三月ウサギの戯言 その7
一週間に一度更新しようと思っているんですが最近1日ずつズレていってる気がします。いや、ズレていってますね。確実にズレてますね。
本当にすいません。1日、2日は誤差という事で許して下さい。
「は? あ、いや、アリスそう言うなら私がいけないんですね。すいません。謝りますから泣き止んで下さい」
私の理不尽なその言葉に白ウサギはそう言い、謝ってくる。
本当にバカな奴。少し考えられば自分が悪くない事ぐらいすぐにわかるのに、それなのに謝ってくるなんて……
「泣き止んで下さい……アリス」
そおっと白ウサギが手が伸び、私を抱きしめる。
「貴方は私の……」
白ウサギのものとは思えないほどの優しい声。
何故だろう? その声を私は聞いた事がある気がする。
あれはいつだっけ……
あれは……確か……
「そうか、なるほど。そうゆう事か……」
三月ウサギが私と白ウサギの様子を見て、何やら一人で納得している。
視線をやれば、三月ウサギはニヤリとした笑みを浮かべ、私の方を見返した。
「そうか、だから白ウサギは君に執着していたのか」
全てわかったよ。
晴れ渡ったような笑みを浮かべて、三月ウサギはそう言う。
それに対し、白ウサギは何も言わない。たださっきまでの優しい雰囲気が消え、冷たい目で三月ウサギを睨みつけている。
何がわかったと言うのだろうか?
私にはさっぱりわからない。
自分を睨みつける白ウサギに三月ウサギはにこやかに笑いかけつつ手を一回叩く。するとその手に当たり前のように彼の武器が現れた。
もちろん彼の武器はあの立派なライフルだ。銃口がぴったりと白ウサギの額に向けられる。
「何のつもりだ、三月ウサギ」
「見ればわかるだろう? そうとわかれば君に用はない。そこを退いてくれ。私はアリスとまだ一緒にいたいんでね」
「冗談じゃない! お前みたいな変態とアリスを一緒になんかいさせるか!」
貴方がそれを言うの?
白ウサギの言葉に苦笑する。変態なのは彼も同じだと思うのは私だけだろうか?
「いくら君でもアリスを縛るのは感心しないな。アリスがどうするかは君が決める事ではない。アリス自身が決める事だ」
「アリスが私よりもお前のような奴を選ぶと?」
「ああ、選ぶさ。世の中優しいだけの男はもてないんだよ、白ウサギ」
「何の話をしてるのよ……」
もてるとかもてないとか、話が大幅にずれてる気がする。
「もちろん、君の好みについて話し合ってるんじゃないか!」
何故そうなる!?
訳がわからない!
「アリスがお前を選ぶはすがない。アリスは……私はアリスの……」
白ウサギが優しく私を抱きしめる。あまりにも優し過ぎる抱擁に私はその腕を払いのける事もできなかった。
「白ウサギ……?」
何だか今までと雰囲気が違う。
今までだったらいくらでもその腕を払いのけられたのに。
白ウサギはまるで私を壊れ物でも扱うように抱きしめる。
少しでも力をいれたら、壊れてしまうかのように、優しく、優しく。
白ウサギのそんな様子を見て、三月ウサギは笑う。
「悪いけどね。アリスはやっぱり、私を選ぶよ」
何故か自信満々にそう言う三月ウサギ。何の根拠があると言うのだろうか?
「アリスが貴方を選ぶはすがない……」
「選ぶさ」
三月ウサギが私を見て言う。
「人というものは真実を知りたがるものだからね。当然、アリスもそうだ」
真実? どういう事?
困惑ぎみに私は三月ウサギを見つめる。
「白ウサギは君に優し過ぎる。白ウサギは君に真実を教える事なんかできないよ。例え、どんなに自分が辛いとしてもね」
白ウサギが辛い? 何で? どうして? 何で辛いの?
その答えをいくら求めても誰も与えてはくれない。
違う、答えはすぐそばにある。手を伸ばせば届く距離。白ウサギは何かを必死に隠し、三月ウサギはそれを暴こうとしている。
三月ウサギは嘘を言わない。彼が真実を教えると言うなら、本当に真実を教えてくれるのだろう。
答えはある。そして私はそれを選べる。
ゆっくりと私は立ち上がった。
白ウサギは引き止めたりせず、腕を力無く落とす。
白ウサギは何も言わない。彼は何もしない。いつだって彼はそう。
彼は何もしない。
最初の時だって白ウサギのせいだと私は言ったけど、彼は本当は何もしていない。
私は自分で選んでその背を追いかけてきたのだ。
アリスもそう。気づいたらなっていたんじゃない。アリスが嫌なら否定し続ければ良かったのに私は自分からその名前を肯定してしまった。
私は自分でこの世界にやってきた。自分でアリスになった。自分で選んでここにいる。
三月ウサギの目の前に立つと三月ウサギが優しく微笑んだ。
綺麗な微笑みだと思う。しかし暖かみのかけらもない微笑み。これなら白ウサギのあのバカみたいな笑顔の方がずっといいと思う。
「アリス……真実を教えてあげるよ」
三月ウサギのその言葉に私は答えず、三月ウサギの頭を叩いた。
軽く叩いただけだがなかなかいい音がする。
ライフルを持つ相手に対していきなりその頭を叩くなんて、私もえらく度胸がついたものだ。
三月ウサギはいきなり叩たかれたにも関わらず、怒ったりせず、私を静かに見つめる。
私はその目を真っすぐと見返す。
「女の子を盾にするような奴になんかついていく訳ないでしょう?」
私は結構根に持つタイプだ。一度された事は絶対に忘れない。
それを聞いて三月ウサギはニヤリと笑う。
「何だ、拗ねてるのかい? 可愛いな」
拗ねてない。拗ねてない。
「言っただろう? 私は優しくないって、だからこそ君に真実を教える事ができる。君は真実を知りたいはずだ」
確かに知りたい。でも私は人の言う事を素直に聞くようなたちじゃない。
「別に貴方になんかに聞かなくたっていい」
「私以外には教えてくれないよ?」
「それでもいい」
教えてもらわなくたっていい。
「自分で探す」
誰かに教えて貰うなんて私らしくない。
「自分で知りたい事ぐらい、自分で探す」
らしくもなくポカンとした表情で三月ウサギは私を見る。
「何よ……」
そんなに可笑しい事を言っただろうか? 三月ウサギがあまりにも私の方をじっと見てくるので、少したじろぐ。
不意に三月ウサギが大きな声を出して笑いだした。
何がそんなに可笑しいのかお腹を抱えて笑っている。
前々から思っていたけど三月ウサギは一回笑いだすとなかなか止まらない。
私は唖然としつつ、笑う三月ウサギを眺める。
しばらくしてようやく三月ウサギの笑いがおさまった。
「いや、アリス。やっぱり君は面白い。さすがは白ウサギの選んだアリスなだけあるよ」
三月ウサギはそう言ってまた笑い出した。