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舞踏会の終わり その2

だんだん前書きが言い訳コーナーとなってきてる気がします。すみません。

薔薇の中に佇む白ウサギは何一つ変わった様子も見せず、私に優しい瞳を向ける。



足はしっかりと地面についており、つい先日酷い怪我をしていたようにはとても思えなかった。



「アリス。迎えに来ましたよ」



白ウサギは微笑み、そっと私に手を差し出す。



ほぼ無意識に、その手をとるため、私は白ウサギのもとに駆け寄ろうとしていた。



しかし寸前でそれは止められた。



右腕に走る痛み。



ちらりと見るとビルが私の腕をきつくつかみ、引き止めていた。



「アリス! 行くな!」




ビルの表情が怖い。



その目にはっきりとした憎悪がうつっている。



「あいつはお前を騙してやがる! あいつは昔もそうやってお前を……」



ビルの言葉が不自然にとぎれる。



どうかしたのかと思ったら、突然勢いよく突き飛ばされた。



受け身もまともにとれず、私は地面に転がる。



するとそのすぐ頭上で剣と剣がぶつかり合う激しい音がした。



見上げれば、ついさっきまで薔薇の中に佇んでいたはずの白ウサギがすぐそばにいた。



「白ウサギ……」



思わず名前を呼ぶと彼はほんの一瞬だか私の方を見て、微笑んだ。



しかし、すぐにその視線を戻す。




白兎の視線の先には当然ながら同じように剣を構えたビルがいた。



「何しに来やがった!? この裏切り者が!!」



「何しにきたか? 見ればわかるだろう。アリスを迎えに来たんだ」



「ふざけるな! アリスを迎えに来ただ!?  よくもそんな事が言えたな!」



ビルはそう怒鳴ると力強く剣をはじき、大きく振るう。



それを白兎は素早くよける。



「今度はアリスをどこへ連れてく気だ!? アリスをまた俺達から奪う気なんだろう!?」



ビルの乱暴な問いかけに白兎は何も答えない。



それにますますビルは苛立っているようだった。




「アリスの前では騎士気取りか? お前は昔からそうだよな! アリスの前ではまるで別人みたいな顔しやがって!」



剣がまた激しくぶつかり、火花が散る。



「お前みたいな奴がいくら騎士を気取ったところで無駄なんだよ! 所詮、お前だって俺達と何も変わらない! アリスが欲しいんだろう? アリスを独り占めしたいんだろう!?」



ビルがまた力強く剣をはじく。ほんの僅かだが、白ウサギが力負けしてるような気がした。



あの白ウサギがおされている。



何だか嫌な予感がした。



「だからあの時、アリスを連れ去ったんだろう!? アリスを俺達の手が届かないところにやったんだろう!? お前1人でアリスを独り占めする為にな!」



「白ウサギ!」



危ないと私が叫ぶよりも速く、ビルの剣先が白ウサギの体を僅かにかすった。



鋭い刃が白ウサギの服を裂く。



さらにビルは素早くもう一撃くりだす。



今度は避けきれず、剣先が白ウサギの体を捉えた。



赤い血が舞う。



ああ、まただ。



また白ウサギが怪我をした。



いつもそう。



彼が怪我をするときはいつも私の目の前で、白ウサギは私を守ろうとして傷つく。



私のせいだ……



よく見れば、破れた服の下から真っ赤に染まる包帯も見える。



やっぱり傷は完全に治っていなかったんだ。




これ以上、白ウサギを闘わせてはいけない。



「もう、止めて……」



止めなければいけない。



そう思って出したはずの声は予想外に小さく、弱かった。



当然、2人は止めない。



ビルの猛攻はさらに続いた。



凄まじい速さで白ウサギを刺そうと剣を次々と突き出してくる。



傷が痛むのか白ウサギの動きはどこかぎこちなく、ビルの猛攻をよけるで精一杯だった。



「ちっ、すばしっこい奴だ。大人しく刺されやがれ!」



ビルがそう怒鳴り大きく剣を振るおうとしたその時、白ウサギが一気に屈んだ。



低い位置から素早くビルの足下を蹴り上げる。




意表をつく動きにビルは全く反応出来ず、そのまま体勢を崩す。



すかさずそこに白ウサギは剣を振り上げた。



「一つ言っておく」



地面に倒れこむビルの喉元に白ウサギは剣先をつきつける。



「私はお前達と違う。アリスを独り占めしようと思った事はない」



白兎はビルから視線を外し、紅い瞳をこちらに向ける。



「全てはアリスの為。彼女が幸福である為。その為なら、私は何でもする」



白兎のその言葉はとても優しかった。とてもとても。



でも、そう言っている彼の顔はどこか無理に笑っているように見え、なんだか見てて痛々しく思えた。



何で彼がそんな顔をするのか私にはわからない。




わからないけどそんな顔をさせてしまっているのは原因はやっぱり私なのだろう。



私はやっぱり何か大事な事を忘れている。何かとても大事な事を。



「それで勝ったつもり?」



静寂を破った高い声に私は一気に現実に引き戻された。



そう、まだ彼女がいた。



姉と同じ顔をした女王がその容姿には不釣り合いな大鎌を片手に立ち上がる。



するとどこから現れたのか物騒なものを持った子供達が現れた。



子供達はおそらくトランプ兵だろう。



皆、白兎を見て、背筋が凍るような笑みを浮かべている。



多すぎる。いくら彼でもこれは無理だ。



「バカな人。せっかくアリスが助けてあげたのにその命を自分から捨てに来るなんて本当に愚かだわ」



女王が微笑む。



とても綺麗な笑み。



綺麗なのにその笑みはまるで人のものとは思えぬ程冷たかった。



「だ、だめ……」



このままでは白兎が死んでしまう。



わかっている。どうにかしないといけない。



わかっているけど体はまるで固まったように動かない。



助けなければいけないと思う。でも、いったいどうすれば私はこの状況で彼を助けられると言うのだろう。



だって、私は彼のように闘えない。



私は非力で、彼を助けるどころか誰かに守って貰わないと自分の身さえ守れない。




そんな私がどうやって彼を救うと言うのだろう。



そう、私にはどうする事もできない。



私は何もできない。




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