あなたがギャルを好きと言ったから
うへへ。紫崎くん。今日も格好いいなぁ。隙あれば体操着盗みたいなぁ。
彼の中性的な声も大好き。毎日録音してイヤホンでそれを聞きながら寝るのが生涯の楽しみになっていました。
今日も彼はお友達と他愛ない会話をしている。もちろん録音中。
だけどその他愛ない会話が私の人生を狂わせることになった。
「朱美ちゃん。私、ギャルになる」
「う、うん? どうした急に……」
「私の好きな人が『付き合うなら断然ギャルが良い』と言っていたからです!」
私の好きな人。
紫崎恭弥くん。
「紫崎のやつ、そんなことを言っていたか」
「あれぇ!? どうして私の好きな人が紫崎くんであると知ってるの!?」
朱美ちゃんには『好きな人はいる』と言ってあるけど、それが『紫崎くん』であることを教えていなかったはずだ。
「いや、わかるわ。紫崎とすれ違う度にアンタ彼の匂い嗅ぎ始めるし、前の席のアイツからプリント受け取る時、両手でアイツの手を握り締めに行っているし」
「だってだって! 彼の香りを体内に取り入れることは必要な栄養補給だし、彼の手に触れることで私の血流の活性化にもつながっているんだもん」
「意味わからんわ! 真白、アンタ恋すると意味不明な方向に突っ走るよな。奇行の次はギャル化? 無理すんなし。ていうか真白は『ギャル』とは一番遠い位置の女の子じゃん」
朱美ちゃんの言う通り、私、黒峰真白は見た目が大人しいタイプだった。対して『ギャル』とはその真逆の位置に在する者。
「う、うん。でも私、頑張るの」
紫崎くんの好みの女の子に少しでも近づく為に、黒峰真白、ギャルになります!
「皆さん! そして紫崎くん! おはようございます!」
ギャルに変身した初日の登校。
うふふ。皆さん私を見て驚いています。
紫崎君をチラッと見ると口を大きく開けて呆然としています。その口の中に住みたい。
「ま、まままま、真白!? 真白――だったもの!?」
「なんですか朱美ちゃん。『だったもの』って。えへへ。どうです? どこからどう見てもギャルでしょう?」
「どこからどう見ても変態よ!!」
「えええ!?」
「ちょっとこっちにきなさい!」
朱美ちゃんに連れられ、人気の少ない場所にまで担ぎ込まれる。
朱美ちゃんひどく狼狽えている。その表情には沈痛なものが浮かんでいた。
「ツッコミどころが多すぎるわ……そうね、まず、その足の装備品は何!?」
「何って……普通の50cm厚底ブーツですけど」
「普通の厚底ブーツはそんな竹馬みたいなものじゃないのよ! ていうか今までよく転ばなかったわね!?」
「紫崎君の為に足腰を鍛えてきました」
「あと、どうして靴下片っぽ履いてないのよ!?」
「片足ルーズソックスです。ちゃんと片方失ってきました」
「ルーズって『失う』って方の意味じゃないからね!? 『緩い』って意味の方だし!」
なんと。朱美ちゃんに指摘され自分の解釈違いに気づく。
「あと、爪! 何この意味不明な長い付け爪は!?」
朱美ちゃんが私の付け爪に気が付いてくれた。
70cmの鋭利の爪がキラリと光る。
「ふっふっふ。90年代後半に流行していたというヤマンバギャルの特徴です。ヤマンバっぽく攻撃力重視で装備してきました」
「可愛さ重視で選べ!? 猛者感出してどうするのよ!?」
「えっ? 付け爪って相手を威嚇する為につけるものですよね?」
「猛者感!!」
朱美ちゃんはどうして頭を抱えているのだろう? ルーズソックスの解釈違い以外完璧なギャルの装いだと思っていたのですが。
「まぁ、いいわ。全然よくないけどまぁいいわ。私がね……最も突っ込みたかったのは――」
朱美ちゃんが私の背後に回り、私の背中から伸びる『妖精の羽』をむんずと掴む。
「このバカでかい羽はなんじゃああああああああ!?」
「知らないんですか。朱美ちゃん。これは00年代後半に流行った『アゲハ系』ギャルの特徴ですよ」
「アゲハ系を通って来た先人様全員に謝れ! 妖精コスプレすることをアゲハと勘違いしてきたな!?」
「えっ!? 違うのですか!?」
「これが流行っていたら大問題になるわっ!」
