第3話"西部戦線"
1万字書くの厳しいですねぇ...
「怪我人はこっちへ!」
「人手が足りません!至急、応援を...」
「おい、お前!邪魔だ、そこをどけ!」
「クソっ!達也様はまだなのか!?」
「敵がすぐそこまで迫ってきてる...!もう終わりだ!」
西部戦線防衛拠点の内部は、混乱に陥っていた。
次々と運ばれる負傷者、どこかに連絡する指揮官っぽい人、戦場に赴く人など...ざわめきで溢れ返っていた。
「これは...」
「うるさいですねぇ...どうやら、相当面倒な状況のようです」
手助けをしようにも、これではどこから助けに行ったらいいか分からないな...
「俺たちはどうするんだ?」
「そうですねえ...ここの責任者のところへ行きましょう。恐らく、代理しかいないでしょうけど...」
「分かった。ところで、その責任者とやらはどこにいるんだ?」
「僕が知るわけないじゃないですか、そんな些事。今から探すんですよ」
「えぇ...?」
コイツ、本当に大丈夫なのか...?
とりあえず、ついていくことにした。どのみち俺一人じゃ厳しいし...
「といっても、しらみ潰しに探してたらかなり時間かかりそうだが...」
「そうですね...あぁ、ちょうど知り合いを見つけたので、彼女に聞くことにしましょう。風夏さ〜ん」
透也はそう言い、二丁の銃を背負う女性に声をかけた。
「誰?今忙しいんだけど──って、透也!?なんでこんなところに...」
「応援に来ました。僕と...軍医です。ほら、挨拶しなさい」
「俺は子供じゃないんだが...まぁいいか。はじめまして、俺は楠木零、3等兵軍医です。輝明様の命により、西部戦線の応援にまいりました」
挨拶はこんな感じで大丈夫だろうか?
「あら、これはご丁寧にどうも...私は、西部戦線防衛部隊一番隊代理隊長、片桐風夏。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「風夏さんは、5年以上この西部戦線を前線で引っ張ってきた、エースです。階級も2等兵ですので、お前より上です。しっかり敬うように」
「いや、歳はあなたの方が上なのでそんな必要は...」
「なら、お互いタメでいいんじゃないか?」
「まぁ、それならいいかも。よろしくね、零」
「あぁ、よろしくな、風夏」
「あぁ、それで用件なのですが...ここの責任者はどこにいるのですか?指示を仰ぎたいのですが...」
と聞くと、途端に風夏の顔が曇る。なんつーか、嫌な予感がしてきたぞ...
「...ついてきてちょうだい」
「...?急いでいたのではなかったのですか?」
「あなたたちを案内する方が優先よ。軍医が来た今、事態は一刻を争うの」
「...どうやら、相当まずい状況のようですね。行きますよ」
「お、おう」
風夏は早歩きで、防衛拠点の一角へと向かう。
案内された場所は、責任者がいる部屋...ではなく、負傷者を治療・安置する、臨時の病室だった。
「...どういうつもりですか、風夏さん?私の話を聞いていなかったのですか?」
「聞いてたから連れてきたの。こっちにきて」
そう言われ、病室の奥へと進む。そして、一番奥にたどり着き...俺と透也は、ようやく理解した。
「この人が...ここの責任者よ」
その人は、血まみれの包帯を全身に巻かれていた。どうやら、戦場で大怪我を負い、ここに運ばれてきていたらしい。
「この人は、近藤英志。ベテランの3等兵で、戦闘能力は低いけど、指揮能力が高くて、長年ここの責任者を任されてきた。でも、今回西部戦線が大打撃を受けた時、英志さんも前線に出て戦って...この怪我を負った。なんとか私が連れ帰ってきて、死を免れたけど...」
「...まぁ、この怪我じゃどのみち死ぬでしょうねぇ」
そうか、だからあんなに混乱してたのか...
