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残った唯一の友人  作者: 赤蜻蛉
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テスト

鍵を静かに開けた家の玄関の前で深呼吸をした。

まず、ゆっくりとドアノブを回す。

歪んだドアが鳴らないように半開きにし、体を滑り込ませて半回転をして、ドアノブを押し込んだままさっと閉じてドアノブを戻し、鍵を静かにかけ、足どうしを合わせて靴を脱ぎ、衣擦れの音がしないように部屋まで歩き、部屋のドアに手をかけ、そしてそして…

リビングから顔を出した母と目が合った。我ながら綺麗な母を持ったと思うが本人は何か不満があるらしい、というより自己肯定感が足らないように見えるが。無論、気まずい時にはこのように圧倒されてしまう。

「夕飯できてるわよ。」

「いい。外で食べた。」

「誰かに奢ってもらったの?」

「いや。」

「なら、大事な話があるから荷物置いたら来て。」

目線を外して逃げ込むように自室に入った。机に荷物を置いて呆然とした。もしかして最後の塾の模試の点数が悪かった事を知っているのだろうか。模試の結果なんてまだ知っているはずがない、そう自分に言い聞かせてリビングに向かった。

居間の扉を開けると食卓には夕食が並んでいた。

「なんで分かったの?」

「夕食のこと?だってお金持ってないじゃん。」

頭を抱えてしまった。頭が良いと自負していただけに、自分で呆れてしまった。母は大学を出ていないが地頭がいい。勘を働かせない為に話を逸らす。

「ところで話って?」


要約するとこういう事だった。母は市の翻訳を手伝う事になったらしい。今までは大体家に居たのが、留守になる事が増えるので非常時用のお金を僕に持たせた。家に1万円置いておき、別に鞄に2万円入れる。時間は13時から16時で短いが、僕が塾に出発するのには間に合わない。基本は水木金の出勤だが、仕事に慣れないうちは火曜日も行くらしい。しかも時期によっては仕事が延びるからこうするという事だった。


「そんなにいる?」

「だって何かあった時に塾からタクシーで帰ろうとして、余裕を持ったらそのぐらいになっちゃうでしょう。」

「どうやって持ってれば良い?」

そんなにお金を持った事は無い。

「ICカードと一緒に入れれば?結局紙2枚だし。」

「そうだけど…他にちょうど良いところないけど。」

「でも外から見えないところに入れてね。」

「分かったよ。」

机の上に置かれた2万円を取って部屋に戻った。鞄に繋いであるカード入れのチャックを開けて三つ折りにした2万円を入れた。2万円も仕舞ってしまうとなんてことはなかった。鞄からは模試の成績表が顔を出していた。手に取って何回も折った。A3サイズの結果は名刺大にまで小さくなった。捨てようと思ってリビングに戻るとテレビを食い入る様に見ていた。国際結婚がテーマのドラマと聞いているが結構人気がある。ヒロインらしき金髪の女性が映ると母はテレビを消した。母は振り返ると一瞬動きを止めた。

「いつからいたの?驚くじゃん。」

「いや、今入ったばっかりだけど…」

「気配しないんだから。ところで模試の成績返却は?」

「来週じゃなかったかな〜」

「今日と言ってたよね。」

手に持ってる紙を見つけると母は続けた。

「その持ってる紙は何?」

「…成績。」

「悪くても怒らないから。」

僕の母親の自慢できる所は綺麗な他に、嘘を一切つかない所だ。分からない事は分からないとはっきりと言う。だから僕にとってコウノトリは神聖でも何でも無かったし、サンタクロース茶番も無く代わりに家族内でのプレゼント交換を毎年する。そんな事だからテストの悪い成績を見せても、こう宣言した時には一度も叱られてない。それでも悲しむ母を見たく無かいからテストを見せたくは無かった。素直に模試の成績を渡した。

「確かに悪いね、かなり。」

「校舎最下位。」

「やっぱりかー。がんばってね。」

父の席に成績表を置くと台所に歩いて行った。その日は勉強もせずにそのまま横になった。

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