正直、ギャルファッションの中でこれが一番可愛いと思って気合を入れて徹夜で作ったのに。
「ちなみに『耐風』『耐水』『耐熱』にこだわった作りです。付与能力だけじゃなく骨組みも丈夫なので防御面でも優秀なんですよ♪」
「鍛冶師にでもなれ! アンタは!!」
本当は肌を焼いたり髪色を染めたりするべきかなとも思ったのだけど今の私にはそこまでする勇気はなかった。
だからこそ装飾品で身を包むくらいは全力で取り組んだ。
朱美ちゃんは色々言ってくるけど私なりに自信のあるギャル変身だった。
「ね、朱美ちゃん。今の私のギャルギャルしさなら紫崎君も気に入ってくれますよね?」
「真白……正直に言うわ……」
片手で頭を抑えながら沈痛の表情を向けてくる朱美ちゃん。
意を決するように強く言ってきた。
「お前のそれはギャルじゃねーよ! ギャグだよ!!」
木霊する朱美ちゃんの叫び。
ギャグと言われようと私は自分の信じるギャル道で紫崎君にアタックするの。
「今に虜にしてあげますからね紫崎君。ギャ~ルギャルギャル!!」
「ギャルは『ギャ~ルギャルギャル』って笑ったりしないわぁぁぁっ!」
黒峰真白17歳。
ギャル始めました。
✿✿✿✿✿✿✿✿
私、黒峰真白には好きな人がいる。
「黒峰さん。おはよう」
不意に声を掛けられる。
この中性的な声は――
「ぬぎょひゃああああ!! し、しししし、紫崎君!」
「声掛けただけで『ぬぎょひゃああああ!!』って言われたの初めてだよ。相変わらずユニークだなぁ黒峰さん」
「ご、ごめんなさい。おはようと言おうとしたの! そしたら私の口内で舌が大暴れしちゃってちょっと嚙んじゃっただけなの」
「あ、ああ。んと、あるよね。舌が絡まること」
「「「(ねーよ)」」」
その様子を見ていたクラスメイト全員が内心でそんな風に突っ込んでいたことを私は気づいてはいなかった。
「紫崎君、今日も格好いいなぁ。若干高めな中性ボイスを聞くだけで妊娠しそう……いや、もうしているんじゃないかな? おーい胎内の人~。誰かいませんか~?」
「「「(胎内に呼び掛けてる!?)」」」
「あ、あの、黒峰さん? 全部声に出ているけど。そ、その、声褒めてくれてありがとう。あと、格好いいって言ってくれて」
「ぬぎょはああああ!!」
「その『ぬぎょはあああ!』ってのもしかして口癖なの!?」
「ち、違うの! いや、違わないの! でも違うの!」
「落ち着いて!?」
「格好いいって言ったのは、そ、そう、その服のことなの!」
「みんな同じ制服着てるよね!?」
「中性ボイスを聞くだけで妊娠しそうっていったのは……うわあああ! これに関しては言い訳できないよぉ!」
頭を抱えながら机に突っ伏す。
真っ赤な顔が相手に見られないようにとせめてもの抵抗だった。
「お、落ち着いて黒峰さん。えと、僕の声をそれだけ気に入っているってことだよね。うん。嬉しいから。こんな風に声を褒められたのは初めてだよ」
「(((だろうな)))」
私に気を使って優しい言葉をかけてくれている。好き。あっ、好きだ。生まれた時からこの人のこと好きでした。
「ありがとう紫崎くん。私、元気な赤ちゃん生むからね。一緒に育ててね」
「胎児を宿していることを確定みたいに話さないでね!?」
何気ない朝の一時。
あと少しで私が紫崎くんのことを好きだってことを知られてしまう所だった。
「ふぅ~、危なかったなぁ」
「((((まさかコイツ、誰も気づいていないと思っているんじゃないだろうな))))」
今日も私の秘めたる思いの暴走を寸前で止めることができました。私えらい。
紫崎恭弥くんは私の前の席だ。
席替えの前日、4時間かけて出雲まで趣き『明日の席替えで将来の夫と隣になれますように~!』と2時間以上拝殿前で手を合わせた甲斐あり、隣とまでは行かなくても彼の後ろの席をゲットすることができた。
なんで隣じゃないの!? 神様のバカ! 無能! 賽銭守銭奴! なんて呪ったこともあるけど、今はこの席であることに感謝している。
黒板横の窓から秋の涼やかな風が優しく教室内を吹き抜ける。
キタ!
