プロローグ~召喚の日~
久しぶりに投稿します。
文章が拙いことは相変わらずですが、見ていただけると幸いです。
お便りいただければさらに僥倖。
よろしくおねがいいたします。
「おにいちゃーん、待ってよー」
「早すぎるよー」
「お前らが遅いんだろ、まったくしょうがないな」
公園の日暮れ
3つの人影が伸びている。
3つの影は、小さい影が2つ、それより若干大きい影が1つ
2つの影が、1つの影を追いまわしている。
3人がしているのは鬼ごっこ
鬼が小さい影2つ、それに対して逃げているのが1つの影だ。
しかし、年の差もあって、大きな影には、なかなか追いつけない。
2つの影は前後から挟もうとするが、
それをひらりと逃げてさらに走る。
しかし、先ほどまでより若干速度を落とした事もあり、
鬼の手がかする
「やったーー、兄ちゃん捕まえた」
「やったね、美羽」
小さい影達は、お互いの手を取り合い、飛び跳ねあう。
「あーあ、捕まったか、まぁそろそろ夕飯の時間だし、帰ろうか」
対する大きな影は、溜息一つつき、帰宅を促す。
もう辺りは、夜の手が伸びてきており、
先ほどまで遊んでいた近所の子は既に帰途へついている。
公園が家のすぐ隣ともあって、3人はいまだ帰らず
遊びの余韻を余すことなく楽しんでいたのだ。
「さんせーい、お腹ぺこぺこだよ」
「私もー」
3人は、兄弟妹であり、帰る場所ももちろん一緒
兄は2人の顔を見比べるが、顔にほとんど差異がない事を再認識する。
2人は双子、しかも一卵性双生児と呼ばれる、DNA的には同一の2人だ
妹の方が若干髪が長いことを差し引くとほとんど見分けがつかない。
「よーし、帰ったらまず手を洗うんだぞからな」
「「はーい」」
完全にハモってるし
「おら、食え」
「「わーい、いっただっきまーす」」
ハモって、目の前の料理にがっつく2人
目の前の料理は、愛情こもった母の・・ではなく兄の料理
簡単な炒め物に、唐揚げ、サラダに煮物
買い物から下ごしらえ、料理全てを兄が担っていた。
これというのもこの3兄弟の家庭環境に起因する。
一家の大黒柱たる父親は、3人の食いぶちを稼ぐため、毎日遅くまで働く
一方一家の支えたる母親がいない、父親の話だと、3人の物心つく前に
病死したとのこと。
物心つく前だから、3人に母親の記憶はない。
それに伴い、一番上の兄が、その責任感の強さゆえ幼い時から家事を担当している。
掃除、洗濯は5歳、料理は7歳、単独での買い物は10歳。
気が付いたら、立派な主夫と成りあがっていた。
もちろん、家庭の財布は、父親が握っているが、生活に必要な物は
全てこの13歳の少年空河に託されていた。
下の兄弟は、いまだ10歳
遊びたい盛りでもあるし、食べ盛りでもある。
しかも2人ともお兄ちゃん子ときた
家事の合間を見ては、今日のように2人や近所の子供達と遊んだり、
いろいろと面倒を見たりする。
毎日忙しい日々であるが、それなりに充実している。
そう、その日までは
「可哀そうにねぇ、両親とも亡くなられたんでしょう」
「ああ、施設行きは免れないだろうな」
「まったく居眠り運転のダンプに突っ込まれるなんて事故は怖いわね」
主のいない家の葬式
父親は帰りにダンプにひかれ、短い生涯を終えていた
その後、3人を待ち受けていたものは、
世間の荒波であった
葬式切り盛りはさすがに13歳の空河には無理であり、
遠い親戚のつてにてなんとかこなした。
しかし、見返りとしてぼったくりに近い額の遺産を持って行かれた
3人を引き取ろうとする親戚もなく
行く末は、施設であり、良くて新しい家族に引き取られるだけであろう。
「おにいちゃん・・僕たちどうなるの・・・」
「私この家から出たくないよ」
震える2人を両手につなぎ、
新しく生活するべく施設へ向かう途中であった
必死に大丈夫だ、兄ちゃんがなんとかしてやると
2人を奮いたたせる。
実は必死に自分に言い聞かせていただけだが
2人の前もあり、怯えに似た感情は、自分の中に抑え込む
「大丈夫だ。俺達3人を受け入れてくれる所はきっとある。
お前たちは何の心配もしなくていいよ」
そう無理やり笑顔で2人に向き合う。
天を仰ぐと心情に呼応したかのように雨が降り始めた
はじめはポツリポツリだったが、次第に土砂降りの雨となった
傘を持っていない3人は雨宿りのため、誰もいない公園の屋根のついた
ベンチに隠れた。
季節は冬で、凍えるように3人で身を寄せ合う。
下二人は疲れからか寝息を立てている。
その瞬間、
「やぁ、こんな所でどうしたのかな」
誰かに呼びかけられた
振り向くと、黒いスーツを身にまとった若い男が立っていた。
手にはステッキ、雨の中、傘もさしていない
髪はオールバックでこぎれいにまとまっている
若い紳士それが彼のイメージであった。
「あなたは・・誰ですか」
あまりに場違いな紳士に空河は警戒した。
「おぉ、おぉそんな顔で睨んじゃ駄目ですよ
全てに絶望したって顔をしてるね
僕が救ってあげようか?」
微笑と共に話を進める紳士
