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第二章 奇怪なお茶会 その1

ようやくお城に到着。11時間と30分の遅刻。貴方なら待っていられますか? 私には無理です。

「これがお城なの?」



私は目の前にあるそれを信じられない思いで見つめながら、誰にという訳でもなく、そう尋ねた。



「はい、これがアリスのお城です」



白ウサギはそう言い、立派でしょう? と胸を張る。



確かにお城は想像以上に立派だった。



まるで昔話に出てくるどこかの国の王様が住んでいるお城のように、高い城壁に囲まれ、その外観は美しく、本当に綺麗で立派なお城だ。



「何だか……想像以上なんだけど……本当にこれが私のお城なの?」



「そうだ。この城はアリスを守るために作られた城だ」



「守る……?」




帽子屋の言葉の中に不穏なものを聞き取り、問うように視線を向けるが、無言で視線をそらされた。



教える気はないようだ。



あきらめて城へと向き直る。



「なあ、こんな所にいつまでも突っ立てないでさっさと行こうぜ?」



チェシャ猫がしびれを切らして、そう言うと私の手をひく。するとそれを見た白ウサギが素早く、その手を払いのける。



「チェシャ猫。何、アリスに触ってるんだ?」



「やだな~、白ウサギたらやきもち? そんなに器が小さいとアリスに嫌われちゃうよ?」



また睨み合う2人。



これで何回目だろうか? 全く懲りない2人にもう止める気も起こらず、私は2人を無視して帽子屋に話しかけた。



「あの2人といると貴方がすっごくまともに見えてくる」



帽子屋はその言葉に目を細める。



「それは光栄だな」



帽子屋はにやりと何だか少し馬鹿にしたような笑みを浮かべ、私を見る。



「だが、忘れるな? 俺は人からイカレた帽子屋と呼ばれる人間なんだ」



「イカレた帽子屋? 何で?」



ぱっと見たところイカレてるようには見えない。



「じきにわかる」



帽子屋はそう言って、意味ありげに笑った。










外見でさえあれなのに城内はさらにすごかった。



煌びやかに光るシャンデリア。しみ一つない真っ赤な絨毯。美しい装飾品の数々。





こんなの今まで一度だって見たことない。



「綺麗……」



思わずそう呟くとそうでしょう、そうでしょうと白ウサギが言う。



「何せ、アリスがいつ訪れてもいいように私達が整備していましたから」



「それはどうも……」



そう言われてもあまり実感がわかない。だいたい未だに私がどうしてアリスなのかもよくわからないし……



あまりにもすごい城内に目移りしているとチェシャ猫がそっと隣にやってくる。



「じゃあ俺行くね」



耳元で囁かれたその一言に私は目を丸くする。



「行くってどこ行くの?」




思わずそう問い返すとチェシャ猫はちょっと困ったように笑った。



「このままアリスと一緒にお茶会に出るのもそれはそれで楽しそうだけど、そろそろご主人様のもとへ行かなきゃいけないんだよね」



「ご主人様?」



チェシャ猫の言葉に首を傾げていると白ウサギがそっと隣に来て言う。



「その猫は公爵夫人の飼い猫なんですよ」



飼い猫って……猫じゃないじゃん。



そんな疑問はともかくチェシャ猫はやっぱり変わらないにやけ顔で私の方を見る。



「ん、そうゆう訳だから残念だけどお別れ。またな、アリス」




そう言ってチェシャ猫はあっという間に廊下の向こうへ消えてしまった。



「本当に猫みたいな身のこなしね……」



感心していると背後から何だか妙な視線を感じる。



嫌な気がして振り向けばそこには満面の笑みの白ウサギが立っていた。



「これで邪魔者はいなくなりましたね、アリス」



そう言って、何故か嬉しそうに笑う白ウサギ。何故だろう……非常に危ない気がする。



それは見事に的中し、白ウサギは突然両腕を上げると私に抱きつこうと飛びついてきた。



寸前のところでそれを帽子屋が止める。



「お前まで邪魔するのか!? 帽子屋!?」




