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第10話"タバコ面談"

カチッ

ジュ...


「すぅ...ふ〜...」


隣に座っている達也が、タバコを口に咥えながら火をつける。そして、深く息を吸い...吐き出す。

白煙があたりに漂う。同時に、タバコ特有の香りが鼻に入ってくる。

俺も、箱から1本取り出し、タバコを咥える。


「これを」

「あぁ、サンキュ」


達也からライターを借り、火をつける。そして、吸う。

口の中にタバコの香ばしい煙が広がるこの感覚...たった1日吸ってなかっただけなのに、こんなにも懐かしい気分になるとは。

昼間っから、並んで座ってタバコを吸うおっさん達...嫌な絵面だな...ま、やめる気はないけど。


「ふぅ...いやぁ、やっぱりタバコがなきゃ、やってらんねぇよな」

「間違いない。タバコを吸っていない人間は、損をしていると言えるでしょう。そうですね、人生の8割は損です」

「割合デカすぎじゃねぇか...?」

「妥当です」

「あ、そう...」


相変わらず、タバコに対する信頼がえげつねぇな...俺とは、比べものにならないレベルだ。


「さて...こうして君と共にタバコを吸おうと考えたのは、他でもない君の人となりを見たかったからだ」

「はぁ...というと...?」

「私は、君のような優秀な人材を活かす立場にある人間でね。いわゆる、司令部の人間なのだよ」

「...!?」


は!?司令部!?

それって...あんま詳しくは知らねぇけど、めちゃくちゃすげぇやつなんじゃ...


「し、失礼しました!適当な口きいてスンマセン!」

「...即刻謝罪とは、なかなかいい心構えじゃないか」


そりゃまあ、謝るのは早いうちの方がいいからな...

少しでも謝るのが遅れたら...もしかしたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。俺は、今までの人生で、そんな場面を何度も経験してきた。だから、分かる。

自分に非があるなら、何よりも優先して謝罪を行うべきだ、と。


「まぁ、そう気構える必要はない。私は、君との至福のひとときを過ごしながら、ついでに人となりを見るだけ。メインは、タバコの方だからね」

「あ、そう...」


やっぱりヤニカスじゃねぇか、コイツ...本当にこんなんで司令部なんてやってけるのか...?

あれ、ていうか...


「この国の軍って、たしか軍服で階級が分かれてるんすよね?」

「ああ、そうだとも」

「じゃあ...もしかして、葵も司令部なのか?」


この2人の軍服は、デザインは違えど、青色ベースなのは同じだった。そして、今のところ、この軍で青色ベースの軍服を身につけているやつは、この2人しか見たことがない。

つまり...2人ともかなり上の階級であると予想できる。そして、その階級こそ...

司令部という、強力な権限を持っているであろう存在なんじゃないか?と予想したわけだ。


「いや、そんなことはない」

「え、違うの?」

「あぁ。葵さんと私の階級が同じであることは確かですが、彼女は司令部ではない」

「そうなのか...」


うーん、予想外れちまったか...割と有り得ると思ったんだけど...


「...ん?なら、なんで葵のことさん付けなんだ?年下だよな?」

「...それに関しては、君がおかしい、としか言いようがないかな。いや、無知ゆえに、というのもあるかもしれないが」

「え...?」


え、なんで?俺、なんか今ちょっと貶された?

普通に、葵のこと呼び捨てしないの理解できないんだよな...透也も、葵のこと呼び捨てにしたら、えらい焦ってたし。


「達也、今いくつだ?」

「42だね」

「じゃあ年上じゃねぇか。俺は今、39だからな」

「ふむ、そうか。まぁ、だからといって堅苦しくする必要はない。同じタバコ仲間だからね」

「基準はそこなんだな...」


だが...尚更分からんな。葵をさん付けする理由...

つか...葵と一緒にいる間、ずっと敬語で話してたよな?確か...

なのに、葵から離れた途端に、普通に喋るようになってるし...葵のやつ、一体何者なんだ...?


「まあ、とりあえず君は変わり者であることに違いはないだろうね。一般常識はあるみたいだが」

「変わり者...間違っちゃいねぇかもしれないけどよ...」


まぁ、自覚はしてる。大学でも、結構浮いてたし...医師として病院に勤めはじめてからも、あんまり友達とかいなかったからな...

