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葬儀屋の紫苑  作者: 雨月☪︎
3/3

誤算

運転手さんにお礼を言いタクシーを降りる。2人共かけっこのように走り出しBARへ駆け込み大きな声で「ただいま!」と叫ぶ。俺もそれに続きお邪魔しますと言ってBARへ入って行った。「おかえりなさい」鈴の音の様な優しい声が中から聞こえた。BARのカウンターの椅子に白髪と金髪が入り交じったような髪をした女性がいる。彼女が、雨月。佑夏さんが言っていた葬儀屋トップの戦力彼女は持っていた本を閉じるとこちらへ歩いてくる。綺麗な色をした三つ編みが揺れている。雪都ちゃんと涼風ちゃんの2人は嬉しそうに雨月さんに駆け寄る。どうやら雨月さんがここにいなかった間の話をしだしたようだ。なんとも花のある光景だそんなこと思った矢先「Erinnerst du dich nicht?」バリトン級に低い声が耳元で聞こえた。後ろだ、後ろに誰かいる。驚きつつも振り返る。「あぁ驚かせてすまない。なるほどやはりダメか……」雨月さんに似た髪色に黒い服装の俺より断然背の高い男がそこには立っていた。「雫月兄様、そうやってからかうのは感心致しませんよ。」注意を一応するが少し微笑んで雨月さんが言う。彼は雫月というようだ。「初めまして雨月さん、雫月さん俺の名前は」「「芦屋道國」」名前を言おうとしたら2人に先に言われてしまった。きっと驚いた顔をしていたのだろう。2人は俺の顔を見たあとくすりと笑った。……謎だ。そうしてまた2人は雪都ちゃんと涼風と話をしだした。




数十分くらいが経った、誰かがBARの扉を開ける音がする。「え……姉さん、兄さん……?」BARの入口には驚いた顔をした結都と雪白ちゃんが立っていた。「帰ってきてたんですね!!」また2人も大喜びで駆け寄る。その後ろからまた人が、「雨月か、帰っていたのなら連絡くらい寄越してくれたっていいのに…」と佑夏さんが言い、「二人とも、おかえりなさい。」と零警視監が言う。零警視監の後ろには、「そうそう今日が初めてだったね。弟の柊時だよ。柊時、道國君に挨拶を」零警視監の後ろからひょっこりと男の子が現れる。彼が噂の柊時くんか、青緑に近い髪の毛はくせっ毛ではあるが襟足が長く後ろでまとめてあり、左目は包帯で隠れている。「えっと、こんにちは柊時です。姉さん達がお世話になってます歳は雪都と涼風と同じ17です。」穏やかに礼儀正しく柊時君はお辞儀をした。頭を上げた瞬間、俺に謎の悪寒がした。一瞬柊時君がこちらを見定めるような目をしていたからだ。……やっぱり怖ぇ……「道國君はこれで全員の顔を見たってことになるね。本題は遠くなりそうだけど。」佑夏さんが言う。「ちょっと待ってください姉さん、雨雷姉さんと海織姉さん、それに紗霧と杏璃がいません。」手をあげて結都が言うと「雨雷と海織は大切な話があるからと言って本丸の方に行ってしまってね、BARで話せばいいのにと言ったのだけど拳の話し合いだからって言ってて……」雨月さんがそう答える。拳の話し合いってただの喧嘩だろ心の中でツッコミを入れる。それを聞いた零警視監が深くため息をついた。「姉さん達がまた喧嘩しているなら止めに行きましょうか?俺と雪白の能力なら被害が少ないですし。」と結都が口にすると「本当?いつもごめんね」と零警視監が申し訳なさそうに結都と雪白ちゃんの頭を撫でる。2人共満更でもなさそうな顔をして撫でられたあとBARの奥にある扉を開けBARを後にした。ってそうじゃなくて「本丸ってどういうことですか?」気になって聞いてみる。「あぁ零、言ってなかったのか?ほら、ちょうどここら辺に屋敷あるだろ?」雫月さんがそう言う。屋敷といえば見覚えがある。ヤクザの本拠地かと思ったあの馬鹿でかい屋敷のことだろう……あれ?ということはもしや本丸って「あれが俺達の本家というわけさ。」雫月さんがニコッと笑い言う。……まさかの金持ちなのかこの葬儀屋達は。結都と雪白ちゃんがBARを出てって少し経った。カウンター席に座っている雨月さんの横で零警視監は紅茶を少し口にすると席から離れ、本丸への扉に立つ。ドアの向こうから叫び声や言い争う声が聞こえる。すぐに雨雷と海織だと分かった。「さて……」と零警視監は腕を組んだ。それを見た雪都ちゃんや涼風ちゃんは、まるで人見知りの子供のように雨月さんにしがみつく無理もない。だって凄い怖いもん


バァン!