前方より吹き抜ける風が私の鼻孔を擽った。
紫崎くんの隙間を突き抜けて届いた風を私は全力で受け止める。
ああ。紫崎くんのかほり。
「すーはーすーはーすーはーすーはーすーはー!!」
「ど、どうしたの黒峰さん!? 急にすごい勢いで深呼吸なんかして!?」
「な、なんでもないの。この爽やかな風が今日の私の昼食なの。嗚呼。早弁ごめんなさい」
「空気がごはん!? 黒峰さんダイエットでもしているの?」
「この風の香りを身体に取り入れるだけで今日も私は生きていける。身体中に清涼剤が染み渡る。ありがとう紫崎君。貴方のおかげで私の寿命が20年伸びました」
「僕なんかした!?」
「貴方はそこに存在してくれるだけで私は満たされるの。何も気にせずそこに座っていてくれるだけで十分。でも出来ることなら脇を少し空けておいてくれると嬉しいかな」
「脇を空けると喜ぶってどういう状況なの!?」
「そこから漏れ受ける風がより貴方の香りを強く――はっ!? な、なんでもないです!」
「もう手遅れだよ!? もはや逆に脇を締めて授業を受けたくなったよ」
「そんな!? 殺生な!」
頬を膨らませながら恨めしい気持ちで紫崎君の後ろ姿を見つめる。
仕方がない。
脇下からのそよ風は諦めよう。
次は私から素敵な香りをプレゼントする番です。
「オープン! フェアリーウイング!」
今日の日の為に用意してきた妖精の羽。私はそれを思いっきり開く。羽の端が隣の席の佐藤君に当たった。ごめんね佐藤君。
「な、なんか、良い香りがしねぇ?」
「本当だ。金木犀の香りがする」
そう――ギャルと言えば謎の良い香り。
その香りに男の子達はメロメロになる。
でも香水着用は校則違反なので、私は金木犀の香り玉を妖精の羽の内側に仕込ませていた。
ふっふっふ。この香りで紫崎君も私にメロメロなんですから。
「アンタは食虫植物か!?」
「ギャ~ルギャルギャル! 獲物が掛かれば全てよし! だよ。朱美ちゃん」
「ギャルを魔物か何かと勘違いしているな!?」
朱美ちゃんはこう言っているけど香りで男の子を誘惑するのはギャル的に有りだと思っている。
ほら、その証拠に紫崎君も香りに夢中――って咳ごんでる!?
「ごほっ! ごほっ! 香りに酔った」
「!!?」
なんてこと!
紫崎くんが苦しんでいる!?
「この羽の……この羽のせいで……っ!!」
「いや、アンタのせいだよ!」
「大丈夫!? 紫崎君! すぐに私が何とかするからね!」
私は羽の内側に仕込ませていた金木犀の香り玉を付け爪ではぎ取った。
そのまま佐藤君の口の中に香り玉を押し込む。ほんとごめんね佐藤君。
香り玉の処分を完了すると、私は再び妖精の羽を装備し、私は机の上に起立した。
「でやぁぁっ!」
机の上でステップを踏み妖精の羽を大きく羽ばたかせる。
生じた気流の渦に香りが飲み込まれる。
香り渦が私の頭上に集中して漂っていた。
「す、すごい! 美しいステップから放たれる空気の渦が空間の香りの全てを集約させている」
「ふっ、ギャルなら……これくらい出来て当然です!」
「「「(アンタ以外できない所業だよ)」」」
「佐藤君! 窓を全開まで空けて!」
「ふ、ふがふがっ!」
香り玉を口内に転がしながら佐藤君が私の指示に忠実に従ってくれる。良い人過ぎない彼?