少しだけ、そう、ほんの少しだけ...思い出に耽っていると、達也が、わずかに表情を強ばらせる。


「あぁ、君は、大いに変わっているとも。なんせ...」

「...?」

「他人に、自分を撃て、なんて指示は出せないからね」

「...!?」


な...それって、西部戦線の、華さんの時のやつだよな...?

なんで、初対面のコイツが知ってるんだ?この件は、あの場にいた患者たちと、はないさんしか知らない。透也くらいにしか、まだ伝えてなかったのに...

って、待てよ?そういえば、透也も俺が言う前から知ってたような...


「なんで知ってるのか...という顔をしているが、この国には偵察部隊が存在していてね。彼らから、ありとあらゆる情報が、司令部に集約されるのだよ」

「...なるほど、例の件も、偵察部隊に見られてて、お前に伝わったってことか」

「その通り」


なるほど...つまり、この国では割とプライバシーは存在しないってわけね...

てか、それって...


「その情報は、司令部にしか渡らないのか?」

「モノによる。君の情報のような、大して役に立たないものは、司令部にしか来ない。だが、敵軍の動きや戦況など、戦争の結果を大きく左右する現状報告に関しては、輝明様のもとに渡ったり、各防衛基地に届けられたりもする」

「大して役に立たないって...」


まぁでも、これで分かったな。


「透也って、司令部の人間だったんだな」

「...ほう?なぜそう思う?」

「だって、俺の役に立たない情報は、司令部にしか渡らねぇんだろ?なら...俺が伝える前から、華さんに撃たせた事実を知ってた透也は、司令部の人間以外ありえないだろ?」


よく考えたら、透也の所属してる部隊って聞いてなかったからな。西部戦線の基地でもなければ、他の基地の隊員でもなさそうだった。その上偵察部隊でもないとなると...本格的に、司令部所属の可能性が出てきたな。


「いい推理だが...アイツは司令部ではない」

「...え?そうなのか?」

「あぁ。アイツは少し特殊でな...国内で、たった一人しかいない、ある役職についている」

「めちゃくちゃすごいじゃねぇか!?」


この国唯一の役職って...一体、どんな役職なんだ?


「ま、アイツは気に入ってないようだがね。その役職が...」

「え?そうなのか?」

「あぁ。だから、その仕事をクビになりたくて、普段ああやってサボっているようだ。ま、サボり癖があるのもまた、事実だが」

「なんだそりゃ...」


まぁよく分からんが...透也は透也で、かなり苦労してるんだろう、ってことは分かった。


「それにしても...ふむ、なかなかにいい頭脳だね。今の短時間で、そこまで推理できるとは」

「いや、当たってねぇから。意味ねぇよ」

「ふむ、私はそうは思わんがね」

「...?」


いや...推理って、当たらなかったら意味ないと思うけど...

だって、当たらない推理はイキりと同じだからな。


「君は、勘違いしているようだね」

「?」

「推理とは...当てる必要はないのだよ。まぁ、当たるに越したことはないが」

「...?じゃあ、何のために頭使って推理するんだよ?」

「私は...推理の本当の価値は、真実を見出そうとするその姿勢と、自力で考えて答えを追究しようとするその心にあると考えている」

「んー...?」


イマイチよく分からん。どんだけ追究しても、当たらなかったら意味ないと思うんだが...


「今回のような適当な雑談の場で、今くらいの推理が瞬時にできるのならば...それは、日常的に物事を自力で追究しようと試みている証拠だ。そして...そういう人間は、戦時中も頭を使って、勝つため、生き延びるための行動を取れる」

「...!!」

「当然、戦時中に推理するのならば、しっかり当ててもらう必要があるが...戦時中は、基本推理する時は自分1人ではなく、指揮官や仲間の協力が得られる。つまり、一人での推理が外れたところで、そう大した問題ではない」


ふむ、なるほど。これは司令部の...というか、戦場の人々を駒として操る人間の価値観っぽいな。

タバコを吸うために、一度話すのを中断した達也の代わりに、俺が話す。


「つまり...推理は、お前にとってはその人物の価値の証明に他ならない、だから推理しようとする姿勢とある程度の能力だけで十分だ...って考えてるわけね」

「ご明察。そして...君には、その能力が備わっていると見た。それも...人並み外れた能力だといえるだろう」

「いや、褒めすぎだって...」


流石に買い被られてる気がしてならねぇ褒め方だな。そんなに凄くないぞ、俺は...

