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第12話"自責"

短めスパンでの投稿。次は他の書くのでしばらく空くかも...

「いや〜、なんとか認めてもらえてよかったぜ」


ティムさんの店──『Uniquey』を出て、再び透也の家に向かって、俺たちは歩き始めていた。


「そういえば...透也、お前ありゃやりすぎだぜ?マジで撃つ気かと思って焦ったんだからな?」


透也が、ティムさんを撃とうとした時のことを思い出す。あの時の透也の形相ときたら、恐ろしいことこの上なかったな...


「あの時は騙してすみませんでした。僕も、かなり必死でしたので」


透也は、反省した様子でそう答えた。

にしても...あの時の透也の様子は明らかに変だったな。なんであそこまで怒ってたんだ...?

うーん...考えてみてもわからんし、本人に聞いてみるか。


「なぁ、お前、なんであんなにキレてたんだ?」

「...はい?」


透也に尋ねると、異様にビックリした様子だった。


「そんな驚かんでも...いや、お前さっき相当キレてたろ?別に、あそこまでキレる必要なかっただろ?」

「いえ、それは...」

「つーか、お前はじめから爺さんが俺のことを試すつもりだったって分かってたんだろ?なのに、あんなに必死になる必要なかったじゃねぇか」


あの爺さんは、はじめから俺の人となりを見るつもりだったんだろう。そうじゃなきゃ、あんな罵倒しねぇだろうからな。


少しの間だったが、あの爺さんと接してて、分かったことがあった。

あの爺さんは、人として相当強い人だ。やけに達観してて、視野が広い上頭の回転も良くて、色々と気を配れて...なんていうか、色んな修羅場を潜り抜けてきたからこその、完成された人格みたいなのを感じた。


そんな人が、初対面の俺にあんな罵倒を本心から言うとは思えない。だから、あの爺さんははじめから俺を試す気だったんだろうな。


「...はぁ?」


透也は、俺の発言を聞いて、何言ってんだコイツみたいな表情をつくった。


「あなた、本気で言ってます?」

「え、そうだけど...え、なんか変なこと言ったか?」

「はぁ...どうやら、僕が本気でキレたのは正しかったみたいですね」


いやいや、なんでそうなるんだよ!!


「お前なぁ...」

「零さん、よく聞きなさい。これは大事な話です」


俺が透也にダメ出ししようとしたところ、透也が俺より先に話に割り込んできた。

だが...透也は、かなり真面目モードみたいだ。足を止め、真面目な表情になっている。なんか問題でもあったんだろうか?


「あなたは、恐ろしいほどに鈍感です」

「...はぁ?」


突然罵倒され、素で反応してしまう。なんだ、急に...?


「いいですか、零さん。あなたは、優しすぎるんですよ。人の言葉を、最大限好意的に解釈しすぎてるんです」

「...?というと?」


言ってる意味が分からなかった。

俺は、そんな優しくもないし、好意的解釈なんてした覚えないんだが...


「はぁ...鈍感なあなたのために、あなたの認識の間違いを教えてあげましょう。第一に、ティムさんはあなたを試すつもりなんてありませんでした」

「...え?」

「初対面でのあの罵倒は、本心です」

「...は!?」


いやいや、ウソだろ?だって、そんなはずは...


「初見の様子を覚えていますか?彼があなたに銃を向けた時のことを...」

「あぁ、覚えてるよ。めっちゃビックリしたからな」

「あの時の、あの銀色の拳銃...あれは、ただの拳銃ではありませんでした」

「...?というと?」

「あれは、とある特殊技術とある人物の協力によって造られた、スキルを無効化できる拳銃です」

「...!?」


待て待て待て、ウソだろ...!?

そんなものが存在すること自体ビックリだが、あの爺さん初対面でそんなもん向けてきてたのかよ!?

爺さんは、俺についての情報を、ある程度は把握してるように見えた。つまり、俺のスキルの効果も知ってたわけで...

てことは、あの時...本気で、俺を殺しにきてたのかよ!?


「試そうとする相手を、初対面で殺そうとするなんて...矛盾してると思いませんか?」

「いや、たしかにそうだけどよ...」

「まぁ、途中からはあなたの価値を理解して、試すために言葉を紡いでいたみたいですが...最初だけは、本気で言っていましたよ」


マジかよ...

それは、なんていうか...結構傷つくな。なかなかひどいこと言われたし...

