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白ウサギに連れられてその4

不思議の国のアリスの登場人物の中で一番帽子屋が好きです。

どうしてこんなことになったんだろう。



睨み合う2人を見て、私は大きくため息をついた。



売り言葉に買い言葉。



何とも安い挑発にのり、白ウサギは剣を構えている。



全く本当にバカなんだから。何であんな簡単な挑発にのるのよ。



ちらりとチェシャ猫の方を見れば、彼もまた両手に一丁ずつ拳銃を握り、構えている。



どうやら白ウサギと彼は知り合いらしい。でも、話し方や態度からしてそれ程親しい仲ではなさそうだ。



いや、そんな事はどうでもいいんだけど……



「何で私…こんな訳のわからない事に巻き込まれてるんだろう」




そもそも白ウサギと会ってから、ろくな事がおきてない気がする。



穴には落とされるし、命は狙われるし、変態発言はされるし、本当にいい加減にして欲しい。



「殺し合いをするにしても…私の近くじゃなくてもっと別なところでやってよ」



そうすれば少なくとも悲惨な状態は見なくてすむ。



そんな私の思いなどあのわからずや兎に届くはずもなく、勝負はあっさり始まってしまった。



最初に動いたのは白ウサギだった。



一気にチェシャ猫に切りかかり、二本の剣を巧みに扱い、チェシャ猫の心臓を本気で狙う。



チェシャ猫はそれを上手に拳銃で防いでいく。




さすがはけんかをふっかけただけあって、その身のこなしは凄い。



それでも力に関しては白ウサギの方が上だった。




白ウサギは剣を力任せに振り切り、防いだ拳銃ごとチェシャ猫を切ろうとする。



その試みは丈夫すぎる拳銃によって失敗に終わったものの力任せに振り切られて、チェシャ猫はわずかに体制をくずす。



その一瞬を逃さず、白ウサギはチェシャ猫に容赦なく切りかかった。



寸前のところでチェシャ猫がその剣をかわす。



ここでチェシャ猫が反撃を試みて、銃弾を白ウサギに向かって数発撃ち込んだ。



白ウサギはそれをよけたりせず、全て剣で弾き飛ばす。



そう剣で弾いて……


「うん?」




白ウサギによってはじかれた銃弾。



それは一瞬宙を舞ったかと思うとあろうことか私の方めがけてとんできた。



当然、私にはその銃弾をよけれるような華麗な運動神経なんてない。



「嘘でしょう…」



何一つ身動きとれない間に、銃弾が襲いくる。



すぐそばでがんっと凄い音がする。



体に痛みがない事を確認してから、私は視線を音の方に向ける。



すぐ横にある木。そこの幹に銃弾が深くめり込んでいた。



たぶんそれはさっき白ウサギが弾いた銃弾だ。



まずい。これはスッゴくまずい気がする。



もしも後10センチ程当たるところが違ってたら間違いなく、私に当たってた。




「もう…何でこうなるのよ…」



このままだと私まで巻き込まれる。



そう思って、声をかけようとしたその時、再びチェシャ猫が白ウサギに発砲した。



それを白ウサギは当然のようにはじく。



そしてその銃弾は……



容赦なく私のもとへと飛んできた。



今度は三発。もう防ぐどころじゃない。



終わった。



私は今度こそ覚悟を決めて目を閉じた。



「アリス!」



はっとしたような白ウサギの声する。しかし今さら間に合うはずがない。



諦めかけたその時、誰かが私を後ろに乱暴に引っ張った。



引っ張っられたおかげで後ろに派手に転ぶ。



痛い。思わず目を開けるとさっきまで私が立っていたところに銃弾が通る。



どうやら私は後ろに引っ張った誰かのおかげで助かったみたいだ。



ちょっと乱暴だったけど。



いちよお礼を言おうと助けてくれた相手を見る。



助けた相手は私のすぐ後ろに立っていて、争う2人を睨んでいた。



「貴方……」



私の後ろに立っていた男。その男を私は見た事があった。



白ウサギに会う前に見た夢の中。そこで白ウサギと言い争っていた男だ。