だって、自分の要領すらよく把握出来てない人間だからな。


「それに...君は、もうひとつ、人並み外れた力があると聞いた」

「...?あぁ、俺のスキルのことか?たしかにあれは──」

「いや、そうではない。元来備わっている、君の能力のひとつだ」

「...?」


いや、そんなもんねぇと思うけど...あ、手先は器用かも?オペとかいっぱいやってたし...

そう考えていたのだが...達也の言葉は、予想外のものだった。


「君は...異常なまでの精神力と集中力がある、そう聞いている。初めての戦争にも関わらず、冷静に、いつも通りの思考と行動を保てるほど、強い心を持っている、ともね」

「つ、強い心...?」


いやいや、そんなもんねぇよ?

だって...俺は...

あの日、俺は...


「...俺の心は、強くなんかない。俺の心は...軟弱だよ。今も...昔も、な」


ざわめく心を落ち着かせるため──いや、誤魔化すため、というべきか?とにかく...

再びタバコを吸う。これが、精神を落ち着かせる、最善手。


「ふむ...自覚なし、か。なるほどなるほど」

「....?」


達也は、俺に続けてタバコを吸う。

そして...急に、こちらに向かい合うように、俺の正面に移動する。


「楠木零、君を司令部に推薦する」

「.......!?!?」


達也は、急にそう告げる。まさか...


「これって、俺の適性診断みたいな感じだったってことか?」

「その通り。私は、人間観察が趣味なのでね」

「なるほど。司令部の人間らしいな」


にしても...司令部への推薦、か。

急にも程があるが...要は、達也は俺が司令部の適正がかなり高かったから、推薦してくれてるんだろう。


「お前の一存で、司令部なんて重要な役職に就けるのか?」

「あぁ。私は、司令部の上層部と呼ばれる位なのでね」

「司令部での立場は?」

「私が保証する。当然、給与もね」


ふむ、とんでもなく好条件だな。断る理由が見つからないくらいには。


「司令部は、この国の軍事作戦の全てを支える重要な部署。君のような優秀な人材を、見逃すわけにはいかない。ぜひ、私たちと共に、この国を支えよう」


達也は、俺に向けて手を出してきた。推薦を受け取るなら握手しろ、ってことだろうな。

じゃあ、俺の答えは...


───────


「...?零さん?」


ようやく輝明様への報告が終わって、零さんと合流しようと思ったのに...ロビーに、彼の姿が見当たらない。ここで座ってる、と言っていたのに...


「まったく、一体どこに...」


小さく漏らした言葉に、反応する声があった。


「彼なら、達也に連れていかれましたよ」

「あぁ、そうなんですね。ありがとうございま──っ!?」


その声に反射で答えようとするが、途中で気がついてしまう。その存在の...正体に。


「あ、葵様!?な、なんでこんなところに...」

「奇遇ですね、透也。しっかり働いていますか?」


不運にも、厳しい上司に見つかってしまった。普段なら逃げ出すところだが...いまは、そんな必要ない。

なぜなら...


「もちろんです。昨日も今日も、サボることなく零さんの付き添いをしています。西部戦線防衛戦でも、しっかり活躍しましたので!!」


普段と違って、今はサボってないから、怒られる心配はない。だから、堂々と報告できる。


「そう...珍しいですね」

「失礼ですね...ところで、葵様はなぜこちらに?」

「偶然です。たった今、会議が終わって達也と帰るところだったのですが...先程、彼と出会いまして」

「彼...零さんですか?」

「えぇ。それで、少し話していまして...その時、達也に聞かれてしまったんです。彼が、私を呼び捨てにするのを」

「...!!それで達也様が彼に興味を...ってことは、もしかして!?」

「えぇ、今頃スカウトされていてもおかしくないでしょう」


まずい...!!彼は、よく分からないまま司令部に入れられるかもしれない...!!

