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女の子たちのおまじない

結婚が決まる前の、ある満月の夜・・・リシェラと侍女たちの秘密の夜会が開かれていました。

 年に一度の月が大きく輝く夜、月に祈ると恋に恵まれるという言い伝えがある。この日は女性だけで集まって、おまじないや良い魔女ごっこをするのだ。


 良い魔女とは、昔、陸の王子を助けた人魚に協力していた偉大な存在で、三角帽子にヒトデのブローチをしていたそうだ。2人の愛の架け橋となったことで、この日は良い魔女の格好をすると、さらに多くの恋にあやかれると言われているため、みんな三角帽子にカラフルなヒトデの衣装だ。

 部屋には月明かりが皓々と差し込み、光るクラゲたちが踊り、水晶玉が神秘的に輝いていて、ヒトデたちはのびのびとしている。



「内緒のはなしをしましょ」

 

 女性が集まれば、噂話に花が咲く。本日は年に一度の恋のおまじないの日。内緒話にはもってこいの日だ。

「リシェラ様の初恋はどなたなのですか?」

 まさか自分がトップバッターだと思っていなかったリシェラは、ぴくりと手を動かした。カクテルグラスの中のピンク色の液体がゆらゆらと揺れている。

「それが、誰だか分からないの」

「「「えっ?」」」



 あれは台風がきて、海底の砂が舞い、まるで砂漠で迷子になってしまったような日だった。

 少女だったリシェラは、怖いもの見たさで砂の海へと出てしまった。

 いつもは生き物で賑やかな海も、ごぉぉうという海水がかき混ぜられる音しか聞こえない。王宮から出て少し進んでみたが、誰もいなかった。

 リシェラはすぐに飽きて、王宮の自室へと戻ろうとした。しかし、行きはよいよい帰りは怖いとばかりに、海流が強くて王宮に近づけない。

(このっ尾びれがっ・・・!)


 リシェラの身体は、少女から乙女へと変化しつつある。尾びれはより魅力的に膨らみつつ、ひれの部分がひらひらとフリルのようにたっぷりとしてきた。前までは、きゅっと引き締まっていて、海流に逆らって泳ぐのもなんのそのだったが、フリルのひれでは中々進めないのである。

 リシェラは急に怖くなってきた。砂嵐の中にぽつんと1人きり、外に出ることは誰にも言っていない。

 砂がリシェラの柔らかな肌をひっかく。自分は守られている存在だったんだ。豊かな海に生まれたこと、力強い父王と兄弟がいること、世話を焼いてくれる騎士や乳母がいること。みんなが小さなリシェラという存在を大切にしてくれていることに気づいた。

 気をしっかり持たねば。リシェラは誰かの大切な1人なのだ。

 

 その人は、急に現れたように見えた。

「姫、こちらへ」

 風上にその人が現れてくれたことで、一気に泳ぐのが楽になった。すいと砂も海流もなんなく泳いで、あっという間に王宮についてしまった。

 リシェラがほっと一息つくと、その人はもう去ろうとしているではないか。

「あっあの!ありがとうございました。」

「当然のことです。」

 その人の姿は砂塵とまじって青鈍色に見えた。顔は見えない。

「まって!」

 リシェラの声が聞こえなかったのか、その人は言ってしまった。



「それ以来、似たような尾びれの人がいないか見るようにしてるんだけど、いないのよ〜」

「そんな物語のような出会いを姫君がお持ちだったとは、びっくりですー」

 うふふと照れたように、でも得意げにリシェラは笑った。


 砂の中から一粒の真珠を拾い上げてくれた初恋の人。今はどこにいるのか・・・。


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