勢いよく扉が蹴られ開いた「ふざけんな!愚策だ!」「ふざけてるのは雨雷の方…!」言い争う2人の声、2人共髪はボサボサだし、鼻血も出ている。服もボロボロだ。扉の前についても2人はまだ周りに気づいていない。零警視監に先に気づいたのは結都と雪白ちゃんだった。2人の顔がだんだん青ざめていく。「……姉さん前、ねぇ前っ……!」雪白ちゃんが雨雷と海織の肩を必死に揺さぶる。身長差割とあるのに力が強いから二人とも揺さぶられてる。「悪い雪白。すぐ終わる。すぐ終わるからさ最後に海織を1発……」殴らせてくれ。そう言おうとしたのだろうがその言葉は、零警視監の笑顔で途絶えた。「「あ」」二人とも動きが止まるお互いに胸ぐらを掴んでいた手を下ろしスっ……っとにっこりと笑った零警視監に向き直る。「二人とも」零警視監が言葉を発すると雨雷と海織がビクッと動くそして「すんませんした……」「ごめんなさい……」


▓▢▢▓▢▢▓▢▢▓▢▢▓


「それで?何があったの?」佑夏さんが雨雷と海織に聞く。「……雨月姉さんに…その……」雨雷が口ごもる。「?僕ですか?」雨月が応える。「雨月姉さんと、お見合いしたいって、言う人…来た。3日後の夜、食事の招待券、付いてきた。」雨雷の代わりに答えを言うように海織が言った。その瞬間空気が凍りつく。寒いんですけど?「雨雷、海織。それは一体誰からだい?」雫月さんがものすっごい笑顔で聞いてくる。正直めちゃくちゃ怖い。「相手は大手企業の息子だよ。ほら日本代表の野球選手達のスポンサーやってるところ。」雨雷がそういうと同時にBARのドアが雑に開けられる。


「クッソふざけんな!!」頭をガシガシと掻きながら入ってきたのは紗霧君だ。「気持ちはわかるけど落ち着いて、紗霧。」殺意を隠さないで入って来たのは杏璃君。二人ともイラついているのがわかる。「紗霧、杏璃?何があったんだ。お前達らしくない。」2人の異変に気がついた結都が問いかける。「結都さん…聞いてくださいよ!今日よくわかんねえ女に話しかけられて!」「僕と紗霧…どっちでもいいから結婚を前提に付き合ってくれって……」紗霧君と杏璃君が答える随分と頭の狂った女だな …「随分と頭が狂っているねその子どこの子か分かったの?」声に出したのは佑夏さんだ。はっきりいったよこの人「それが有名な企業の娘らしくて、丁寧に名刺よこしてきましたよ。ほら」そういうと紗霧君はポケットに手を突っ込んで少し折れ曲がった名刺を近くにいた雨雷に差し出す。名刺を見た雨雷は顔を曇らせた。「S企業…雨月姉さんとこに見合い申し込んできたところじゃないか……」雨月さんに申し込んできた男と同じ名字。兄弟なのだろうか跡継ぎを探すと言うなら分かるだがしかし同じ企業の人間が同時に3人に交際を持ち込んでくるのはさすがにおかしい。


「連続死体遺棄」海織がそう呟く


連続死体遺棄事件とは未だ犯人は見つかっていない事件で被害者は現在若い男女含め6人死体にロープが巻かれたあとがあるため一度首を絞めて殺害し遺体遺棄の目的で解体されたと思われる。そしてこの事件の被害者全員がS企業の従業員の誰かと交際歴がある。