司令部は、彼の目的を達成するのに不適切な場だ。その上、1度入ると情報漏洩防止のため、二度とやめることができなくなる...


「すみません、葵様!僕は、彼を止めてきます!!」

「...そうですか。どうぞ、お好きなように」


僕は、全速力で、外の喫煙スペースへと走り出した。


「...透也が、ここまで変わるなんて」




「...っ!はぁ、はぁ...いた...!!」


予想通り、喫煙スペースに2人はいた。早く止めないと、手遅れに...!!


「零さん!!」

「...あれ?透也...あっ!!」


全速力で走ったせいで、息がかなり上がっている。手を膝にあてて肩で息をしつつ、零さんを説得しようと試みる。


「零さん、聞いてくだ──」

「すまねぇ!!」

「...!?」


なっ...!!全力の謝罪!?

ということは...まさか、もう了承してしまった...!?

クソ、1歩遅かっ──


「お前を待ってないといけないの、完全に忘れてたわ!すまねぇ、勝手に外きちゃって...」

「...へ?」


いや...まぁ、たしかにそっちも非常に困りましたが!

今は、それより...


「零さん、聞いてください。絶対、司令部に入ったらダメです。司令部は──」

「ん?司令部には入らねぇよ」

「................」


「...は!?」


零さんは、ケロっとした態度で、そう言い放った。


「え、いや...え?あなた今、達也様からスカウトされてたんじゃないんですか?」

「あぁ。断ったからな」

「.....!?!?」


こ、断った!?本気で!?


「透也、事実だよ」

「...!達也様...」

「零は、私からの提案を断った。それも...完璧な推理を見せてくれたよ」

「完璧な...推理?」


───────


「ぜひ、私たちと共に、この国を支えよう」

「...........」


俺の答えは、ひとつ。


「悪ぃな、その提案は受け取れねぇ」

「...っ!?ほう、その理由を聞かせていただきましょうか」

「うーん、なんつーか...俺のいるべき場所じゃねぇと思ったんだ」


司令部は、いわば将棋の棋士。前線で戦うヤツらや、現場で戦闘員を支援するヤツらを、影で動かす立場の人間だ。

つまり...基本、前線ではなく、基地や管理局で戦争に関与することになる。


「俺は、前線で傷ついたヤツらを癒すために、この軍に入ったんだ。そういうスキルをもらったわけだしな。まぁ...だから、俺は司令部には入りたくない」

「...なるほど。ですが、先程も言った通り、私は司令部の上層部。この提案を断ったら、どうなるか知りませんよ?」


あ〜...それ、言われると思ってたよ。

でも...それ、まったく効かないんだよな、俺には。


「問題ねぇよ。そもそも、俺には輝明様にもらった、軍医っていう立派な役職があるんでな。もらって2日目に、別の役に浮気なんて...さすがに、よくねぇだろ?」


そう、俺は昨日、輝明様にこう言われたんだ。


「零、君をジパング軍医として、3等兵に任命しよう」


そう、もう既に、俺はジパング軍医になってる。あまりにもサラッと任命されたけどな...


「だから、その提案は断らせてもらう。その提案を受け入れる方が、はるかにやべぇからな」


なんせ、国王に逆らうことになるんだからな。そっちの方がよっぽどあとが怖いってもんだ。


「...ふ、はははははははっ!!君は、本当に面白い存在するだ!まさか、1ミリも怖がる素振りすら見せずに断るとは!」

「え?そんなヤバいの?お前...」


なんか、急に不安になってきたけど...


「失礼を詫びよう、零。君は私が思ったよりずっと賢く、潔く、強いようだ」

「...?」

「私の推薦は取り消そう。君は、軍医としてこれからも努力してほしい。私も、君のような優秀な駒は、いくつ持っていても困らないからね」

「駒て...あんまり本人の前で言わねぇぞ?」


まぁ...なんにせよ、これが正解だと思う。俺にとっては、な。


───────


「...ってわけで、断ったんだ。だから、大丈夫」

「そ...そうでしたか。僕としたことが、つい焦りすぎたようです」


息を整えながら、零さんから事の顛末を聞く。零さんが冷静に考えてくれて良かったです...


