表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/60

白ウサギとのワルツ その7

前半はいつもの軽い感じに後半は少しシリアスになっています。


今回、とんでもないところできりました。


白ウサギがどうなったかは次回をお待ち下さい。

「ねえ、どこ行くの?」



私の問いかけにチェシャ猫はにやりと笑う。



「俺の部屋」



「うえええっ!?」



「え? 何、そんなに嬉しいの?」



嬉しいわけあるか!



これ以上そんな事したらもう姉さんに合わせる顔がない。



私は踵を返し逃げようとするも、チェシャ猫は私が逃げるよりも早く、腕をがっしりとつかむ。



「何で逃げるのさ?」



「逃げるに決まってるでしょう!」



部屋に着いたら、何をするのかわからない程、私だってばかじゃない。



「もう私は眠くないの!」



私の精一杯の拒絶の言葉にチェシャ猫は笑って答える。



「大丈夫だって。俺、あの2人より優しくするから」




「や、優しく!?」



何を優しくする気なのよ!?



変態と叫び出しそうになるのをぐっとこらえて、私はチェシャ猫から逃れる言い訳をあれこれ考える。



このままだと間違いなく、無理やり一緒に寝かせられる。



「だ、だからもう十分寝たから……もう眠るのは……」



「大丈夫だって、ベッドに横にさえなってくれれば後は俺が全部やるから」



「全部?」



「アリスは何もしないで横になって、おとなしくしててよ。あ、服は自分で脱いでくれると嬉しいな」



「ふ、服を脱ぐ!? 何で服なんか脱いで……」



「う~ん、脱がすのも嫌いじゃないんだけどさ」




「脱がす!? 脱がすって、ええっ!?」



貴方は何をしようとしてるの!?



私は必死に捕まれた腕をふりほどこうともがく。



「何やってんの?」



「何って、見てわかるでしょう!? 凶悪な狼から逃れようとしてるの!」



「狼? ここに狼なんかいないじゃん」



「貴方が狼なのよ!」



「俺? 俺は猫だけど?」



「どこがよ!? 貴方のそのどこが猫なの!?」



駄目だ。話が全く通じてない。



どうしてこうゆう時に限って、白ウサギはいないのよ!



「とりあえず落ち着けって、あんまり興奮すると体に悪いぞ?」



「誰のせいよ、誰の!」




「う~ん、俺? でもそんなに興奮させるような事言ったけ? あ、やっぱり俺と寝たい?」



誰が寝るか!



「貴方と寝るなんて身の危険しか感じない!」



「その感じがたまらないんだな?」



「何でそうなるのよ!?」



前から思っていたが不思議の国の住人達は皆顔がいい反面、頭がどこかおかしい。



白ウサギしかり三月ウサギしかりチェシャ猫しかり……



変人ばかりだ!



笑いながら誘ってくるチェシャ猫に私はぶんぶんと首を横に振る。



「いいじゃん。俺、かっこいいし」



「自分で言うな!」



「だってそうだろう?」



確かに顔はいい。だが、今の問題はそこじゃない。



「俺、意外と尽くすタイプだし。どう? 俺と今のうちにやっちゃえばもう白ウサギに追いかけられなくてすむだろう? 俺が守ってやるからさ」



そんな事したら間違いなく白ウサギはチェシャ猫を殺しにかかるだろう。



容易にその姿が想像できて苦笑する。



「貴方になんか守って貰わなくても結構よ」



何だかんだ言って白ウサギは私に甘い。



あれだけの力があれば私を押し倒す事も無理をしいる事も簡単にできるのに白ウサギはそんな事を一度もしなかった。



変態だけど変なところで紳士的なのよね。



「へえ、案外白ウサギの事信頼してるんだ」



「別にそうゆう訳じゃないけど……」



「そう? 俺には信用してるようにしか見えないけどな」



そっとチェシャ猫が私の腕を引く。



少し距離が近くなる。



「あんた、無防備すぎ。そんなふうにすぐに人を信用してるとそのうち本当に食べられちゃうよ?」



「ち、近い!近いから!?」



何故だかチェシャ猫は私にやたらと顔を近づけてくる。



とっさに身を引こうとしたが腕を強く捕まれていて、全く身動きがとれない。



チェシャ猫の笑顔が迫る。



これは……ひょっとして私、ピンチじゃない?