「S企業は必ず何かあるね。」雪都がちゃんが言う。「この事件の被害者は全員うちが葬儀を担当してたからね。死体もバラバラだったから、頼れるところがなかったみたいで。」零警視監が言う。「首を締めた跡があったけどどう考えても被害者が死んだあとに締めたんだとしか思えないんだよねぇこの事件に関する依頼もゼロだし」そう言ったのは雨雷だ依頼 神魂を解体し、賊心を祓う仕事だ。この依頼は残酷な死に方をした霊達が恨みを持つ犯人への復讐に近い、今回の犯人は相当な恨みをかっているはずだそれなのに依頼はゼロ。被害者は犯人を恨んでいないのか?それとも……「被害者は意識が無いまま殺されたのか…」俺が呟く「正解です。意識が無い状態で殺されると言うことは、睡眠に入ってるに等しい。被害者自身殺されたという自覚がないという訳です」結都が答える。「被害者からの依頼がなきゃこっちも警察から指示がない限り動けない。もしかしたら犯人はそのことを知っているのかもね。」続けて佑夏さんが言う。「S企業の従業員の中に犯人がいるってのはもう確定事項だと思ってた時にこのお見合いしたいです〜って言う手紙と結婚前提の告白、あからさま過ぎだろ。」紗霧君が頭を書きながら言う。まだ怒りが収まっていないらしい。「怒ってるの?」雪白ちゃんが問いかける。「怒ってる。雪白たちのこと悪く言った。許さない」そう言ったのは杏璃君だ。静かな言い方だが怒りが隠せきれていない。「俺達には大事な人達がいるんでって言ったらなんて言ったと思います!?」紗霧君が声を荒らげる。「そんな人相応しくないわ!私の方があなた達を幸せにできるに決まってる!見定めてあげるから連れてきなさい!だってよ。喧嘩売ってんのか!」低い声を高くして言う。その女性の真似をしているようだが完全にバカにしている。「てなわけで3日後飯に誘われたんすけどすっぽかすことにします。」と言いながら紗霧くんは招待券のようなものをひらひらかざす。2人分あるから紗霧くんと杏璃くん2人を完全に誘う気だ。「…ん?三日後?雨月と同じ日、同じ場所じゃないか。」佑夏さんが紗霧くんが持っている招待券を見て言う。一連の会話を聞き、雨雷が足を組み唸る。「だから断る方が良いって言った。」そう言ったのは海織だ。「向こうは完全に雨月姉さんに手を出そうとしてる。どんなやり方で来るのかも分からない…さっき言っただろ。」事務所に攻められたら元も子もないだろ。と続けて雨雷が言う。「でも相手の思惑通りに雨月を連れてくとなると…雨月耐えられるかい?無理にとは言わないよ。」佑夏さんが雨月さんに聞く。「……おそらく、接近がない限り強くは見えないし害はないので…」大丈夫です。とニコリと笑って雨月さんは答えた。しかし左腕を掴んだ右手は微かに震えている。「雨月姉さんが平気だとしてもこんなことで姉さんに負荷をかける訳にはいきません」はい、と手を挙げて涼風ちゃんが言う。「じゃあ代わりに誰か行くとか?」雪都ちゃんが続けて言う。「代わりに……いいかもしれない」雨雷が言う。「向こうは紗霧、杏璃、結都に雪白、そして雨月姉さんを呼び出そうとしている。5人も招待してんだ。1人くらい欠けても文句は言えまい…そして殺害目的の可能性が高い。私と海織が出よう。女1人と男1人だ。結都達は4対1、私達は2対1だ、勝てる気しかしないね。姉さん、いいかな?」続けて言い佑夏さんに視線を向ける。「あぁ問題ないよ。でも…そうだね…」佑夏さんがこっちを見てくる。嫌な予感しかしない。「道國くん」「嫌です。行きません。」「君今月厳しいんじゃないか?」零警視監が人差し指と親指を丸め、輪っかを作ってみせる。やめてください、確かに困ってますけど。「良かったですね!お給料弾みますね!」涼風ちゃんが笑顔で言う。毒気のないその笑顔からは逃げられない。「……わかりました行きますよ。」渋々引き受ける。その反応に涼風ちゃんは「頑張ってください!」と俺に言い、雨雷と結都は鼻で笑い、零警視監は目を細める。「よーしっ!じゃあ三日後!んで今日の仕事は終わり!解散!みんな休め〜。」雨雷が手を叩いて言い、みんな次々とBARのテーブルから離れていく。「結都、雨雷が呼んでる。」海織が結都に話しかける。本丸に行こうとしていた結都がソファに座っている雨雷の元へ行く。なにか話しているようだ。「お前も帰って休め、結都さんと雨雷さんは大事な話をしているんだ。邪魔するな。」紗霧くんがそういい俺の背中を軽く押す。その後ろには杏璃くんが居る。「それじゃあお邪魔しました。」そう言いBARの扉から1歩出る。「うん、三日後、またね。」杏璃くんが手を振って俺を見送る。紗霧くんは話している雨雷と結都を眺めていたがその顔は少し泣きそうな、悲しい顔をしていた。