「...透也、かなり急いで来たようだが...なぜそんなに焦っていたのだ?」

「え?そりゃ零さんがうっかり提案を呑んだら、大変なことになってましたからね」

「え?そうなの?」

「はい。二度と前線に出れなくなるところでしたよ」

「マジ!?そんなやばいの?」

「人聞きが悪いな。そんなに悪質じゃないし、司令部もれっきとした戦争従事者だよ。というか、私が聞きたいのはそうではなく...なぜ、零のために急いできたのか、という話だ」

「え...?」


零さんのために来た理由...?


「君は、人のために全力を尽くせる人間じゃなかったはずだ。サボり癖が酷かったからね」

「辛辣すぎでは?」

「妥当な評価だよ。それで...答えは、どうなんだい?」


たしかに...僕は、なんで零さんのために、こんな全力を出せるんだろうか?

うーん...


「...きっと、期待してるからだと思います」

「...ふむ?」

「彼は、きっとこの世界を変えられる。それだけの力と、理想を持っているからだと思います」


彼は、持っている。

人々の幸せを願う、崇高なる意志を。

そして...それを成し得るスキルと、天才的な頭脳を。

だから...彼ならば、きっと変えてくれる。どれだけ時間がかかるかは分からないけど...正してくれるはずだ。

遍く命を奪い去ってしまう、この戦争に満ち溢れた終末世界を。


「なるほど。透也がそこまで言うとはね」

「な...なんか照れるな」

「妥当な評価ですよ」

「ふむ...でも、これで分かった」


達也様は、燃え尽きたタバコの吸殻を灰皿に捨て、腰を上げる。


「零、君はどうやら私の手元に置いておく駒ではないようだ」

「え?じゃあ、どこに...」

「この国では、本来は司令部の指示がない限り戦争に参加することは認められていない。だが...君を特例として、自由に戦争に参加できるようにしてほしいと、輝明様に頼んでみるよ」

「...!?本気ですか、達也様!?」

「あぁ。彼は、駒として扱うにはもったいなさすぎる」

「ですが、その権限は...」


その権限を持っているのは、この国でたった5人しかいない。そんな権限を国王直々に付与するとなると...それは、その5人と同格だという証明に他ならない。

しかも、その5人とは...


「零、追って連絡するが、私の頼みを聞き入れてもらえれば、君は自由に戦争に参加できる。存分に、軍医に励むといい」

「...!!あぁ、任せとけ」


零さんは、覚悟を決めたという表情だった。相変わらず、こういう時の対応が早いですね...


「それから...透也」

「...?」

「君に零を任せる。しっかり鍛えておくように」

「....!!えぇ、お任せ下さい。もとより、それが輝明様からの勅命ですので」


どうやら、達也様も、零さんの本当の価値を理解したようだ。

彼は、今も優秀だが...まだ足りない。

彼の真価を発揮するには、もっと思考力も、精神力も必要だし...

何より、戦う力を身につけなければならない。だから、その力をつけさせるのが...

僕に課せられた、最重要任務というわけだ。


「では、君達の活躍に期待しているよ」


そう言い残し、達也様は、再び管理局の中へと姿を消した。


───────


「...どうでしたか?達也」

「あれはダメですね。私たちの手元に置くには、あまりにもったいないない」


どうやら...達也は、勧誘に失敗したらしい。半ば諦めたような笑みを浮かべていた。


「言った通りでしょう?彼は、異常なんです」

「そうですね...正直、彼を甘く見ていましたよ」


まぁ、かくいう私も、はじめはそこまで信用していませんでしたが...

久しぶりに輝明様と輝史様以外の人間から呼び捨てにされ...

その上、あの透也に、あそこまで火をつけるなんて...

彼は、本当に変わった能力を持っているようだ。


「...ふふっ、今後が楽しみですね」

「えぇ。彼はきっと、将来私たちと肩を並べることになるでしょうね」


確かに..w私たちと同じ高みに至る日は、そう遠くないでしょう。

楠木零...<堕天使>でありながら、この国の軍人よりも、遥かに優れた能力を持つ、奇妙な男。


「...久しぶりに、少し楽しめそうですね」


私は小さく笑みを零しながら、達也と共に、輝明様のもとへ向かった。

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