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残った唯一の友人  作者: 赤蜻蛉
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家最寄駅の何倍も人通りのある駅を降りた。授業前後塾で自習すると伝えて早く塾のある駅までは来たが、決して手を抜いた訳でも無く点数が下がってしまっただけにやる気も出ず、むしろ自分への怒りさえ抱えていた。行く当てもなくいつもとは逆の北口に出た。いつもは歩くエスカレーターも立ち止まって降りた。吸い込まれる様にして出口脇の公園に入った。木が多く、周りの人通りがとても多いのにも関わらずそこは静かだった。変な噂ばかりあるこの公園は子供達にすら不人気で、いつも通り閑散としていた。電灯がまだ点いておらず薄暗く、線路脇のベンチには同年代の明るい髪色の女子が一人座っていた。反対側、ベンチの右端に深く座った。何もしたく無い。塾も学校も全部燃えて仕舞えば良いのに。いや、悪いのは自分だからずっと苦しんでいればいいんだ。どっと押し寄せた疲れに目を閉じてしまった。どこでも浅く座って机に向かっていたからだろう。あと数ヶ月で自分も受験生だ。心の余裕がなくなっていたのかもしれない。しかも昨日は一睡もできなくて考える事もできなかった、暗い公園は疲れたどこまでも自分を溶かしてくれるようだった。

公園の電灯が点いた。寝かけていた僕はハッと目を覚ました。隣を見ると、少女の綺麗な金髪が目に映った。暗くてよく見えなかった彼女の髪色が今は電灯に照らし出されていた。

(頭ちっさ)

暗闇で気づかなかったが自分の拳ほどしかないかのように彼女の頭は小さく、思っていたよりも近くに彼女がいる事に気がついた。

(体ほっそ)

掴んだりしたら彼女は折れてしまいそうな印象を受けた。少しだけ楽になった頭でもなぜそう思ったのか分からない。クリスマスも迫っていて当然分厚いコートを彼女は着ているのだが、自分と同じ人間だとは信じられなかった。彼女から目が離せなかった。人形の様に美しい顔立ちだった。そんな具合に他人が言うのを聞いて嘘だと思った数々の感想が次々と浮かんだ。文句なしに今まで会った中で一番美しかった。普段見かけない様な色白の肌で、目は青い。どこの国の人だろうか。たとえ聞いたとしても知らない国の名前が帰ってきて反応ができずに空気が一層冷え込んでしまうのが容易に想像できて声をかけられなかった。彼女は公園越しに奥の道路を行き交う人達を眺めていた。表情は無かったが、却って悲しげに見えた。

目線が合った。

ジロジロと見ていたことが申し訳なくすぐに目を逸らしてしまったが、彼女はその後もしばらくこちらを見つめてきた。

「はぁ〜〜」

彼女は深くため息をついた。

僕の顔を見てため息をついた。

流石にこれで無反応でいられるほど心に余裕は無かった。

「どうしましたか。」

自分でも言葉に棘があるのが分かった。しかし全く反応が無い。聞こえないのだろうか。

「あなたです。」

指を指しながら言った。反応があるにはあったが、よく状況が飲み込めない様な表情だった。

「…だから僕の何が不満なんですか?」

今度は何の反応も無かった。何度か繰り返しても反応は無いままだった。

自分が誰よりも辛い思いをしているのに、自分はそれを堪えて見ず知らずの人に尽くしているのが馬鹿らしく思えた。

「もういい。」

手を放って席を立った。いつの間にか公園の入り口でタバコを吸って入いる人がいた。公園にも居られないならどこへ行こうかと考えていると後ろからしゃくる様な泣き声が聞こえてきた。

振り返ると彼女はこちらに手を伸ばして何かを言おうとしていた。

「…っ…っ…あっ、の…」

公園入り口で煙草を吸っている人がこちらの様子を伺っている。知らない人だが、彼女を泣かせたまま放置し、挙句に置いていく冷血男に見られるのは嫌だった。ベンチの脇に戻った。よく分からない表情のまま涙が流れ出る両目をこちらに向けてきた。

「どこにも行かないから泣くな。まずは涙引っ込めろ。それから話せ。」

彼女は何度も頷いた。ここにきてから初めて話が通じたように感じた。


「見えるの?」

一頻り泣いた後、彼女は初めて話した。落ち着いてはいるが可愛らしさが時折顔を見せる声だった。面倒な性格さえなければ顔も良いし付き合いたいと思った。

「当たり前だろ。で、何で急に泣いたの。」

「また無視されるのかと思ったから。」

「そりゃそうだろ。こんな美少女に訳も無く話しかけるのはナンパぐらいだろ。」

「えっ、じゃあ…」

彼女は困惑の表情を見せた。

「僕は断じて違う。他人に顔を見つめられた後にため息つかれたら流石に理由ぐらい聞きたいよ。」

「…ふふふ。」

彼女の笑顔は少しぎこちなかったが予想通りの破壊力があった。平然を保つので精一杯だった。

「ため息をついた理由だよね?それは私の昔の親友に似てるから。もう会え無いし、会ったとしても私が昔の様には出来ないけど。」

「…そうなんだ。大変だね。」

「うん。…何があったか聞かないの?」

「だってまた泣いてるじゃん。」

彼女は慌てて頬をつたる涙を拭いた。

「ごめんね、こんなのばかり見せて。こんなに涙脆くはなかったはずなんだけど。」

「謝らないで。互いに誤解してたみたいだしさ。」

「じゃあ、私の昔話を聞いてくれる?」

「…?」

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