あの日から3日が経つ。雨雷からもう一度作戦を確認したいと連絡が届き、BARへ向かった。この件に関しては俺達警察側は葬儀屋に依頼をしていないため全く関連していない。関係ないけど巻き込まれ、そのおかげで休暇を取らねばならなかった。解せない。現在は昼間、しかしBARへと続く道に人は少ない。俺のBARへの階段を降りる足音だけが響く。「こんにちは」ドアを開き周りを見渡す。BARにいるのは今日の作戦に参加するメンバーのみ、他の人は全員仕事か。「やぁ、早速で申し訳ないけど確認に移ろうか。」雨雷が口を開く。BARのカウンターの奥から結都がやって来た。右手にはコンビニのビニール袋、中からウィダーインゼリーが出てくる。結都はそれを開けて咥え、ソファにドサッと座る。「…何、俺だけまだ飯食ってないんです。」それなら理解できる。にしてもだ。「もう少しちゃんとしたご飯食べない?」結都に問う。「……それは」今は出来ない。口がそう動いた気がした。これ以上聞くのはやめよう。そう思い雨雷の方を向き、本題へ入った。「私の計画としては私達と結都達、二手に別れるのは当然のことだが、今回は浅く手がかりを掴んでいこうと思っている。」「浅く?」どういう意味なんだという顔をして紗霧くんが聞く。「そう、浅く。今神魂の解体をしようったって、証拠がない限り相手の裏は見えない。だから今回は勘づかれないよう深堀しない。」雨雷が答える。「関係を徐々に深めて証拠を掴むって訳ですね。それはわかりました。」結都が納得する。「だけどそれだと…」「雨月姉さんとの接触は避けられない。って思うのは相手も一緒さ。次はまたその次こそは、雨月姉さんに会えると思うだろう。相手が痺れを切らして手を出してくるところをぶっ潰すのも可、それまでに証拠拾いまくって突きつけるのも有りってなるんだ。」俺のつぶやきに雨雷が言う。「あと道國今回は結都達についてって…」海織が俺に話しかける。「そうだなーなんかあった時そっちの方がいいかもね。」海織の言葉に雨雷が続ける。「そしたら俺たちはその何かがあった場合戻り道の確保っすかね。」紗霧くんが言う。「できるだけ残さないで」雪白ちゃんが言う。「大丈夫。綺麗にするから」杏璃くんがそれに答える。「よし!それじゃあお互い何か手がかりあったら報告!」「「「了解!!」」」










「って話だったんだけどなぁ…」雨雷が呟く。「「お待ちしておりました」」きっちりとした服装をした男女。その顔は少し似ているように見える。そしてそこに並ぶは白のシーツの敷かれた長テーブルで映画でしか見たことない高級感を漂わせていた。「どうぞ皆さんお座りください。」男性の方がそういった。「まさか混合でのお見合いとか予想外なんですけど…」雨雷が苦笑して呟く。「いいか道國、結都さんが食器を2回指で鳴らすまでその食器にのったものは食べるなよ。水もだ。」紗霧くんが俺に耳打ちした。俺はそれに頷き席に着く。「あ タバコって吸っていい?」雨雷の緊張感のない声が響く。「構いませんわ。」優雅に座る女性が言う。とても優しそうな顔をしているが結都と雪白を見た瞬間顔が強ばるのがわかった。「では今後について話をしましょう。こちらも紗霧と杏璃、雨月姉さんをそう軽々と渡す訳には行かないんでね」睨みを効かせた女性を煽るように結都が言う。女性が顔を歪ませた。