「空間から消滅せよ! 穿て! ギャル玉!」
香りを集めた空気の渦を妖精の羽で思いっきり叩き打ち放つ。
私の放ったギャル玉は佐藤君が空けてくれた窓の外へと飛び出し、そのまま空気に溶けて霧散した。
「あ、ありがとう。ギャルって――ううん、黒峰さんって凄いんだね!」
「し、紫崎君に褒められた! 嗚呼……ギャルをやってよかった」
今までの私だったらここまで紫崎君に近づくことなんてできなかった。
でもギャルになったことで不思議なパワーが私の中で渦巻いている。
今なら何でもできる気がした。
✿✿✿✿✿✿✿✿
テストが近い。
皆、この時期はピリピリし始める頃だ。
私も頭を抱えていました。
どうすれば『紫崎くんと一緒にテスト勉強をする』というシチュエーションに持っていけるかで頭がいっぱいだった。
私が紫崎君に勉強を教えるにはそれなりの口実が必要だ。
『紫崎君。私が勉強教えてあげる』
これは駄目ですね。こんな上から目線女可愛くない。男性のプライドを刺激するような真似は一発で嫌われてしまうからアウトです。
ギャルはお馬鹿なくらいが愛嬌あって可愛い。
つまり――
『紫崎君。私に勉強教えて♡』
「これだあああああああああああ!!」
「うわぁ!? ど、どうしたの!? 黒峰さん!」
その場で立ち上がり不意に大声を上げた私に驚きを示す紫崎君。
あっ、もしかして今話しかけるチャンス!?
「紫崎君。私に勉強教えてほしいな♡」
「黒峰さん前回の試験ランキングで学内1位じゃなかったっけ?」
ぐっ、そういえばそうでした。
早速計画に支障が……
「紫崎君。私、実は記憶喪失なの。前回の試験後から現在まで学習に関する記憶だけが抜け落ちてしまったの。これは誰かに勉強教えてもらわないといけないです。絶対そうです」
チラッチラッと紫崎君に視線アピールしながらぶりっ子ポーズで懇願する。
「なにそのピンポイントな記憶喪失は!? ていうか黒峰さん、たった今返された小テスト余裕で満点取ってたよね!? そこに満点答案広がっているし」
グシャ! もぐもぐ
「小テストを食べた!?」
「もぐもぐ……小テスト? なんのことかな? バカな私にはわかんなーい」
「満点の答案をもぐもぐさせながらよくそんなこと言えるね!? ていうか本当に不衛生だからホラ吐き出して!? ねっ!?」
「ごくりんこ。お願い紫崎君。馬鹿な私に勉強を教えてください」
「たぶん僕が教えなきゃいけないのは倫理観だと思う!!」
「(((紫崎が正しい)))」
「あと、二人きりだと手に負え――じゃなかった。き、緊張するからさ。他にも2人くらい呼んでもらえると」
確かに。いきなり二人きりは私もハードルが高い。緊張で何しでかすか自分でも分からない。
でも大丈夫。そういう時に止めてくれるお友達が私にはいる!