「うるさい! お前がいると話がややこしくなる! さっさとどこかに行け!」



「そう言って、お前も私がいないうちに私のアリスに手を出す気で……」



「だから、いつから私は貴方のアリスになったのよ……」



「最初からです! 貴方が私を追いかけたその時から貴方は私の物に!」



「貴方に真面目に聞いた私がバカだったわ……」



白ウサギと話しているとどうしてこう頭が痛くなってくるんだろう? 痛む頭を抑えていると帽子屋が苛々した様子で白ウサギに詰め寄る。



「言っただろう……すでに3時は過ぎている。お茶会はとっくに始まっているんだ。これ以上遅れたらあのバカに何て言われるか……」




「あんなバカウサギなんてずっと待たせとけばいいんだ。どうせお茶会なんか名前だけなんだから」



「アリスはお茶会に出る。そう決まっている。お前だって知っているだろう?」



「もちろん。知ってるさ。アリスはお茶会にちゃんと連れてくよ」



白ウサギの目が光る。



「お前を殺した後にね」



え? 何で?



突然の事に驚く私をよそに白ウサギが笑う。それを見て、帽子屋は不機嫌そうに眉を寄せた。



「ふざけるな。言っただろう。既にお茶会の時間は過ぎている。遊んでる暇はない」




な、何? この物騒な雰囲気。本当にやったりしないよね?


しかしついさっきまでチェシャ猫とやり合っていた事考えるとないとも言い切れない。



「ちょっと……ケンカは止めなさいよ」



「そうですね。アリス、もう少し帽子屋から離れて下さい。返り血が飛んでしまいます」



「ねえ……私の話、聞いてたの?」



「もちろんですよ! 一言一句、貴方の言葉は聞き漏らしません!」




「そのわりには全く私の話を聞いてないみたいなんだけど……」



白ウサギを説得するのは早々に無理だと判断し、望みをかけて帽子屋の方を見る。



「ねえ、貴方はこんなバカみたいことしないでしょう? 白ウサギと斬り合う、なんてことやらないよね?」



帽子屋は目を細めて私の方を一度見るとすぐに目をそらして言う。



「わかった。なら、さっさとお茶会に行くぞ」



あ、何か帽子屋って愛想悪いけど意外といい人かもしれない。



「アリス、任せて下さい! 今すぐ帽子屋を始末してあげますから」



少なくとも話をまともに聞かないどこかのウサギよりはずっといい。



「白ウサギ黙って! というかとうぶん喋らないで」



「えぇ!? 何でですか!? アリス、酷いですよ!」



「うるさい! 私、お茶会に行くから嫌なら1人でどっか行って!」



「何を言うんですか!? アリスが行くなら私も行きますよ!」




できれば本当にもうついてきて欲しくないんだけどな。



とは言え、どうせ言ったところで聞かないだろうし、もういいや。



「えっと……確か約束の時間は3時よね? 今は何時?」



私の問いかけに白ウサギは胸ポケットから懐中時計を取り出し、すぐに答える。



「今、2時半です」



「え? じゃあ、間に合うじゃない」




良かった。帽子屋があんまりにも言うから心配しちゃったじゃない。



「ああ、昼の3時にはな……」



「そうですね……昼の3時には確かに間に合いそうですよね……」



「へっ?」




何だか嫌な気がしてきた。



「お茶会の時間は真夜中の3時だ。私達はすでに11時間と30分遅刻している」




11時間と30分の遅刻?



「何で真夜中にお茶会なんかするのよ!? 」



「あのバカウサギは年がら年中いつだって頭がおめでたいので、朝だろうが昼だろうが夜だろうが起きてるんですよ」



何て人だ……。



「ってことは私達もう11時間と30分もその人を待たせてるの!? 大変じゃない!?」



もはや遅刻どころの騒ぎではない。そんなに待たされたら私だったら、今頃ぶちぎれてる。



「早くお茶会に行きましょう!」



私はそう言って、お茶会の会場に向かうべく足を進めた。

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