この後彼女達はS企業の二人と会話をした。二人の要望は全て拒否の一択しか示さない彼女らに二人とも苛立っている。俺はそれにヒヤヒヤしながら最初に結都が指でカチカチと鳴らしたものと同じ形をしたコップに入った水を飲む。ギシギシとした空気の中料理が運ばれる。男性の方が食べるよう勧めるが、結都以外のみんなは食べようとしない。同じく、結都が指で鳴らしたものと同じグラスに入る飲み物を飲むだけだ。すると横から咳が聞こえた。






白いスーツに赤が染み渡る。口元を抑えた結都は咳をしながら血を撒き散らし、体重を机に預けた。「まずは1人目」女性がそう呟いた。貸切であったレストランの扉が閉められ微かにシューと空気の流れる音がする。「…!毒ガス!」雨雷が叫ぶ。「紗霧、杏璃。作戦通りに動いて。」雪白ちゃんが指示を出す。「「了解!」」紗霧くんと杏璃くんが閉められた扉を蹴破り廊下へと走る。確かここはビルの5階おりるまでに警備が沢山いるはずだ。二人で大丈夫なのだろうか…「雪白は女の確保!道國君!君は雪白について…!」雨雷が俺に指示を出そうとした瞬間先程まで座っていた男性が雨雷に斬りかかって来た。「雨雷!」海織が叫びその男を対処する。「無理だな。このガスの中動けるのは褒めてやるよ。あーでも惜しかったなぁ雨月さん。彼女はなかなかに使えそうなのに。」「……あ?」雨雷の声が一瞬にして低くなる。「まぁいいやなんだっけ?そこの結都って子?その子と君たちの首だけでも貰えれば。」「お前…!」掴みかかろうと思った足の力が抜け、膝から崩れ落ちる。「このガスじゃあそっちの分が悪い。雪白って子も心配なんだろ?まぁあの子は妹に任せるよ。」「…雪白、ここに、いないよ?」海織がその言葉に反発する。周りを見る。確かに雪白ちゃんと女、結都までもがこの部屋から消えている。「なんだと……?おい!俺だ!女が二人いない!探せ!妹もいるはずだ!」耳にある通信機に手を添え、声を荒らげる。「残念だったなぁ、分が悪い?逆だよ。私は煙の類にめっぽう強くてね。解毒、操作、制作なんてお手の物さ」白かったガスが上へ上へと上がっていく。「武器になっちゃったり、なぁんてね。」雨雷がジッポライターを取り出す。上へと上がっていたガスの一部が細長く伸びライターへ近づく。雨雷がライターを着火した瞬間ガスがうねりを上げ炎の鞭のようなものが出来上がる。すると海織は迷わずその炎を掴んだ。炎の鞭から分裂してまさかの炎の剣が出来上がった。どちらも青く光るなんとも美しい色をしていた。「道國!さがってろ!今からこいつに」痛い目見せてやる。


この後男は必死に抗い続けたけど意図も簡単にボコられました。で今現在雪白ちゃん捜索のためみんなで走ってます。「っちこいつ起きねえかな」雨雷が男をタバコの煙でくるんで浮かせながら言う。完全に風船状態だ。そして後ろからはたくさんの警備員達が…「ちょっとさっきみたいに倒せないのかよ!」「あぁー?それは雪白に任せとく!どっか行った罰だ!」「そんな!それに」「…結都のこと?」「あれは食いもんに混ざった毒だな。多分絶対死ぬやつ」「なんでそんなに軽々と言えるんだよ!!」雨雷のその言葉に怒りを覚える。俺は、また守れなかったんだ。「結都はな…っと残るはここだ絶対ここにいるはずだ」行くぞ。と言葉を遮られ目の前の部屋のドアが開かれる。すると背筋に悪寒が走った。ここに入っては行けないという直感が働く。