でも、それもこれも全部事実だったから、反論の余地はないし、反論する気もないが。


「第二に、僕は彼があなたを試そうと考えていたことについて、はじめから知りませんでした」

「...えっ、そうなのか?」


爺さんに銃を構えた時のあれは、爺さんと透也がグルで、俺を試してるもんだと思ってた。だが...違ったのか?


「じゃあ、なんであんなことしたんだ?」

「簡単な話です。彼に、あなたを認めてもらうためです」

「......??」


いや、理解できない話じゃない。理屈は分かるし、間違った行為でもないのは理解している。だが...


「なんでお前がそんなことを...?俺のために、あんな必死になる必要なかったじゃねぇか」

「それが、第三の問題であり、全ての本質ですよ」


ん...?どれがだ?

さっきから、ずっと透也の表情が険しい。本気でなにかに怒ってるようだった。


「あなたのその態度が、あなたが優しすぎるという一番の証拠です。自分の態度が異常であり、かつ自分が異常であることに気づいてすらいない」

「異常...?」


いや、変な点なんてなかったと思うけど...


「いいですか、零さん。普通、初対面であれだけ罵倒されたら、もっと怒るものなんですよ?」

「......え?」

「初めて会った知らない老人に、自分のこれまでの生き様を否定されたら、普通は悔しいか、イラッとするかのどちらか。あなたみたいに、すんなりうけいれるなんて出来ないんですよ」

「...でも、それは...」


透也の言わんとすることは理解できた。でも...ひとつ、間違ってる点がある。


「悔しかったり、イラッとしたりするのは...その指摘が間違ってるから起こる反応だろ?初対面のヤツに、見当違いな罵倒をされりゃあ誰だってキレる。でも...俺の場合は、見当違いなんかじゃなかったんだよ」


あの時の、爺さんの指摘は...あまりにも正しかった。

俺の前世での生き様は、くだらなくて、愚かなものだった。だから...あまりにも正しかったから、悔しくもイラッともしなかったんだと思う。


「...あなたという人は...」


透也は、俺の回答を聞いて、さらに怒りを募らせているようだった。なにがそんなに気に入らないんだ...?


「零さん、あなたは間違っています」

「...?」

「あなたは自覚すべきです。その認識が間違っていることを」

「.......???」


いや、そんなこと言われてもな...


「俺の反応は間違っちゃいねぇだろ。だって、俺の前世はあの爺さんの言う通り──」


と、そこまで言いかけた時だった。


ゴッ!バタッ...


「...っ!?」

「その認識が間違ってるって言ってんだよ!!」


透也が、大声で怒鳴りながら、全力で俺の頬を殴った。その勢いで、俺は後ろに吹き飛ぶ。

突然の出来事に、俺は理解が追いつかなかった。ひりつく頬に手を当てながら、透也を見上げる。


「お前の前世について、僕はよく知らないし、お前の前世が、下らなかろうが愚かだろうが、僕の知った話じゃない。でも...他人に前世を卑下されて、お前自身さえもそれを肯定することだけは間違っている!!」

「...っ!?」


透也は、ゆっくりと倒れている俺に近寄りながら、続ける。


「お前の前世は、お前一人の物だったのか?」

「...え?」

「お前の生きた道には、お前以外の影はひとつたりとも存在しなかったのか?」

「...っ!!」


そう言われて、思い出す。

小さい頃、俺の憧れだった両親のこと。小学校か、大学まで、ずっと仲良くしてくれた、一人の友人のこと。そして...

俺のことを、最期まで心配して、助けてくれていた...姉貴のことを。


「お前の前世は、お前一人のものじゃない。お前が自分の前世を卑下することは...すなわち、お前を支えてくれていた全ての人々をも愚弄するに等しいことだ!!」

「...っ!!」

「勝手に自分の前世について、自分の中で後悔する分には文句は言わない。寧ろ、それはいいことだと思う。でも...」


透也は、俺の胸ぐらを強く掴み、顔を近づける。


「他人に、それも初対面の知らない人間に、自分を支えてくれた人々を愚弄されて、それを否定しないことは...遍くこの世の事象の中で、何よりも最低な行いだと知れ!!!」


透也の怒号が、あたりに響き渡る。

その言葉を聞いて、ようやく理解した。自分の愚かさを。


「...そして、第四に」

「ま、まだあんの...?」

「僕でさえ、あなたが罵倒されている様子に、激しい憤りを感じたんです。正直、あそこまで苛立ちを覚えたのは久しぶりのことでした。それが何を意味するか...分かりますか?」

「...なんだ?」

「あなたは、僕に本気で興味を持たせるくらいには、素敵な人だということです」

「...うぇっ?」


急にありえないくらいに褒められて、めちゃくちゃビックリする。どうしたんだ、急に...!?