空河は警戒を強め、声を荒げる
「な、何を言っているんだ、あんた」
クスクスと手を口に当てながら
「簡単さ、3人で暮らせるような世界にご招待しようっていうだけさ
もちろん、ただではないけどね」
「やっぱり、あんた詐欺だろう」
訝しげに睨む空河
父親の葬儀からずるい大人は嫌というほど見てきた
そんな空河が軽い大人不信になりつつあった。
おどけるように紳士は続ける
「いやいや、条件は簡単、今3人の他の全て。
家から、友達、学校、全てにこの世界からさよならできるかい?」
「・・・それなら既にないよ、大切なのはこの2人だけ」
そう、家も友達も学校も、父親の死と共に遠くなってしまった
「了解したよ、それでは3名さまご招待!」
紳士はわかったとばかりにステッキをクルクル回す
「ま、待ってくれよ、誰もまだ答えは・・うっ」
ステッキを見ていると次第に気が遠くなる。
「良い旅路を」
最後の紳士の言葉がやけにクリアに聞こえ
3人は意識を失った。
「ここはどこだ・・」
見渡す限りの森
あの紳士に拉致され、森に置き去りにされたか
「そうだ、2人は!!?」
見回すと、少し離れたところに2人は倒れていた。
「宗也、美羽!!」
2人にかけより、呼吸をしていることを確認し、一息つく。
「よかった。2人とも無事か・・・」
安心すると、気が抜け腰をその場に落とす
落ち着いて、周りを見回すが、見渡す限り森森森
しかもかなりの暑さだ
季節は冬のはずなのに、このうだるような暑さ
おもわず、空河は来ていたダウンジャケットを脱ぐ。
ふと海外まで連れ去られたのかと頭が混乱した。
あの紳士は?売り飛ばされた?では何故ここに置き去り?
考えれば考えるほどわからなくなり頭を抱えた
「ん、おにいちゃん・・ここどこ」
「おはよう・・おにいちゃん」
見ると妹の美羽、弟の宗也が起き上がって周りを見回していた。
まだ頭が醒めきっていないのか、混乱する様子はない。
「落ち着いて聞いてくれ・・どうやら俺らは森に置き去りにされたらしい
誰にどこに、何でかはわからない・・・
とりあえず人里を探そうと思う。」
「うん、わかった」
「お腹減った・・」
宗也それは兄ちゃんも一緒だ。
まずは人里を見つけなくては、知らない森。どんな動物がいるかわかったものじゃない
まだ、朝みたいだが、夜になれば、夜行性の動物がわんさかいるかもしれない。
明るいうちに安全の確保をしなければ命の危険さえある。
それに水がなければ、1日2日としないうちに脱水症状になるだろう。
動けるうちに動かないといけない状況であった。
2人を両手に従え歩いて行く
森は舗装されたどうろではなく倒れた木や
ヌメッた所もあり決して歩きやすい道ではなかった。
それでも、3人は手をつなぎ時にお互いを引っ張り上げながら進む。
しかしそれでも慣れない道、夏のような湿度、温度とも高い熱帯雨林
幼い兄弟の体力を容赦なく奪う
「お、おにいちゃん・・喉が渇いた」
目がとろんとし、力なくつぶやく美羽
足取りはふらふらして心もとない。
「そうだな、水が欲しいよな・・
よし、兄ちゃんが探してきてやるからちょっと休んで待ってろ
宗也、兄ちゃん戻ってくるまで美羽のこと頼んだぞ」
「うん、任せてよ」
宗也はまだまだ元気そうだ。
座りこみ、寝息を立てる美羽の側で立っていた
顔は同じだが、男の子と女の子なんだなと少し微笑ましくなった。
水を探しに行こうと踵を向けたそのとき、
ガサガサ・・
ちょうど弟妹を挟んだ反対側から草をかき分けるような音が響いた
あわてて振り向き、音と2人の間に盾となるよう走りこんだ
「に、兄ちゃん・・」
「しっ!音は立てるな」
ガサガサガサ・・
かき分ける音は次第に近くなる
これが人か獣か・・・
それによって3人の運命が変わる
祈るような思いで、待っていると
木の影から出てきたのは
2m近い影
逆光のせいか、シルエットしか見えないが
みると頭から角のようなものをはやし
毛皮をまとっている
「これは・・・死んだかな」
どう見ても、熊である。
角が生えているのはきっと新種なのだろう
ある日森の中くまさんに出会った~と
現実逃避するように頭の中を動揺がリフレインする。
2人だけは守らなくてはと
2人をキツく抱きしめ
自身もいつくるかわからない衝撃に目をギュッとつむる。
「なんだ、こんなアルカパの森にガキが3人も・・・
おい、大丈夫か、お前ら」
ふと投げかけられた言葉
驚き、振り返ると
2m近い「熊のような人間」であった。
頭の角も装飾品か、額にくくりつけられていただけ
毛皮は彼の戦利品からはぎ取ったのであろう毛皮のローブであった。
それに安心したせいか
「よかった・・死ぬかと思った。」
目頭が熱くなり、今までの疲れ、気苦労が一気に襲い掛かり
気を失ったのは本日2度目となった。
「お、おい!死ぬんじゃねえぞ!ったく
娘と同じの年頃のガキが3人か・・
見捨てるわけにもいかねえし、しょうがねえ、村連れて帰るか・・・」
困惑した男は3人を脇と肩軽々かつぐと帰途を急ぐのであった。