「召喚! 朱美ちゃん! 佐藤君!」
「アタシはいつからアンタの配下になったんだ」
呆れながらもしっかり私に付き合ってくれる朱美ちゃん。好き。
佐藤君も何も言わず頷いてくれている。なんでこんなに良い人なの? 今まであんまり喋ったことないのに。
多少強引だったけど紫崎君は最終的に一緒にテスト勉強することに了承してくれた。
やっぱり恋の進展には多少の強引さも必要だよね。
「すごい。紫崎君。教え方上手なんだね」
これはお世辞でもなく本音だ。
紫崎君はいい先生になれる。あ、やっぱダメ。近づいてくる女の子の教え子に片っ端からパイルドライバー喰らわせたくなるからダメだ。紫崎先生は私だけの先生なんだから。
「う、うん。それはありがとう。それはそうと……近いね」
「えっ? 5mmも離れているのに?」
「せめてセンチ単位で離れるべきかなと」
「でも近くないと手取り足取り教えづらくないかな?」
「テスト勉強で何を手取り足取り教えなきゃいけないの!?」
「お互いの足を絡めながらテスト勉強したら捗ると思いませんか?」
「どう考えても集中できなくなるよ!?」
私の提案を尽く拒否してくる紫崎君。
あっ、もしかして――
「紫崎君。もしかしてだけど緊張してる?」
「そ、そりゃあ……ね。黒峰さん美人だし、こんなに近いといい匂いするし」
「ぬぎょはああああ!!」
「久々に出たな!? 謎の雄叫び『ぬぎょはああああ!!』」
し、紫崎君に美人って言ってもらえた。良い匂いって言ってもらえた。
嬉しい。もっと彼に喜んでもらいたい。
「ち、ちなみに紫崎くんはどんな香りが好き?」
「む、難しい質問だね。僕は緑の香りとかが好きかな。ハーブ系とか」
「わかったわ! ちょっと待ってて! すぐに教室を緑でいっぱいにして見せるから! 佐藤君手伝って!」
佐藤君は首を縦に振って私の指示通りに動いてくれる。
「紫崎君、今最高の土壌を持ってくるからね!」
「教室内に!?」
「最高の緑は良質の土あってこそだよ! 大丈夫! 私と佐藤君なら一日もあれば教室内をジャングルに変えられるから!」
「それは緑化活動の幅を大きく超えているよ!」
いつの間にかテスト勉強が室内緑化活動へと変更になってしまっているけど、でもいいの。一緒にテスト勉強をしたいというのは私の願望。そんなものよりも紫崎君に喜んでもらえる行動を起こしてあげたい。
「……ねぇ、朱美さん。キミの親友すごいね」
「……まぁね。元々変な方向に突っ走っていてしまう子だったんだけど、あそこまで頭おかしいのは初めてだわ」
「でもそれが黒峰さんの一番の魅力なんでしょ?」
「そうね」
「……眩しいなぁ」
私と佐藤君が土の運搬業務を行っている最中、その様子を朱美ちゃんと紫崎くんがぼんやりと眺めていた。
紫崎君の優しく見守る視線がぶつかり、私の心臓は飛び跳ねた。
ああ……
もう駄目だ……
好き過ぎてどうにかなってしまっている……
決めた。
告白しよう。
この室内を緑でいっぱいにすることができたら私の思いをぶつける。
やると決めたらもう迷わない。
ギャルというのはそういう生き物なのだから。
✿✿✿✿✿✿✿✿
教室内にジャングルが出来上がる。
教室の中心に聳え立つ世界樹の前で私と紫崎くんの二人が向かい合っている。
朱美ちゃんと佐藤君には先に帰ってもらった。
紫崎君は私の呼び出しに応じてこの場にずっと待ってくれていた。
「紫崎君は……ギャルがお好きなんですよね?」
「う、うん。もしかして友達との会話聞いていたのかな?」
「は、はい。盗み聞きみたいなことしてごめんなさい。後でちゃんと録音データ消しておきますので許してください」
「録音されていたのは衝撃の事実だよ!?」
しまった。余計な情報まで喋ってしまった。
「あの日の会話を聞いてから私は自分を変えることにしました。貴方の目に留まるように。貴方の好みの子になれるように」
「黒峰さん……」
「私、もっと自分を磨きます! ギャルについて勉強します! だから……私を貴方の傍に居させていただけませんか? ずっと……ずっと好きでした」