「あなたの前世は知りませんが、少なくともこの世界におけるあなたの姿や人間性は、心から素敵で、尊敬できると思います。だから、もっと自分に誇りを持つべきです」

「誇りを...」

「あなたの底知れぬ優しさや、自分を卑下する態度は...きっと、前世でのあなたの行いを、あなた自身が後悔してるからでしょう?」


...そう、か。そうなのかもしれない。

俺は、自分に自信がない。あの人生最大のミスと、その先の俺の生き方を、俺は今でも後ろめたく感じてるから...

だからこそ、自分に対して悪口を言われたりしても、そこまでの怒りを感じられないのかもしれない。


「ですが、そんな必要はないと思いますよ?」

「...え?」


透也は、俺の胸ぐらを掴んでいた手を離し、立ち上がる。


「あなたは、この世界に来て2日目。にも関わらず、それだけ素敵な人で居られるのは、きっと前世でも頑張って生きていたからだと思います」

「...!!」


透也は、右手をこちらに差し出しながら、続ける。


「あなたの前世について、僕は知りません。知りませんが...僕は、きっと前世も素敵な人だったんじゃないかな、と思いますよ。だから...もっと自信を持っていいですよ、零さん」

「...っ!!あぁ、分かったよ」


その言葉を聞いて、胸につかえていた何かが取れたような、清々しい気持ちになった。


言われてみれば...俺はこの世界に来てからずっと、自責の念みたいなのに囚われながら生きていた気がする。たしかに俺には、爺さんに言ったような夢があるけど...その根っこの部分は、前世で出来なかったことを成し遂げるためだったんだと思う。


でも...そんなに気にする必要は、もしかしたらないのかもしれない。


透也は、今の俺のことを素敵だって言ってくれた。そして...過去の俺のことも。

その言葉だけで、俺は救われたような気持ちになれた。今の自分も、過去の自分も、やってきた行いは、生き様は、間違ってないって言ってくれたような気がして...


「透也」

「なんですか?」

「俺は...やっと、少しだけ自信を持てたかもしれない」

「はぁ...今更が過ぎますよ、まったく。自分の持つ価値を、正しく理解することも大事なんですからね?」

「あぁ、そうだな。ありがとう、透也」


透也が差し伸べてくれた手を取り、立ち上がる。そして、二人で向かい合い、ニヤリと笑う。


「ありがとな、先生」

「いえいえ。先生として、生徒を導くのは当然のことですから」


透也は...本当にいいヤツだな。

今の言葉一つ一つは、たぶんコイツの本心だ。思ったことを、そのまま俺に伝えてくれていただけに過ぎないのかもしれない。

そして...それは、俺のことを心から案じて伝えてくれた言葉だ。厳しい言葉もあったが、それも全部俺のために言ってくれたこと。


コイツは、きっと...心から、俺の先生で在ろうとしてくれてるんだ。俺を教え導く存在であろうとしてくれてるんだろう。

なら...俺も、期待に応えないとだな。


「明日から、早速訓練だな!」

「おや、随分やる気ですね?」

「まぁな。早く強くなって、俺の夢を叶えるために戦いたいからな。そのためにも...透也」

「?なんです?」

「これからも、色々教えてくれよ?先生としても、友人としてもな」


そう笑いながら伝える。透也は、そんな俺を見て呆れたようにため息をつきながら、応えた。


「はぁ...まったく、あなたという人は...」

「...??」

「そんなこと、言われなくても分かっていますとも。くくっ、ミッチリ鍛えて差し上げますので、是非楽しみにしていてくださいね?」


呆れ顔を悪そうな笑みに変貌させながら、透也はそう言ってきた。俺、もしかして言葉選びミスった...?


「...ちょっとくらい加減してくれてもいいんだぜ?」

「却下で」


俺の提案も、爆速で切り捨てられてしまった。俺、死んだかも...


その後も二人で雑談をしながら、ゆっくり透也の家へと向かった。

そのせいで、透也の家に着く頃には、日はすっかり傾き、空は綺麗なオレンジ色に染まりきっていた。

今回は少し短めですが、キリがいいのでここまでということで...

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