早くあなたも、狂いなさい」
「...!!」
「<堕天使>であるあなたが、それがどれだけの苦しみを伴った末に出来るかは、僕には分からない。それでも...狂え。理性を、知性を...正気を、捨てろ。その先で、あなたはきっと真に戦場の英雄となるでしょう」
透也の言葉は、あまりにも重く、俺の体にのしかかった。
強くて、厳しくて、残酷で...
優しい、言葉。
あぁ...コイツは、この人は...心から、俺の「先生」であろうとしてくれてるんだ。
なら...俺は、期待に応えなきゃいけない。その、義務がある。
「...いつか、俺もお前らみたいになる。きっと...な」
「ふむ、相変わらず腹括るまでが早くて助かります。いつか、あなたが1人前の兵になるまで...僕は、見守り続けます」
「へへっ、よろしく頼むよ。「先生」」
「ククッ、いいでしょう。しっかりついてきなさいね?「生徒」さん?」
俺たちは、ニヤリと笑い合う。
俺たちの、「先生」と「生徒」という、妙な関係...
この関係が、一生続くことになるとは、この時の俺たちは思いもしなかった。
さて...ようやく覚悟が決まった。まだ人を殺すのは厳しそうだが...それでも、人を殺す、ということに関して、そして自身の死について...ある程度、覚悟が決まった。
「...そういえば、あとひとつはなんなんだ?」
「ん?あぁ...そういえば、あとひとつ残ってましたね。あとひとつは、「自由」です」
「自由...?」
「僕たちは、戦争に参加する以上、自由は捨てなければなりません。行動は指揮官に従い、心はさっき伝えた通り、狂気に満たす。自分の国のため、それだけを思って戦いに赴く...つまり、僕たちは自分の自由を捨て去って、戦いに臨んでいるようなものなのですよ」
「...なるほど、な」
自由を捨て去る、か...
ま、俺はこの世界に来た時点で自由なんて概念、ほぼあってないようなもんだ。あんま変わんねぇな。
「これで理解しましたか?これから、どのような心構えで生きるべきか」
「あぁ。理解したし、覚悟もした。準備万端だ」
「ククッ、そうですか。では...そろそろ、この初陣を終わらせに行きましょうか」
「チュートリアルって...ゲームかよ...」
透也は、俺との話を終え、スッキリした顔で再び最前線へ戻り、サブマシンガンを構える。そして...
「英志さん、そろそろ終わらせましょう」
「あぁ、そうだな。これだけ数が減っていれば、問題ないだろう」
俺たちが話してる間に、味方と敵軍との撃ち合いはかなり激しいものになっていたようで...味方タンクがかなりダメージを受けているように見えた。だが、それよりも相手はもっと重いダメージを受けているようで...この短期間で、敵の数がかなり減ったように感じられた。依然、数は相手の方が多いままだが。
「砲手、構え!」
英志さんが、突然大声でそう言う。何事だ──と思ったのもつかの間、
ヒューーー...ドカァァァァァァン!!!
頭上を巨大な黒い塊が通過し、敵陣ど真ん中に直撃...したと思ったら、爆発を引き起こしてかなりの数の敵兵を吹き飛ばしていた。
「...なるほど、これが砲手...」
砲手とは、後方で砲撃をひたすら敵陣に撃ち込む兵だ。広範囲かつ高火力の砲撃は、制圧にも逆転にも大きな影響を与える、いわば最終兵器。
それ故にかなり警戒されているため、易々と使わせてはくれないのだが...疲弊して、しかも戦況がよくない現状、敵軍は焦っている。だから、砲撃を警戒する余裕がない、という読みで撃ったのだろう。
そして...その読みは、見事的中した、と。
「2発目──発射!」
ヒューーー...ドカァァァァァァン!!!
「うわあああああっ!!」
「ぎゃあああああっ!!」
敵陣から悲鳴が聞こえる。大量の兵士が吹き飛ばされ、隊列はぐちゃぐちゃ、あの様子では指揮系統も多分機能しないだろう。
それから5分ほど、味方は砲撃を撃ち込み続けた。当然その間も、射手は攻撃の手を一切緩めず、前衛タンクを撃ち続けていた。
そうして...ついに、終わりの時がやってくる。
「敵が撤退していきます!!!」
「...!!本当か!?」
「...と、いうことは...」
「この戦争、俺たちの勝利だーー!!!」
「「「「うおおおおおおおおっ!!!!」」」」
為す術がなくなった敵軍は、海側へと撤退していった。爆速で撤退していくその手際のよさは、凄まじいものだった。
ついに...俺の初陣、西部戦線防衛戦が、集結した。
次回こそ西部戦線編1章完結です!




