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いかれた帽子屋 その9

この章はこれで終わりです。次回より新章の予定。ここからは三月ウサギが中心です。

三月ウサギにひきつられてやってきたのは城内にある、とある一室だった。



「これ、ひょっとして全部客室なの?」



端から端までずらりと並んだ部屋。いくつぐらいあるのかはわからないが、とりあえず見えるだけで60くらいはあるだろうか?



「いや、客室と言うよりは……まあ客人がきたら泊まるんだが客人じたいめったに来ないからなあ」



そうだろう。こんな物騒な城にやって来る人などそうそういない。



「さあ、アリス。ここだ」



そう言って三月ウサギはある部屋の前で立ち止まり、扉を開けた。



高級ホテルの一室のような部屋に少したじろぐが三月ウサギは笑顔で手招きする。



「大丈夫だよ。ここはアリスの城だ。君が遠慮することなんかない」



そうは言われても……普通は遠慮するだろう。とは言え、このまま入らないわけにもいかない。



「おじゃまします……」



中は予想通りの豪華さで、当然そんなものに慣れているはずがなく、何だか落ち着かない。



そんな私をよそに三月ウサギはさっさと部屋の奥へと進み、部屋のすみに置かれていたクローゼットを勝手に開け、中を物色し始めた。



「ちょっと、何してるのよ?」



慌てそう言うが三月ウサギは別に気にした様子もなく、クローゼットの中をあさる。



「あんまりいいのがないな。やはりもっとフリルのついたやつの方が……」



「ねえ、聞いてる?」


もちろん、あの三月ウサギが人の話を聞いているはずがない。



「色はどうする? やはり青? いや、アリスなら赤や黄色もあいそうだな」



「もしもし? 三月ウサギ?」



全く聞いてない。



諦めかけてため息をつくと三月ウサギがようやく私の方に顔を向けた。



「アリス、お風呂に入っておいで。あんな奴らの血なんかつけていれば、それだけで君の品性が疑われてしまう」



「品性って……貴方それはいくら何でも……」



言い過ぎだ。そい言おうとしたがすでに三月ウサギは私から視線をずらし、クローゼットの中に頭を突っ込んでいる。



そんな姿を見たら、話しかける気も失せる。




仕方なく、私はどうか三月ウサギがまともなセンスを持っているように祈りつつ、風呂場へと向かった。









「ちょっと三月ウサギ!」



「どうしたんだね? そんな大きな声を出して。まあ、君に大声で名前を呼ばれて、悪い気はしないがね」



どこかで聞いたようなきざなセニフをあえて無視し、私は精一杯三月ウサギを睨みつける。



しかしやはりと言うべきか、何と言うか、そんな事で怯むような相手ではない。



睨みつける私を見て、三月ウサギが目を輝かせる。



「やっぱり、私のセンスは間違いない! いや、さすがはアリスだ。いや、実に良く似合っているよ!」




体を洗い、風呂場を後にし、出てくると脱衣所に三月ウサギが用意した新しい服が置かれていた。



さすがは三月ウサギが選んだものだ。可愛らしい黄色のネグリジェ。正直、私の好みとは全く違う。



「似合ってない! 全然似合ってない!」



「似合ってると私が言ってるんだから似合ってるに決まっているだろう?」



いったいどうゆう道理でそうなるんだ!?



しかもこのネグリジェ、三月ウサギの趣味か、やたらとリボンなどがついているし、ひらひらとしている。



「やっぱりこんなの無理! 他のにして!」




「君に選ぶ権限はない。あるのは私だ。君は黙って着るんだ」




「何よ、その勝手な権限! 私が着るんだから普通決めるのは私でしょう!?」



「そうか、そうか、あれだな。文句言いながらも実は気にいってる。そうなんだろう?」



「何でそうなるの!?」



思いっきり問い詰めてやりたいところだが、だいぶ疲れいることもあり、そんな事するような元気はもう残っていない。



疲れた。今日1日でどれだけの力を使ったんだろう。色々ありすぎて、もう余力さえない。



しょうがない。私はため息をつき、すごすごと三月ウサギのところへ行く。



「ねえ、私の服はどうしたの?」



脱衣所に置いてあったはずの私の服がなくなってにいたのを思い出し、試しに聞いてみる。




「ああ、あれ。捨てたよ」



「捨てたって……ええっ!?」



「あれだけ血がついてしまったら、もう落ちないだろう?」



「そりゃあ……そうだけど……」




だからって何も下着まで捨てなくてもいいんじゃないの!?



探してみたが下着も新しい物が置かれていた。



私の下着……まさか……ね。



確かにあれだけ返り血がついていては洗ったとしても全ては落とせないだろう……下着に関しては……うん、捨てられてないと色々と困る。



「アリス、君は何を着たって似合うよ」



三月ウサギはそう言ってにっこりと笑う。有無を言わせぬその笑みに無言の圧力を感じる。



ああ、もうどうでもいいや。どうせ寝るだけだし。



相当疲れたのか、だんだん眠気がやってくる。私は目をこすりながら部屋に一つ置かれていたベッドに近づく。



「私ちょっと寝るけど……貴方はどうするの?」



「そうだな。君の可愛らしい寝顔でも眺めていようかな?」



「自分の部屋に帰ってちょうだい」



はっきり言ってそんな事されても気持ち悪いだけだ。変態は一人いれば十分。これ以上変なのが増えるのはごめんだ。



「あはは。そんな冷たい事を言わないで。安心してくれ、私は白ウサギじゃないから君に変な気を起こしたりしないよ」



当たり前だ。おこされたら困る。



「冷たいって何よ。当然の主張でしょう? 寝顔なんか人に見られたって嬉しくもなんともないんだから」



「私は嬉しい」



「貴方が嬉しくても私はちっとも嬉しくないの」



普通言わなくてもわかるだろう。そう言えば三月ウサギはくすくすと笑う。



「すまないね。私は普通ではないんだ」



「そうね……」



確かに、三月ウサギに普通を求めるなんて無駄だ。それでもこのままほっといて寝る訳にはいかない。



そう思っていたのに突然視界がぐるりと回る。



あれ? 突然、強い睡魔に襲われ、立ってることもできず、気づいたら私はベッドに倒れこんでいた。



眠い……スッゴく眠い。




どうにもできない睡魔に戸惑っていると三月ウサギがくすりと笑う。



「アリス、寝なさい」



「でも……」



「大丈夫。私は本当に何もしないよ」



そう言って三月ウサギはベッドに寄り、私に布団をかけ、幼い子にするように私の頭を優しく撫でる。



瞼が重い。頭がぼおっとする。どうしたんだろう? 本当に眠い……。



「ねえ、三月ウサギ」



「うん?」



「貴方は本当に寝ないの?」



瞼を閉じ、うとうとしながら気になってそんな事を聞いてみる。



「ああ、そうだよ」



三月ウサギが笑う。



「私は眠るのが大嫌いなんだ」



意識がもったのもそこまでだった。三月ウサギの声が遠のき、あっという間に私は眠ってしまった。

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