こういった大規模な軍隊において、指揮系統に乱れが生じた場合...それも、上位層で崩壊した場合、なし崩し的に軍隊は崩壊する。そして今、それが目の前で起きていた。
「なるほど...となると、敗北秒読み、といったところでしょうか?」
「ちょ、透也、そんな言い方は──」
「えぇ、その通りよ。もう前線はこの防衛拠点のすぐそこまで下がってる。その上、五芒星は会議でまだ動けない。そして...味方は、もう既に指揮を失って大混乱、バラバラになってしまった。もう、負けよ」
「...!?なっ...!!」
風夏は、涙をこぼしながら続ける。
「もう...無理。この西部戦線の防衛拠点は、このまま落とされる。そうなったら...きっと、ジパングはもう終わり。そのまま、崩壊する。私たちが、この国を終わらせるのよ」
「お前...諦める気か!?」
「...諦める?はっ、ははっ...面白い冗談言うね、あなた」
「...え?」
ダンッ!
「諦められるわけないでしょ!?国が、私たちの国が自分たちのせいで滅ぶのを、指くわえて見てるなんて...出来るわけないのよ!諦められたらどれだけ楽でしょうね?ねぇ!!!」
「...!!」
「うっ...ごめんなさい、私の...私たちのせいで...」
風夏は、どうやらもう精神の限界だったようで...そのまま、泣き崩れてしまった。
彼女は、きっと重い責任を感じていたのだろう。
指揮官がやられ、前線を下げられて...エースとしてどうにかしなくてはいけない、という責任を。
だけど...
「...はぁ、醜態晒して楽しいですか?風夏さん」
透也が、泣き崩れている風夏に話しかける。
「...何?」
「ほんっとバカみたいですよねぇ、勝手に自分で全部背負い込んで、勝手に諦めて、勝手に泣き散らかして...恥ずかしいとか思わないんですか?」
「...透也!アンタ、許さな──」
「僕を誰だと思ってるんです?僕は1等兵、エリートの中のエリート、藤峰透也です。僕がここに来た意味を、少しは考えたらどうです?」
「...え...?」
「まだ終わっちゃいませんよ。ここからでも捲れます。ねぇ、軍医さん?」
「...あぁ、まだ諦めるには早い」
そう、まだ諦めるに値しない状況だ。
「正直、俺の与える影響がどの程度なのかは分からない。でも...それでも、俺がどうにかしてみせる。だから、諦めないでほしい」
「...アンタに何が分かるわけ?所詮軍医でしょ!?戦わずに後方支援しかしない奴が...偉そうに話さないで!!」
風夏の言い分も...まぁ、一理ある。実際、前線で戦うみんなに比べ、俺は安全な立場であることに違いは無い。でも...
「そう、俺は軍医だ。だからこそ、言ってるんだ」
「なに...!?」
「軍医の役割は、負傷者の治療だけじゃない。全ての負傷者を...再び、戦える状態に戻すことだ。身体の傷だけでなく...心の傷も治して、な」
「...!!」
「そんな、心理に一番詳しい軍医から言わせてもらうが...今この戦場に必要なのは、強い兵士でも、怪我人を減らすことでもない。大事なのは...熱意。諦めず、戦い続け、抵抗しようとする意思。それを...ここにいる全員が持つことだ」
今この戦場に不足しているのは、戦う意思。
一部は、半狂乱になりながらも、国を守る為にと戦っているみたいだが...あくまで一部だ。
この不屈の意思を全員が持ち直し、団結することこそが...西部戦線防衛戦の鍵だ。
だから、この程度で諦めてもらうわけにはいかない。まだ、間に合う。俺が間に合わせてみせる。そのためにも...
