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三月ウサギの戯言 その4

ウサギVSウサギ。


アリスをめぐって遂に争い勃発。しかしこの勝負、最初から勝敗が見えてますね。

「それでどこに行くのよ?」



「どこに行きたい? 君の要望ならいくらでも受け付けるよ?」



何か考えて、出て来た訳じゃないのね。



「要望って、ここに来たばっかなのに……」



わかるはずがない。そう言うと三月ウサギは笑って頷く。



「そうだね。じゃあ、またお茶会でも開くかい?」



「お茶会って……」



あれは間違ってもお茶会なんかではないだろう。



少なくともお茶会の会場で普通銃なんか構えるもんじゃない。



どうせそんな事今さら言っても三月ウサギは気にも止めないだろうが。



その時、思考が不意に中断される。



「アリス!」





懐かしい声が聞こえた。私はあえて声の聞こえた方を見ない。いや、見たくない。あれは幻聴に違いない。絶対にそうだ。



ぐいっと三月ウサギの腕を引く。



「おや、アリス。どうしたんだ? えらく積極的じゃないか」



「何か嫌な幻聴が聞こえて……」



気のせいか、誰かが走ってくる足音が徐々に聞こえてくる気がする。



私は慌てて、三月ウサギの腕をつかむとそのまま走り出す。



「うん? どうしたんだい? アリス、そんなに素敵な笑顔を浮かべて」



笑顔なんか浮かべてない!



この顔が笑顔に見えるなんてそうとうの重傷だ。



「幻聴が……幻聴が聞こえて……」




そう、ここにいないはずのあいつの声が聞こえる。あいつの声がする。



「幻聴が……やけにリアルに……」



「アリス」



三月ウサギがにっこりと笑う。その笑顔が眩しい。



「それは幻聴じゃなくて本物さ」



一番聞きたくなかった一言を残酷にも口にする三月ウサギ。



三月ウサギが足を止め、振り返る。仕方なく私も足を止め、意を決して振り返る。



「アリス!」



そこには予想通りにと言うか、最悪と言うか、白ウサギが満面の笑顔を浮かべてこちらに向かって走ってきていた。



もう、何でいるのよ!?



がっくりとうなだれる私に三月ウサギはそっと囁く。



「大丈夫だよ、アリス。私が悪いウサギから君を守ってあげるよ」



甘い声でしかもそんな顔で言われたら女の子なら誰でもすぐにくらっとしてしまうだろう。



もっとも私は例外だが。



「その悪いウサギに貴方も入ってると思うんだけど……」



「あはは、面白い冗談だ。さすがはアリス! こんな状況でも余裕だな!」



そう言って声を出して笑いだす三月ウサギ。



笑えない。全く笑えない。しかも冗談じゃないし……



「アリス!」



飛びついてきそうな勢いで走ってきた白ウサギだが、私達よりも少し手前の位置でぴたりと止まった。



てっきり抱きつかれると思って身構えていた私は拍子抜けし、驚いたように白ウサギを見る。



白ウサギはさっきと打って変わった険しい表情で私達の方を見る。



正確には私達と言うより、三月ウサギを冷たい目で見据えている。



もうこの後なにが起こるかなんて容易に想像がつく。



「白ウサギ。いちよ言っておくけど私と三月ウサギの間には貴方が思っているような事は何もないから」



白ウサギが騒ぎだす前に釘をさしてそう言う。



しかし白ウサギはそれでも納得できなそうにこちらを見る。



「さっき、手繋いでいませんでしたか?」



「繋いでない! 腕をつかんでただけ! しかもそうゆう意味でやってた訳じゃなくて……」




とその時、三月ウサギがそっと私の肩に手を回す。



それを見て、白ウサギの目が見開かれる。



ああ、まずい……



慌てて振り払うが三月ウサギはにこにこと嬉しそうな顔をする。



「何も払わなくてもいいじゃないか、アリス」



「何、誤解されるような事してるのよ!?」



人の気も知らないで。誤解したままだとこの後、あのバカはとんでもない事をやらかすんだから!



しかし私のそんな思いも虚しく、三月ウサギは笑ったまま言う。



「誤解だなんてそんな言い方しないでくれ。私と君は一夜を共に過ごした仲じゃないか」




終わった。



恐る恐る白ウサギの方を見れば、その目が完全に見開かれ、呆然とこちらを見ている。



「一夜を……共にした?」



今にも倒れてしまいそうな表情で白ウサギは譫言のように三月ウサギの言葉を繰り返す。それに三月ウサギは嬉しそうに笑う。



「そうだとも! いいだろう? 羨ましいだろう? 私はアリスと一緒に寝て、あんな事やこんな事まで……っ!?」



それ以上言う前に三月ウサギの足を思いっきり踏んで、黙らせる。



あんな事やこんな事って何よ? 誤解を招くような言い方しないでもらいたい。



「アリス、痛いじゃないか……」




「何が痛いよ。ありもしない事を言わないでくれない?」



「一緒に寝たじゃないか!」



「貴方が勝手に私の布団に入ってきたんでしょう!?」



「キスだってした!」



「それも貴方が一方的にしたんでしょうが!」



しかも髪だ。たいした意味もない。



「嫌がってなかったじゃないか」



「そう見えたとしたら貴方の目は節穴よ。今すぐ医者に見てもった方がいいと思う」



二人で言い争っているとふと何かが切れるような音が聞こえた。



慌てて白ウサギを見れば、そのあまりの様子に私は言葉を失う。



もとから白ウサギは短気な方だと思っていた。小さな事ですぐに怒って、剣を振りまわす。




しかしその考えは改めなければならない。



それは白ウサギにしてみたらだいぶおさえていた方だったのだ。今の白ウサギを見れば、それがよくわかる。



まさに鬼だ。それほど今の白ウサギは恐い。



血走った目が獲物を求めて動き、一瞬にして彼の剣が姿を表す。



ゆっくりとそれが構えられる。勿論、その標的は私の隣にいる男だ。



声さえ出ない。白ウサギも何も言わず、ただ剣先が光る。



緊迫した状況。下手に動けばやられるというやつだ。



どうしよう? どうするの?



ちらりと隣に目を走らせる。三月ウサギは私のその視線に気づくとにっこりと笑う。



「大丈夫だよ、アリス。ウサギなんかに私は負けないさ」



彼をウサギと言うなら、貴方もウサギでしょう!?



しかしそんな事言う前に白ウサギが遂に動いた。



目にも止まらぬ速さで一気に間合いを詰められる。



「三月ウサギ!?」



心配して名前を呼んだと同時に三月ウサギは私を引き寄せ、後ろから抱きしめた。



「なっ!?」



こんな時に何してるの!?



文句を言う暇もなく、白ウサギの剣先が向かってくる。



この瞬間、私は全てを理解した。



こいつ……私を盾にする気だ。



慌てて逃げようとするががっちりと三月ウサギは私を抑えつけて放さない。



笑う三月ウサギ。ま、まさかこんなところで死ぬなんて。




頭が真っ白になる。目の前に剣先が迫った。

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