確か名前は……



「帽子屋さん?」



私の思い出した名前はどうやらあってたみたいだ。その名前を聞いて、男は一瞬怪訝そうな顔をする。



黒い髪に茶がみかかった瞳。さらに帽子屋という名前のとおり、目を引きつけるような大きな大きなシルクハットをかぶっている。



帽子屋は私に何か言いたげにしていたけど何か言うよりも早く、白ウサギが駆け寄ってきた。



「アリス…アリス!大丈夫ですか!?」



今さら何が大丈夫だ。大丈夫なはずがない。



駆け寄ってきた白ウサギをとりあえず力いっぱい睨みつける。



その視線に気づいたのか白ウサギの足が私のところへつく前に止まる。



「アリス…何故怒ってるんですか?」



「何故かしら? その賢い頭でよーく考えてみたらどう?」


「っ、わ、私は悪くないです! そこの猫がアリスに向かって発砲するからこんなことに…」




「えー、俺のせい? そうゆうあんたこそ安い挑発に簡単にのったくせに」



「うるさい! 貴様は黙ってろ!」



「酷いな。アリスに向かって弾いたのは白ウサギだろう? 何でよりによってアリスの方にはじくのさ。俺よりも白ウサギの方がよっぽどアリスを殺そうとしてたよ」



「私がアリスにそんな事する訳ないだろう! だいたいお前が弾かせるような弾を撃つのがいけないんだ!」



「えー、それこそ白ウサギが当たれば問題なかったよ」



「あんな遅い弾に誰があたるか!」



だからって私の方に弾く事ないでしょう!



じっと責めるように白ウサギを見れば、慌てていいわけをし始める。




「あれは…わざとじゃ…私が貴方を傷つけるはずがないでしょう!?」



「そう言ってる貴方についさっき殺されかけたんだけど…」



「そ、それは……」



「もういい」



「アリス! 怒らないで下さいよ! 本当に反省してますから! 二度とこんな事しませんから!」



わあわあ泣きながら白ウサギが謝ってくる。



そこまでされるとさすがにかわいそうと言うか、恥ずかしいと言うか。



どうするべきか迷ってる私の隣で帽子屋が大きなため息をついた。



「いつまでくだらん話をしてるんだ」




この不毛な会話に痺れを切らしたのか、帽子屋は非常に苛々しているようだ。



「お前ような男にアリスを任せる事じたいが間違ってるんだ」



吐き捨てられたその一言にぴくりと白ウサギが反応する。



「どう意味だ…帽子屋……」



「そのままの意味だが?」



睨み合う2人。白ウサギの紅い瞳がまた冷たく光る。



またケンカ。



どうして彼らは知り合いと顔を合わせる度に争うんだろう。



いい加減にして欲しい。



「だいたい帽子屋。貴様いったいどう言うつもりだ?」



「何がだ?」



白ウサギのその目にひるみもせず、帽子屋は問い返す。



すると白ウサギもまた凄まじい形相で帽子屋を睨む。





そのあまりの表情に私は呼吸するのさえ、忘れ、その目を見つめた。



白ウサギは帽子屋を睨みながら大きな声で怒鳴りつける。



「いつまでアリスの近くにいるんだ! いい加減に離れろ!」



一瞬にしてピリピリしていたはずの空気が変わった。



全員が唖然とした、と言うかやや呆れたような顔で白ウサギを見ている。



しかし当の本人はそんな事構わず、未だに帽子屋の方を見て1人騒いでいる。



「帽子屋! 早くアリスから離れろ! そうしないと今すぐにでもその首切り落とすぞ!」



首って…どうしてすぐそうやって物騒な話にしたがるのよ。



私はもう何も言えず額を抑えて黙り込む。




帽子屋は酷くうるさそうに白ウサギを見ている。



一向におさまらない白ウサギに、帽子屋は我慢できなくなったのか、白ウサギの言うとおり私から少し離れた。



「これでいいか?」



それを見て、怒鳴り散らしていた白ウサギが黙り込む。



じいっと警戒するような目で帽子屋を見てから、後3メートル離れるようにと言いたした。

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