「透也」
「はい、なんですか?」
「前線のサポートを頼む。俺は、ここの人たちの治療に専念する」
「ククッ、どうやらある程度考える頭と、状況判断する余裕はあるようですねぇ?僕ももとよりそのつもりでしたので、異論ありません」
俺と透也の考えは一致したみたいだな。2人で目を合わせて、ニヤリと笑う。
「それから...風夏」
「...なに?」
「指揮系統を復活させてくれないか?」
「...なにを、言ってるの?」
「今、味方が混乱に陥り、士気が低下している理由の一つは、指揮系統の崩壊によるものだ。だから、臨時であろうと、指揮系統をある程度でも復活させることが出来れば...ある程度は、まとまりができるはずだ」
「...その役割を、私にやれ、と?」
「そうだ」
風夏は、この西部戦線で5年以上戦い続け、五体満足で生き延び、エースとまで呼ばれていたことから察するに...かなりの実力を持っていることは明白だ。だから、風夏なら指揮官を任せても、きっとやり遂げてくれるはずだし...民衆の心も、掴めるはずだ。
「...無理よ。私に、そんな大役...背負えない...!」
「なら、負けるだけですよ。あなたのせいで」
「...っ!」
「腹括りなさい、風夏。元々戦争なんてない平和な世界で生きてきた、<堕天使>である零でさえ...覚悟決めて、自分なりの戦いをすると決めたのですからね」
透也は、ずっと厳しい言葉ばかりかけていたが...なんだかんだ、優しいやつなんだろう。その全てが、風夏を心から想っているからこそ口にできる叱責なのだから。
「なっ...<堕天使>!?コイツが!?」
「えぇ、なかなか面白い存在ですよ?はじめは面倒なヤツとしか思ってませんでしたが、<堕天使>とは思えぬ価値観と理念、そしてかなり優秀な能力を持っていますよ」
うおっ、急に褒めてきたぞ、コイツ!?
初対面とは大きく評価が好転してるな。この短時間で多少は信頼を勝ち取れたってことか?
「ははっ、そんな高評価を貰えるとは、光栄だぜ?」
「私は事実しか言ってません。お前は、評価に値する能力を持っています。ですが...大事なのは、実戦でそれを発揮できるかどうかです。せいぜい、頑張りなさい」
「おう!」
「風夏さん、あなたも僕と来てもらいます。広間の方で、スピーチしてもらいますので」
「...えぇ、分かったわ。私も、腹を括る」
よし、これで方針は決まった。
あとは...ここにいる全ての人々に、証明するだけだ。
俺たちは...必ず勝てるんだ、と。
「ククッ、少し動き出しが遅れてしまった分、しっかり行動で取り返していくとしましょう。いいですね、2人とも?」
「「おう/ええ!!」」
こうして俺たちは、防衛拠点の広間...多くの人々が往来し、集まる場所へと向かった。
「零さん」
「ん、なんだ?透也」
風夏と広間へ向かう前、透也に小声で話しかけられた。もしかしたら、風夏には話せない内容の話なのか?
「さっきのハッタリ、なかなか良かったですよ?」
「ハッタリ...あぁ、心理の話か...」
俺は確かに軍医の称号を貰ったし、医療に関しては、人一倍詳しい自信がある。なんせ、かつては「天才外科医」なんて呼ばれたこともあるのだから。
だが...だからこそ、心理学についてはさっぱりわからない。数式で表現できず、統計と「感覚」などという不確定な要素でしか定義できない──その定義すらも怪しいが──存在...それが、心理。
はっきり言って、俺は心理に関して、最もかけ離れた存在である可能性だってある。しかし、さっきは...
「心理に詳しい...なんて見栄張っちまったけど...はぁ〜、これからどうしよう...」
「ククッ、なかなかいい芝居でしたよ?おかげで彼女も立ち直ることができましたし、ね」
「そりゃそうだが...はぁ、先行きが不安だぜ...」
この先、俺は治療を施した兵士の、精神的な治療もしなければならない。スキルで心まで治せるなら話は変わってくるけど...