蛇だ。


書斎の様な部屋の机の上に大きな蛇が居る。赤い、真っ赤な目をした大蛇と。目が合った。




「…姉さん、道國くん。」聞き覚えのある声が聞こえハッとし、固まって動けなかった体がようやく動く。雪白ちゃんだ。そして足元には人の山。死んでいる訳でもないし気絶している訳でもない。固まっているのだ。呼吸もしてるし意識もある。だが動くことも出来ない、なんとも不気味だ。彼女の力なのだろうか。「女の人、ここにいない。4階のホールだよ。」「うっそだろ?ここ中間地点かよ〜」雪白と雨雷が会話を交わしているがそれどころじゃない。後ろから警備員が来ている。「うげぇ煙で動きづらくさせたつもりだったんだけどなぁ」「道國くん掴まって」海織ががっしりと俺の手を掴む。そして「飛ぶよ。」書斎の窓を蹴破って宙に浮く。雨雷が煙をロープのように伸ばし、そのまま4階の窓に全員引き寄せられる。スパイダーマンじゃん。「よし走れー!」全員無事受け身をとり、駆け出す。俺が警察じゃなかったら背中思いっきり打ち付けてたと思う。5階にいた警備員が階段を降りて来る音がする。「なるほど、ホールに人質がいるって分かれば向こうも真っ先にそこに向かう。そこを一網打尽って訳かあの子らしいやり方だな」雨雷が口角をあげて呟く。「あった!」ガラス張りの大きな扉を雪白ちゃんはグーパンで殴る。扉は粉砕し、通り道ができる。しかしこのホールの出入口はここしかない。完全に袋小路だ。「止まるな!奥まで走れ!」雨雷のその声に従ってホールの奥まで走る。装飾品の多いまるで物語に出てくる舞踏会のような部屋に女はいた。しかし気を失っているらしくぐったりしている。「お嬢様!」雇い主である女を見つけた警備員達がぞろぞろとホールに揃う。「おーい君たちあんまりこっちに近づかない方が……」雨雷のその忠告を聞く素振りもなく警備員達は俺たちを捕まえるために警棒や銃を持ち、走り寄ってくる。え?これ詰んだ?ちょっとストップストップまじで。


次の瞬間、微かに糸が張るような音が聞こえた。「姉さんの話聞けよこの愚物ども。」聞き覚えのある、皮肉交じりの声が聞こえる。「ゆ 結都!?」「死んだ…とでも思ったんですか?アホですね。死にませんよこの程度のもので」ホールの中心にある大きな銅像のてっぺんに結都は座っていた。結都が右手側に張ってある1本の糸を人差し指でなぞるように引く。すると俺達が今まで通った場所に何本もの糸のようなものが引かれ警備員達がもがき始めた。腕や首に糸が絡みついている。「動かない方が身のためだぜ、首が落ちるからな。」さっきよりも結都は強く糸を引く。警備員達の首に赤が流れ始めた。「結都、止まって。」海織がそう指示すると結都は手を緩める。そして左手の薬指を別の糸に絡ませると見事に追ってきた警備員全員を気絶させた。「人を一瞬で落とす方法、後で教えますね。」そう言いながら結都は銅像から飛び降りる。「いやいや毒は!?大丈夫なのか!?」「まぁまぁまぁ落ち着け道國くん結都はだね…」雨雷がそう言おうとしたが言葉が途切れ、雨雷の背中から血飛沫が上がった。「雨雷!!」海織が駆け寄り倒れる寸前で雨雷を支える。「やっぱり生半可な戦力ではないかぁ…」やられたなぁと雨雷が言う。後ろには右腕から刃物がいくつも生やしたあの男が立っていた。「クッソクソクソクソ!こんな話聞いてねぇぞ!」今までの優雅な喋り方から一変、荒々しい口調になり男は言う。「やっぱり、手ぇ引いてるヤツらがいたか。そうじゃなきゃその力も使えないしな。」結都が男を睨みつける。「…お兄さんの、本当の目的は、何なの?」雪白ちゃんが固く結んでいた口を開く。「目的?そんなもんそこに転がってる愚妹の代わりに決まってんだろ」さも当然かのように男は言う。「道國さん、たしかにあの女は神魂に呪いがかけられた体だ。神魂は無理矢理とどまらせているから自我はあるみたいだが。」以前の雪都ちゃん達の事件を同じものみたいだ。「自我残させてやったら好き勝手に行動しやがってよぉ…それに比べてお前らは良さそうだよなぁ!なんてったって」


