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マリオンとの甘いデート

「リシェラ、街へ出かけないか?」


 マリオンの提案に、リシェラは大喜びで返事をした。

 結婚が決まってから、初めてのデートである。ゆっくり話して、気持ちを結婚に向ける良い機会かもしれないとリシェラは思った。


 さぁ、そこであらわれたのは3人官女である。

 リシェラの侍女として城下町デートに相応しい、軽やかで清楚でありながら、見逃せない可愛らしさでコーディネートせねば。

 フル特急だが隙なく侍女たちが支度をしてくれたおかげで、2人のデートの時間はたくさん取れそうだった。



「お待たせしました。久しぶりに2人で出かけられるので、嬉しいです」

 マリオンは紳士らしく一礼した。

「お手をどうぞ。姫君」

 そっと手と手を重ね、見つめ合った。


 なんて生き生きとした瞳だろう。


 2人は同じことを思った。

 それを見つめる侍女たちは、まるで一服の絵のように完成された存在に目が釘付けになった。2人は尾びれを優雅に使い、泳いでいく。



 人魚の街は活気に溢れている。美味しい海藻や色とりどりの小魚を扱うお店、沈没船から出てきた陸の品を扱うお店などがあり、行き交う人魚の表情が明るいことに王族としての幸福をマリオンは感じた。

 街の人魚たちは2人が結婚することを知らなかったが、完璧な王子と王女を見て、国の未来は明るいと思った。

「お店を見てまわろうか。どこか行きたいところはある?」

「私、乙姫海老をカリカリにしたものが食べたいです。」

「リシェラが屋台のスナックを知っているとは驚いた!じゃあカリカリスナックを目指しながら、お店も見ようか」

 皆んな王子王女と声を交わしてみたいようだった。お店から出て恭しく、だが興味津々に声をかけてくる。

 もともと気さくな民族である。マリオンが愛着深く民たちと話している姿を見て、リシェラはこの人が自分の夫となる人でよかったと思った。

 またマリオンのほうは、リシェラが身分の高い人として会話をリードしていることに満足した。

 ブティックから屋台へと変わり始め、カリカリスナックのお店があった。1つ頼むと、貝の器に入れて渡してくれる。 マリオンが1つ食べた。

「ほらっ」

 マリオンがリシェラの口にスナックを運んだ。リシェラは反射的にパクっと食べ、スナックの美味しさと、自分の思わぬ行動に目をぱちくりとさせた。

 こんな路上で、カトラリーも使わずにスナックを食べたのだ。町娘のような経験に心がはしゃいだ。


「元来た方に貴族向けのカフェがあるから、そこでゆっくりしながら食べよう。見晴らしもいいんだ」

 この国で2階建て以上の建物は珍しい。陽の光を遮ってはいけないからだ。そのカフェは富裕層向けのカフェなんだろう。

 カフェに入ると支配人らしき人がきて、2階のバルコニー席へと案内した。グラデーションに配置されたマメスナ珊瑚がバルコニーの縁を飾り、可愛らしい。

「メニューを見てみたいです」

 食事はいつも運ばれてくるものを食べるだけだ。

 だが普通はメニューを見て、自分の食べたいものを決めるらしい。たくさんのメニューの中から選ぶのはきっと楽しいだろう。

「少々お待ちくださいませ」

 支配人がいなくなったので、きょろきょろと周りを見てみる。店内に他のお客はいないようだった。小型の沈没船が1階中央にあり、吹き抜けになっている2階から見える。店内も沈没船から出てきたであろう陸のテーブルやチェア、調度品で飾られている。

 色々なところにアンテナを立てているリシェラを見て、マリオンはリシェラの成長を感じた。椅子にゆったりと腰を掛け、あらためてリシェラを見る。


 大人になったのだな・・・。


 自分とよく似ていた妹だが、今見ると全然似ていないように感じる。確かにそっくりなのだが、線の細い肢体、1本1本を繊細に配置されたかのようなまつ毛、上唇がぷくっとしているところ、甘い匂いがしそうな頬。似ているようでもう似ていない兄妹。妻にするなら、美しく、慎ましい女性がよいと思った。はじめに浮かんだのがリシェラだった。

「メニューをお持ちしました」

 支配人に渡されたメニューには、

  ・シェフの気まぐれサラダ

  ・シェフの自慢のスープ

  ・シェフの真心スイーツセット

  ・ドリンク各種

 と書かれている。


 マリオンは笑いを堪えるので必死だった。このカフェで提供されるメニューは事前に決まっていた。リシェラが「メニューがみたい」と言ったので、急遽作成されたのであろう。シェフを全面に推しているお店になってしまった。

「お兄様、私はシェフの真心スイーツとシングルマーメイドカクテルが気になっています。」

「シェフの真心スイーツだね。わかったよ。スイーツのセットとシングルマーメイドカクテルを2つ。1つは波葡萄の実をつけて」

 真剣にメニューを見ていたリシェラが可愛かった。女の子としてときめいてしまった。こんなに可愛らしいのに、好きにならずにいられるだろうか。

「あー、リシェラが私の妻になってくれるなんて、本当に私は家宝者だよ」

「まぁ、お兄様がそう言ってくださるなんて!なんだか認められたようで嬉しいです」

 そういうところは鋭いんだなぁ、我が未来の妻は。

 1つだけカクテルにつけてもらった波葡萄は、リシェラにあーんして食べさせた。

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