「まぁ心配いりませんよ。その役割に関しては、あなただけでなく、他の救護班も手伝ってくれるでしょうからね」
「まあ...そうだな。っし、やってやるか!」
「ククッ、その意気です。まぁ、口だけではないことを祈ってますよ」
「うるせー!見せてやるよ、俺の持てる全てをな!」
「準備できたよ、2人とも」
風夏が話しかけてきた。
その顔を見るに、どうやら覚悟は決まったようだ。
「いい顔つきになったな」
「えぇ...あなた達のおかげよ。ありがとう」
「感謝は戦が無事に終わってからです。さぁ、行きましょうか」
「おう、了か──」
「あ、そうだ。零さん、英志さんを抱えてきてもらえますか?くれぐれも丁重にお願いしますよ」
「え、いいけど...何に使う気だ?」
「そうですね...まぁ、試運転兼実演販売、といったところでしょうか?」
透也は、どこか楽しそうにそう告げた。
「うぅ...もう無理だ...」
「この戦争は、俺たちの負けなんだ...」
「せめて、せめて俺だけでも助けてくれ...こんなとこで、死にたくないんだ...!」
悲痛な声がいくつも聞こえてくる。
俺たちが病室で話している間にも、状況は悪化していたようで...先程まであった僅かな活気すらもなくなり、広間は敗戦ムード一色となっていた。
泣き崩れる人、虚ろな目で座り込む人、足を止め、立ち尽くす人...多くの人が、諦めていた。
そのおかげで...って言ったらいいのかは分からないが、広間には多くの人が集まっていた。
「うぅ〜、緊張してきた...」
風夏は、一目見ただけでかなり緊張しているのが分かった。
手を強く握りしめ、足を震わせている。目線は泳ぎ、縮こまってしまっている。これでは、せっかくのスピーチが台無しになるかもしれない。
そこでふと、この世界に来る前からズボンのポケットに常備していた、あるものの存在を思い出す。
「風夏、これを使ってみろ」
「え?」
そう言い、小さな容器を渡す。
それは...術前、患者に使用することのある、セラピー効果のある香水だった。
「いい匂い...」
「それを使って、術前の患者の緊張を和らげたりするんだ。ちょっとは効いたか?」
「うん、よくなった。ありがとね」
「いいんだよ。お前の成功が第一だ」
まぁ、本来は医者がポケットに入れるなんてことはなく...俺は、自分がヘラった時使いたかったから、自分で病院で使ってるやつと同じのを入手して、常備していただけなんだが...
さっき軍服に着替える時、ちゃんと持ってきておいて正解だったぜ。
「風夏さん、準備はいいですか?」
「ふぅ...えぇ、いつでもいいわよ」
「よし...カマしてこい」
「えぇ、がんばる──」
「いやいや、なに他人事みたいに言ってるんです?零さん、あなたも頑張るんですよ」
「...........」
「は?」
唐突な無茶振りが、俺に襲いかかった。
「...よし、始めるよ、零」
「あぁ、いつでも大丈夫だ」
風夏がマイクのスイッチをオンにする。
開幕の...合図だ。
『みんな!私の声が聞こえてる?』
風夏が話す。突然の出来事に、広間で項垂れていた人々は、反応が遅れる。
『ちょっと、何も聞こえないんだけど?私の声、聞こえてないのかしら!?』
さらに大きい声で問う。そしてようやく、民衆の一角から声が漏れる。
「風夏...なにやってるんだ?そんなとこで...」
その声に呼応するように、数々の声が聞こえてくる。
「風夏、どうしたんだ?急にマイクなんか使って...」
「それに、その人たちは誰なんだ?」
「風夏...」
「風夏!」
いくつもの声が、風夏の名前を呼ぶ。
『今から、みんなに...私の想いを話す。上手く話せないかもしれないけど...聞いてほしい』
先程まで悲痛な叫びに満ちていた広間を、静寂が包み込む。みなが、風夏を見守っている。
『私は...この西部戦線で、5年以上戦い続けてきた。そして、この5年で色んなことを経験した。でも...今ほどピンチに陥ったことは、一度もなかった。なんでだと思う?』
「え...なんで?」
「今回が特殊なだけじゃないのか...?」
『なんでこんなピンチがやって来なかったのか...2年前、1年半前、1年前、そして2週間前の...『アノニマス』襲撃の際すら、ここまでの危機には陥らなかった。それはなぜか...』
全員が、ごくりと唾を呑む。
『それは、仲間がいないから。共に戦ってくれる...仲間が』
「...え?」
『今まで私の傍には、一緒に肩を並べて戦うみんなや、私たちを引っ張ってくれる達也様...そして、私たちの進むべき道を示してくださる、英志さんがいた。でも、今、2人はいない。そして、みんなも...2人がいないことへの絶望に打ちひしがれてしまった...私だってそうだった!ふたりがいないことが、怖くて、たまらなくて...もう、無理だって、思った...』
再び、沈黙に包まれた。
『...でも。私は、諦められなかった。5年間戦ってきたこの場所も...共に戦ってきた、みんなのことも!』
今まで両手で握っていたマイクから右手を離し、拳を握りしめ...突き上げる。
『だから、私は戦う!怖くてたまらないし、勝てる希望が薄いのだって分かってる。それでも...私は、絶対諦めたくない。諦めたりなんて、しない!だから...みんなも、私についてきて!!!』
「..........」
広間は、またも沈黙する。
誰1人声を上げない。でも、その表情は...
