真っ赤な舞踏会 その3
諸事情により、更新を一時停止していましたがまたゆっくりと更新していきますので、宜しくお願いします。
「どうしよう、僕らの事覚えてないって」
「どうしよう」
二人の少年は顔を見合わせ、どうしようと繰り返し呟く。
覚えてない?
違う。私はこの子達に会った事がないんだから、覚えがあるはずない。
「あの……」
「この子、やっぱりアリスじゃないんじゃ……」
「そうなのかな。違うのかな」
「だとしたらどうする?」
「どうしようか?」
「やっぱり首を……」
「駄目! はねないで!」
すぐさまそう言うと少年達は同時に首を傾げた。
「何で駄目なの?」
「そうだよ。痛いのなんて一瞬だよ」
一瞬だろうが何だろうが痛いのなんか嫌だ。
必死に嫌がる私に少年達は困った顔をする。
「首をはねるのが駄目なら僕らはどうやって君がアリスなのか確かめればいいの?」
「そうだよ。首をはねなきゃわからないよ」
「首をはねったってそんなのわからないでしょう!?」
「そんな事ないよね」
「うん、そんな事ないよ」
少年達はそう言って、うんうんと頷きあう。
どうしてそうなるのか私にはちっともわからない。
と言うかこの子達はいったい何者なの?
とりあえず、普通の子供では……ないな。
普通の子供は首をはねようとなんかしない。
双子のうちの片方が何かを思いついたらしく、もう片方にこそこそと耳打ちする。
それにもう片方もああと答える。
「そうだね! 首が駄目なら腕を切り取ればいいんだね!」
「腕ならもう一本あるし!」
「そうゆう問題じゃないでしょう!?」
「え? 駄目なの?」
何て奴らだ。
物騒な事を平気な顔して言うくせに悪意のかけらもなさそうな顔をする。
どうしてこんな事になったんだっけ?
確か、私は白ウサギを助けようとして……それで……
「……っ!? ここはどこ?」
「どこってお城だよ」
「ここは女王様のお城なんだ」
ああ、やっぱりそうなんだ。
あの人は本当に私を自分のお城に連れてきたんだ。
これが夢だとしたらなんていう悪夢なんだろう。
姉さんと同じ顔をした女王様。
姉さんと同じ顔なのに言ってる事もやってる事も全く違う。
姉さんは例え白ウサギがどんなに嫌な奴でもあんな事絶対にしない。
あんな……あんな……
人を傷つけるような事……
あの姉さんがやるはずない……
双子はしばらく私を見てから困ったような表情をする。
「ねえ、じゃあどこなら切ってもいいの?」
「そうだよ。あれも駄目、これも駄目じゃ、僕達どうすればいいのさ」
待って。その言い方だと何だか私が悪いみたいに聞こえるんだけど。
私、悪い事言った?
誰だって、自分の体を切られるのなんて嫌に決まってる。
と双子の片方がぱあっと顔を輝かせる。
「そうだ! じゃあ、僕らと鬼ごっこしよう!」
「え?」
鬼ごっこ?
「それはいい考えだね!」
何がいい考えよ。さっぱり訳がわからない。
「じゃあ、始めるよ」
「僕らが鬼。アリスは逃げてね」
「ちょ、ちょっと!?」
「逃げ切ったらアリスは本物だって信じたあげる」
「でも逃げ切れなかった時は……ね」
双子の目が光る。
その目は本気だ。
私の話など全く聞いてくれる気がない。
色々と言いたい事はあるけど、とりあえず逃げないと。
慌ててベッドから出て、部屋の外へと飛び出す。
「30秒数えたら追いかけるからね」
「早く逃げないとすぐに捕まっちゃうよ」
脅しとも聞こえる言葉を聞きながら、廊下を走っていく。
と言ってもまだこの城に来たばかりでどこに逃げていいかなんて私にわかるはずがない。
とりあえず外に。この城の外に。
ここにずっといる訳にはいかない。
帰らなきゃ。
あそこに帰らなきゃ。
「どこに帰るんだ、アリス?」
「……っ!?」
突然、私の声とは違う声が聞こえて、足が止まった。
「足を止めていいのか? すぐに双子が追いかけてくるぜ?」
だ、誰!?
辺りを見渡してみるが人の姿はない。
なのに声だけは鮮明に聞こえてくる。
まるですぐそばに誰かが立って、しゃっべってるみたいだ。
「あ、駄目駄目。見つけようとしても無駄だ」
たぶん、こっちには見えなくてもあっちには見えてるんだろう。
声はそんな事を言って、懸命に声の出どころを探す私を笑う。
「アリス、ほら足を止めるな。いい子だから俺の言うとおりに走るんだ」
「何で誰かもわからない貴方に従わないといけないのよ!?」
頭にきてそう怒鳴れば、声がまたくすくすと笑う。
「いいね。そうゆう強気な女は好みだぜ? だが、いつまでもそうやって意地をはってられないぜ? ほら、聞こえるだろう? 双子がお前を探す声がな」
そう言われ、慌てて私は耳をすました。
すると確かに遠くの方から子供の笑い声が聞こえてきた。
「このままだとあの双子に捕まるぞ? 双子の持ってた剣を見たろう? お前の首なんていとも容易く跳ねられるぞ」
「……っ」
「ほら、意地なんかはらないで、俺に従え」
確かにその声が言ってる事は正しかった。
このままではあの双子から逃れられない。
このままあてもなく逃げるくらいなら誰だかわからない声に従った方がいいのかもしれない。
でも…それでも……
私は声を無視して、走り出した。
「おいおい、どこ行くんだ?」
どこに行くか?
そんなの私だってわからない。
わからないけどそんな誰かわからない声をあてにするよりは自分の感の方がずっとあてになる。
意地っぱりって言いたきゃ好きなだけ言えばいい。
「私は顔を見せない相手なんか絶対に信じない事にしてるの!」
走りながらそう言えば、声がぴたりと消えた。
あきらめたのだろうか?
そう思ったその時、笑い声が聞こえた。
「みいつけた」
聞いた事のある少年の声にぞくりと背筋に冷たいものが走った。