「チェ、チェシャ猫!」



「何?」



「え、えっと、あっ、魚が空を飛んでる!!」



「……」



私は何を言ってるんだろう。いくら何でもこんな嘘、騙される訳がない。



しかもチェシャ猫は別に猫じゃないし。魚好きかどうかもわからないのにこんな事言って……



私はおそらく呆れているであろうチェシャ猫を見る。



しかしチェシャ猫は私の方なんか見ていなかった。窓の外を何故だか食い入るように見つめている。



「チェシャ猫?」



「どこ、どこ!?」



「え?」



「魚! どこだよ! 見えないぞ!」



ほ、本当に信じないでよ!?



「チェシャ猫! 貴方頭大丈夫!?」



私は思わず心配になってチェシャ猫に尋ねる。しかしチェシャ猫はチェシャ猫で魚を探すのに夢中だ。




「魚が見えねえ! 魚! 魚ぁぁ!」



大声で魚を呼ぶチェシャ猫に私は若干恐怖を感じて、押し黙る。



え? 大丈夫? その頭で大丈夫なの!?



と、とりあえず、一度落ち着こう。



チェシャ猫は窓の外を夢中で眺めている。



あ……



腕の力が弱まった事に気づき、すかさず私はその腕を振りほどき、逃げ出した。



「あ! アリス!」



チェシャ猫の慌てた声が聞こえる。



「待てよー」



「待たない!」



きっぱりそう言って私は廊下を走り抜けた。










妙な感じがする。



白ウサギはゆっくりと顔を上げ、鋭い目で周りを見渡した。




彼の両手には剣が握られ、足下には死体と思しきものがばらばらに散らばっていた。



彼の服には返り血がつき、剣の先から生々しい血が流れ落ちている。



しばらく呆けたように白ウサギがそこに立っていると地面に落ちていた死体が音もなく消え去り、死体があった場所には数枚のトランプが落ちていた。



赤と黒のトランプ。



白ウサギはそれを一瞥も見もせず、何かを探しているように周りをただただ見渡す。



「気のせいか?」



若干安堵したような声音で白ウサギはそう言い、緊張した表情を崩す。



妙な胸騒ぎを感じたのはアリスが眠り込んですぐの事だった。




白ウサギはやや惜しみつつも部屋にアリスを残し、一人出てきたのだ。



城の外には案の定、トランプ兵の姿があった。



女王の忠実な僕達。



彼らをなぎ払うのは億劫ではあったがさほど大変な事ではなかった。



「たかがトランプ兵ならアリスを一人にしてまで来なくても良かったな……」



白ウサギは深くため息をつき、何も言わずに部屋に残してきてしまった少女を思う。



もう起きてしまっただろうか?



自分がいないベッドを見て、彼女は何を思うのだろうか?



「とりあえず寂しがって泣いてくれたりは……しませんね」




あの意地っ張りな少女がそんな事をするはずがない。



おそらく一人置いていかれた事に対して怒っているに違いない。



白ウサギの表情が僅かに和らぐ。



「ああ、またアリスに殴られるかもしれないな」



どこか嬉しそうに白ウサギがそう呟いたその時、空気が僅かに揺れた。



その僅かな変化に白ウサギが気づいた時、すでにもう遅かった。



何の前触れもなく、鋭い刃が白ウサギの背中を貫き、深々と体に刺さる。



とっさの事に叫ぶ事もできず、白ウサギはただ目を見開き、その場に膝をつく。



白ウサギの血が肉を裂いた刃を伝い地面へとゆっくりと落ちていく。



滴り落ちる自分の血。




口を開けば血が口の中に溢れ、白ウサギは呼吸する事さえできず、苦しげにその場で咳き込む。



苦しむ白ウサギを見て、誰かが笑った。



「いい姿ね、白ウサギ。貴方にとってもお似合いだわ」



深々と白ウサギに刺さっていた刃が容赦なく抜かれる。



「うがあっ!」



白ウサギはあまりの痛みに声を上げ、その場に力無く倒れた。



地面が白ウサギの血によって赤く赤く染まっていく。



「ねえ、私のアリスはどこ?」



赤く染まった刃が光る。



誰もが驚くような大きな鎌を片手に彼女は楽しげに笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