さっきまでとは、明らかに違っていた。
「......う」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
「そうだ、俺たちは諦めてしまっていたが...それは、愚かだった」
「なんて愚かだったんだ、俺たち...」
「ありがとう風夏、おかげで目が覚めたよ!」
「行くぞお前ら!俺たちが...この西部戦線を守りきるんだ!たとえ、死んだとしても!!」
「「「おーーーー!!!!」」」
人々がひとつになるのを感じる。熱い闘志が燃えたぎり、その顔は希望に満ち溢れていた。
でも...まだ終わりじゃない。
『みんな、聞いて!話はまだ、終わってないの!』
「風夏...?」
「どうしたんだ?」
再び、風夏に広間中の注目が集まる。さぁ...
ここからは、俺の見せ場だ。
『実は、管理局から助っ人が来てくれたの!それも、2人も!』
「なんだって!?」
「2人も...いったい、誰が...」
まずは、1等兵としてかなり有名な、透也が話す。
『初めまして、西部戦線のみなさん。僕は1等兵、エリート中のエリート、藤峰透也です。僕がいる限り、前線が崩壊することは決してないと誓いましょう!』
「ふ、藤峰透也だ...!」
「あの、次期五芒星と名高い、あの...!?」
「やった、これで勝ち目が見えてきたぞ...!!」
広間がさらに盛り上がる。だが...
本番はここからだ。
『あと一人は、みんな知らないと思うけど...でも、すごい人なんだ!』
そう言い、俺にマイクを手渡す。
『初めまして、西部戦線のみなさん。俺は3等兵軍医、楠木零だ』
広間が静まる。まぁ、誰も俺のことを知らないから当然だろう。
『みんな、俺のことを知らないと思うし、3等兵程度...って思うかもしれない。でも...少しだけ、俺の話を聞いてほしい』
ふぅ、と一呼吸置き...話し始める。
『...俺は、<堕天使>だ』
「...え?今、<堕天使>っつったか?」
「まさか、あの<堕天使>?穀潰しの<堕天使>のことか?」
「ふざけんな!<堕天使>が何しにきやがった!それも3等兵軍医だと?ふざけんなよ!」
広間のそこかしこから、罵声が飛んでくる。
俺ははじめ、<堕天使>がこの国でどんな扱いを受けているか、全く知らなかった。なぜなら、俺が初めて出会った人間──八咫宮幻斎も、星野葵も...なんの反応も示さなかったから。
でも...輝明様と輝史様の説明、そして透也から聞いた話で、ようやく理解できた。
<堕天使>とは、前世堕落した人間が死後この世界に来たもの──即ち、この世界に堕落した性格のままやってきて、堕落したままの生活をして...堕落したまま、何もすることなく死んでいく。それが、<堕天使>。
だから、一般的にはとてつもなく軽蔑されているのだ。
『み、みんな落ち着いて!零の話を──』
「風夏!そいつを追い出せ!」
「そうよ!<堕天使>がいたらせっかくの士気が下がっちゃうじゃない!!」
「かえれ!」
「「かえれ!!」」
「「「かえれ!!!」」」
「「「「かえれ!!!!」」」」
広間から、見事な帰れコールが飛んでくる。だが...