今の私はまだまだ理想のギャルとは程遠い。
口調もギャルっぽくないですし、髪だって染めてない。彼が望むならムカデ盛りみたいな付け睫毛だってつけるし、黒ギャルにだってなってみせる。
ギャルには無限の可能性がある。
その可能性を追いかけていけばいつか紫崎君の理想のギャルにだって――
「ごめん……ごめんなさい……黒峰さん」
「ぬぎょはぁぁぁ! 普通に振られた!?」
「まさかこの場で『ぬぎょはぁぁぁ』が出てくるとは思わなかったけど……そんなことより……本当にごめんなさい黒峰さん。僕はキミと付き合うことができません」
「そ、そんな……やっぱり私のギャル力が低かったから」
「逆だよ黒峰さん。キミの魅力が眩しすぎて……僕にはとても支えられそうにないと思ったんだ」
「そんなことない! 私、いっつも暴走気味で、それでいつも朱美ちゃんにも迷惑かけちゃって。誰かに支えてもらわないと駄目なんです。私は紫崎君に支えて……もらえたい」
本音を言えば一緒に楽しんでもらいたい。
私と一緒にバカなことをやって、大人になったら『あんなこともやったよね』って語り合えるようなそんな関係に――
「その役目は……さ。もっと適任者がいると思う。僕よりも朱美さんよりも、もっと近くに」
「えっ?」
「その人のこと、探してみて。後先考えずに突き進むのがキミの魅力だけど、たまには近くを見渡すのも良いと思う」
それだけ言い残すと紫崎君は申し訳なさそうに去っていく。
私は追いかけることができなかった。
振られてしまった私には追いかける資格なんてないのだから。
それよりも私は紫崎君に言われたことで頭がいっぱいだった。
「私を支えてくれる……適任者……近くに……?」
朱美ちゃん以外にそんな人居るわけがない。
大体私ときたら、いつも勘違いして、突っ走って、他人に迷惑かけて。クラスのみんなも、そして紫崎君も私に呆れているだろう。
そう――私なんかと行動してくれる人自体いないんだ。
高望みなんてしてはいけない。支えてもらおうなんて考えるだけでもおこがましい。
勿論理想を言えば、私に協力的で、呆れずに付き合ってくれて、文句も言わなくて、一緒になって楽しんでくれる人が居れば最高だけど、そんな人世界中どこを探しても――
「――ん?」
――このジャングルを一緒に作ってくれたのは誰だった?
――教室の異臭トラブル時、無償で協力してくれた人は誰だった?
「あっ……あっ……」
今さらになって、気づく。
大切な人はすぐ傍にいたのだと。
手が痛い。足も鉛みたいに重い。
絶対昨日のアレが原因だよなぁ。隣の席の女子に付き合って教室内に土を運び込んだだけで筋肉痛になってしまったか。
だけど心地良い充実感だった。
俺は進んで人と関わり合いになるタイプではなかったはずなのに、最近は気が付けば隣の女子に付き合わされている。
一体どうしてしまったのだろう俺は。
「ねえ。佐藤君」
その元凶の自称ギャル――黒峰真白さんは今日も俺に話しかけてくる。
さてさて、今日はどんなとんでも展開に付き合わされるのかな。身体じゃなく頭を使う系なら助かる。あっ、この人に限ってそれはないか。
しゃーない。今日も肉体労働頑張りますか。
俺は覚悟を決め、黒峰さんに視線だけ合わせることにした。
俺を見つめるその瞳に若干熱が籠っていることに気がづいた。
よく見ると彼女の頬は若干赤くなっていた。
な、なんだ?
黒峰さんは一つ大きく深呼吸を入れると、そのままズズィと俺の眼前にまで近寄り、意を決するようにこう言ってきた。
「ギャルはお好きですか?」
見てくれてありがとうございます!
おばか全開ハイテンションギャグラブコメいかがだったでしょうか。
日々お疲れの方、スカッと笑って笑顔をお届けできたなら幸いに思います。
別の短編小説も随時投稿しておりますので、良かったらご参照ください。
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✿✿にぃ✿✿