警察に躾られた犬なんだからよ。


は?なんて言った?明らかに男から出た言葉は彼女らの、葬儀屋への侮辱行為だ。お前が言うのか、お前みたいな欲まみれのドブ野郎が。あぁまた何か喋っている。みんなが顔を歪めているのが分かる。うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい俺の、俺の大事な…大事な?何だったっけ。


「おい!何してるんだよ!」腕を思いっきり引っ張られる。拳に、腕に痛みが走るのがわかった。そしてその拳には赤がベッタリとくっついていた。下から呻き声がしたためそちらの方を向く。歯も鼻の骨も折れた男が俺の体の下敷きになっていた。紗霧くんが血相を変えて俺の腕を掴んでいる。「道國さん…あんたまさか……!」結都が驚いたような、泣きそうな顔をして言う。初めて見る表情だ。「……え?いや、何がどうなって…」「道國くん。動けるかい?」混乱している俺に手を差し伸べたのは雨雷だった。「動けるかって…雨雷の方が重症だろ!お前が今1番安静にするべきだわ!」「道國の言う通りだと思う。」そう言いながらこちらに歩いて来るのは杏璃くんだ。「その様子だと″まだ″みたいだし、帰って話をした方が良さそうだよ。」そういう杏璃くんの肩をかりて俺は歩く。体が疲れていて全く動かない、遠くなりそうな意識が階段を降りた瞬間、まるで一発叩かれたかのように戻ってくる。誰もいないのだ。人の代わりのように壁や床に赤い染みがベッタリとくっついている。その鉄の匂いは自分の今の右拳よりも濃く、噎せ返る。「汚ねぇ喰い方するなよ。後で上にドヤされる。」結都が紗霧くんに言う。「これでも無関係は安全なとこ集めてそのほかの奴らは残さず喰ったんですからね?」結都の言葉に紗霧くんが反発する。いやいや喰うって何俺たちが走ってる間に何してたんだこの人ら、というか これやばいかもホントに無理かも鉄臭いやばい待ってマジ無理だってちょっと「……道國?」杏璃くんが心配して俺に話しかける。だがしかし時すでに遅し。「おぇ」










吐いてしまった。だって臭かったんだもん。その後俺はガスを多量に吸っていたらしく病院送りにされた。「あっははは!面白かったわあの時のみんなの顔!」雨雷が笑う。「初めて見るやつは大抵あぁなるから綺麗にしろって言ったのに……」続けて言うのは結都だ。上司から葬儀屋のメンバーが見舞いに来るという連絡を受け、来たのは雨雷、海織、結都、雪白ちゃんが俺の病室に来た。「それよりも、雨雷と結都の方が重症だったろ。大丈夫だったのか?」「私か?私は見ての通り元気さ、あんな傷葬儀屋にかかれば赤子の手をひねるようなものだよ。」雨雷が丸椅子から立ち上がり動いてみせる。たしかに動きは軽く見えるし元気そうだ。「俺は…元々毒とかそういうのが効かない体質ってだけですよ。あの時吐いたのは血糊で、初めて摂取した毒以外は普通に吐血しません。」と結都が言う。いつも細々と説明してくれる結都にしては、説明が曖昧で少し引っかかる。「だから…その、」「いいよ結都、言える時になったら言ってくれ。」「…ありがとうございます。」いつもの悪い笑みではなく、穏やかに結都は笑った。


▢▓▢▓▢▓▢▓▢▓▢▓▢▓▢▓▢▓▢▓


「零、道國についてなのだけど。」佑夏姉さんの声が電話越しに聞こえる。「道國の今いる病院は…」「あぁ、わかってるよ。」祓喰(ばいじき)…完璧な規律違反だな。まぁ彼ののなにかのきっかけになればいいのだけれど…「よろしく頼んだよ。零。今回は相手の土俵に立つも同然、厳しいと思うけど。体に無茶はさせないように。」「任せて。柊時達もいるんだし何も一人でやるわけじゃない。必ず守るさ。」もう失ってはいけない。自分の力は何度も恨んだけど、この力は守るためのものだ。電話を切る。「柊時、次の仕事だよ。二人も呼んできて。場所は…」死のない神秘の病院聖トーマス病院を理想とするキリスト教病院……


あぁ全くもって遺憾だよ。

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