この程度、罵倒のうちにすら入らない。本物の罵倒っていうのは、もっと...
いや、こんなこと考えてる暇はないな。今は目の前の事に集中しよう。
さぁ...やるとするか。
『俺は、今までの<堕天使>と同じになるつもりはない』
「...なに?」
『俺は、この世界で...今までと同じように堕落した生活を送ろうとなんて、考えてない。俺もみんなと一緒に戦いたい。そして、この世界でなにかを成し遂げたいんだ。そのために、俺はここに来た』
「...ふ、ふざけんな!そんなの誰が信じると──」
『じゃあ、信じさせてやる』
さぁ、ここからが本番だ...!!
俺は、1人の男性を、みんなが見える位置に寝かせる。
『この人が誰か...分かってるよな?』
「...なっ、英志さん!?」
「なにをする気だ!?英志さんを返せ!」
いやぁ、予想はしてたがやはりすごい反発だな...
でもまぁ...これでいいんだ。
『今から俺は...この人の怪我を治す』
「...は?」
「なにを言っているんだ...?」
「一体、どうやって...」
ゆっくりと、手を背中に掛けていた、あるものに向けて伸ばす。そして、あるものを掴み...英志さんの身体に、向ける。
「...は?」
「おい、お前...!」
「まさか、英志さんを...」
「殺す気なのか!?」
そう、俺が手に取ったのは、透也からもらったサブマシンガン。それを、英志さんに向けている。
それを見て、風夏が話しかけてくる。
「ちょっと、零!あなた、ふざけてるの!?」
「大真面目さ...今から見せてやる」
『これが...俺のスキルだ』
「やめ──」
ダァン!
引き金を引き、弾丸が彼に命中する。
「あ...あ...」
「撃った...撃ちやがったぞ、あいつ!」
「殺せ...あいつを殺せぇぇぇぇ!!!」
とんでもない反感を買っているな...まぁいいが。
さぁ...これで、彼の怪我が治らず普通に死んだりしたら、完全に終わりだが、果たして...
「うっ...あれ、ここは...」
「...英志さん?」
「おお、風夏じゃないか。ところで、これは一体なにをしてるんだ...?」
英志さんは、意識を取り戻し...ゆっくりと体を起こした。
「...英志さんだ」
「英志さんが...起きた!」
「どうなってるんだ...何が起きたんだ!?」
広間中が大混乱に包まれる。
『おはようございます、英志さん。俺は管理局からの応援の、楠木零といいます』
「そ、そうなのか?」
『はい。ところで...お怪我の具合はいかがでしょうか?』
「怪我...っ!そうか、オレは戦場で撃たれて...あれ?」
そう言い、身体中に巻かれた包帯を取る。
そして...露わになった肌を見て、この場にいた全員が驚愕することになる。
「傷が...」
「ない!?」
ふぅ...どうやら、試運転兼実演販売は成功したらしい。
『見たか!?これが俺が神より与えられしスキル!俺がいる限り、負傷者は全員治療してみせる!だから、みんな!!思いっきり戦ってきて欲しい!必ず俺がみんなを死なせない!だから...俺と、俺たちと一緒に、戦ってくれ!!!』
「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
広間が、再び熱気に包まれ、その声で空気が震える。
っし、これで準備は整った。
『これより、西部戦線の指揮権は、私片桐風夏が引き継いだ!みんなを前線で戦えるように指揮します!』
『僕はみなさんをサポートさせていただきます。敵の前線を止める役はおまかせを』
『俺が、怪我は全部治す。今病室にいるやつらも、これから怪我するヤツらも。だから、安心して戦ってきてほしい!ただし、死ぬことだけは避けてくれ!死から救うことはできないから』
『これで準備は整ったわ。全軍──』
『『『出撃!!!』』』
「「「「おーーー!!!!」」」」
こうして、西部戦線防衛戦は、再び幕を開けることとなった。
お読みいただきありがとうございました!
私、まだまだ未熟者故、分からないことも多いです。なので、
是非感想を書いていただきたいです!
気が向いたらよろしくお願いします!!




