表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/60

奇怪なお茶会 その3

ついにアリスがきれました。誰にだって我慢の限界はあるものですよ。

「歓迎するって言われても…私本当はこんなところにいたくないんだけど」



出されたチーズケーキをフォークで一口サイズに切りながら3月ウサギはにっこりと笑って頷いた。



「まあ、いいじゃないか。せっかく来たならゆっくりしてきなさい」



他人ごとだと思って。



胡散臭さそうに3月ウサギの方を見るが彼はそんな視線を気ににもとめず、紅茶を優雅に口に運ぶ。



「ところでアリス、君は紅茶が好きかね?」



「まあ、たしなむ程度なら」



好きだと言うつもりはないが嫌いな訳でもない。出されれば飲むが飲まないとどうにかなるというほどでもない。



むしろ紅茶を好きだったのは私ではなく姉さんの方だ。




姉さんは紅茶をいれるのがうまかった。何でも完璧にこなすことができる姉さん。だから紅茶をいれる、それだけのことでもやはりそれは完璧だった。



学校から帰ってくると姉さんはよく庭に私を呼んで、お茶に誘った。



「美味しい?」



「うん」



姉さんが完璧にいれた紅茶がまずいはずがない。私がそう言って頷くと姉さんは嬉しそうに微笑む。



「良かった。今日は新しい茶葉を貰ってきたのよ」



「わざわざ私のためなんかにいれてくれなくてもいいのに……」



思わず本音が口から漏れる。あっと思った時には姉さんは神妙な顔で私の方を見ていた。



「もしかして……×××は私とお茶するのは嫌?」




姉さんの言葉に私は慌てて無邪気な笑顔をつくり、首を振る。



「違うよ。そうじゃなくてなんか私なんかにはもったいなと思って……」



すると姉さんは安心したように笑う。



「そんなことないわよ。だって貴方は私の大事な妹だもの」



大事な妹ね。私は何も言わず紅茶を一口飲む。甘いはずの紅茶の味が少しだけ苦く感じられた。










「アリス……」



名前を呼ばれてはっとする。慌てて、視線を声の方に向ければ白ウサギが私の方を心配そうに見ていた。



「どうかしましたか?」



白ウサギはそっと私の顔を覗き込んでくる。



その顔が真剣そのものだったから少し驚いた。



「あ、うん。大丈夫」



慌てて3月ウサギの方を見る。話の途中で考え事に浸ってしまったので気分を害してしまっただろうか?



「ああ、そうだね。ミルクティー、あれは紅茶の次にいい飲み物だ」



良かった。全く気にしてない。と言うか全く私の話を聞いてない。



3月ウサギとコミュニケーションをとるのは非常に難しい。



話を聞いてないと思ったら突然話に入ってくるし、かと思えばいきなり会話が飛ぶ。



なるほど。彼がみんなから避けられる理由がなんとなくわかる。



友達にはしたくないタイプだ……。一緒にいるだけすっごく疲れる。




「ミルクティーについてはどうでもいいんだけど……その、そろそろ私の話を聞いてくれない?」


「何かねアリス? 何でも言ってくれたまえ」



何でも……ね。そのわりには全く私の話を聞いてくれないんだけど……。何だか頭痛がしてきたな……。



痛みをこらえ、私は平静を装い3月ウサギに質問する。今度こそちゃんと聴いててくれるように祈りながら……。



「何で私、ここに連れて来られたの? 早く家に帰りたいんだけど……」



私にとって一番重要な質問。それに3月ウサギはあっさりと答える。



「それは難しいな」




3月ウサギは紅茶を飲みながら、まるで天気の話でもするような軽さで続ける。



「君は自分でここに来た。ここに来るのは案外簡単だが、帰るのは容易ではない。まあ、案内人さえいれば可能かもしれないが」



「案内人?」



どこかで聞いたことがある気がする……



「いるだろう? 君の隣に」



3月ウサギはそう言って茶菓子を一口かじり、視線を私の隣へとやる。



嫌な予感を覚えつつ、私はチラリと隣に座っている男を見た。



にっこりと笑う白ウサギ。その笑顔が物凄くいらっときた。



「貴方……騙したでしょう……」



「騙すなんてとんでもない。私がアリスを騙す訳ないじゃないですか」




「騙したじゃない! 出口がどうのこうの言ってたくせに! あ、ひょっとして、最初の時に貴方が帰そうと思えば帰せたんじゃないの!?」



「まあ」




白ウサギは悪びれもなくそう言って爽やかに笑う。ああ……その顔本当に殴りたい。今すぐ殴り飛ばしたい。



「でも帰す気なんて全然ありませんでしたから」



白ウサギはそう言って、私の手を握り、にこにこと嬉しそうに笑う。



「今も全く帰す気ないですよ」



もう我慢の限界だった。



気づいたら手が勝手にでていた。右手をぐっと握り、その拳を白ウサギの腹部のあたりに打ち込む。



「ぐはっ!!?」



肉ののめり込む感触とともに白ウサギはうめき声をあげながら、何とも情けなく椅子から転げ落ちた。



「はあ……はあ……」





乱れた呼吸を整え、何事もなかったように椅子に座り直す。



帽子屋と3月ウサギはぽかんとした顔をし、呆然と私の方を見る。



どうやら私がこんな行動をとったことが彼らには予想外だったらしい。



じんわりと手が痛い。ああ……どうせだったらやっぱり顔にしておけば良かった。そっちの方が同じ痛みでも爽快感があっただろうに……



信じられないものでも見るかのような2人の視線が私に向けられる。



それに耐えきれず、私はやや不機嫌になりながら2人の方を見返す。



「何よ? これでも我慢した方でしょう?」




本当はあの澄ました顔を殴りとばしたかったのだが、さすがにそれではあの綺麗に整っている顔が駄目になると思い、我慢したのだ。



殴っておいて何だが、白ウサギには少し感謝してほしいぐらいである。



そんな私の考えをわかってかどうか、3月ウサギが豪快な笑い声を上げる。



「あはははっ、我慢した方? これが? さすがは白ウサギが連れてきたアリスだ。実に面白い、実に興味深い。いや、笑える。あの白ウサギがまさか殴られるなんて……あはははっ!!」



お腹を抱えて笑う、3月ウサギ。帽子屋の方を見れば、帽子屋もシルクハットで顔を隠しているものの肩を震わせて笑いをかみ殺していた。




「何よ……そんなに笑わなくてもいいじゃない……」



何だか気恥ずかしい気分になり、私は顔を伏せ、やや冷めた紅茶を一口飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