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いかれた帽子屋 その8

久しぶりの三月ウサギ登場。もしかしたら最初の頃と言葉づかいが違うかもしれませんが気にしないで下さい。気にしたら負けです。

「やあ、アリス」



何故そこにいたのかよくわからないがそこには笑顔を浮かべた三月ウサギが立っていた。



「三月ウサギ?」



そんなところで貴方は何してるの?



「おい……そんなとこで何してる?」



私が聞くよりも前に帽子屋が聞いた。



「何してる? 見てわからないかい? アリスを待っていたんだよ」



三月ウサギは爽やかな笑みを私に向けながら答える。私を待っていた?



「君が外に行くのが見えてね。ずっとここで帰って来るのを待ってたんだ」



「お前……アリスが外に出て行くのを黙って見過ごしたのか!? こいつはあと少しで死にかけたんだぞ?」



「別に心配してなかった訳じゃないさ。ほら、証拠に私はここでずっと君らが帰って来るのを待っていただろう? 私も追いかけようとはしていたんだが、途中で君が先に外に出ていた事を思い出してね。君なら一人でも大丈夫だと思ったんだよ」



そんな三月ウサギの言葉に帽子屋はひどく不快そうな顔をする。



「この俺がアリスを見捨てるとは思わなかったのか?」



「役割上、君だってアリスを守らなきゃならないだろう? 現に君はアリスを助けてきたじゃないか」



それにと三月ウサギは付け足す。



「君は優しすぎるからね。アリスを見捨てる事なんかどうせできないと思ったんだよ」




三月ウサギのこの一言に帽子屋はますます顔をしかめる。どうやらそうとう苛ついているようだ。見ただけでわかる。



それでも相手にするだけ無駄だと判断したのか帽子屋は三月ウサギに何も言い返さず、さっさと城の中へと入って行ってしまう。



「どうせお茶会の準備を眠りネズミに押し付けて、やることなどないんだろう? 後はお前が勝手にやれ」



そう言って立ち去りかけた帽子屋の腕を三月ウサギがつかむ。



「何だ」



「帽子屋……アリスの髪を切ったのは君かい?」



三月ウサギは静かにそう尋ねた。声はひどく穏やかだが、その目はぎらぎらと血に飢えた獣のように光っている。



「だとしたら何だ?」




「さあ、どうしようかね?」



そう言いつつ、その手はすでに武器を出そうとしている。私は慌てて二人の間にわって入る。



「ちょっと、やめてよ」



ここでまた乱闘になるのは嫌だ。何としても撃ち合いはさけたもらいたい。



そんな私を見て三月ウサギはひどく不思議そうな顔をする。



「アリス……何で君が帽子屋をかばうんだい?」



「別に……」



かばっている訳ではない。確かに髪を切られたのは少しばかりショックだったけど私にも非がなかった訳ではないし、別に髪の長さなどはっきり言ってどうでもいい。伸ばしてたのだって姉さんに言われたからだ。



「とにかくもういいから……」




それでもまだ不服そうな三月ウサギ。それを不機嫌そうに見る帽子屋。



この二人……仲が良いらしいがとてもじゃないがそうには見えない。



あれ? でも確か三月ウサギは帽子屋に名前を名乗ってたんじゃなかったけ……



名前を名乗るという事はそれだけの仲のはずだが……



「あー……綺麗なアリスの髪が……こんなことになるなんて……」



三月ウサギは何故か私以上にショックを受けているようで何度もそう言い、やたらと悲しんでいる。



はっきり言って、何でそこまで気にするのかよくわからない。



「別にいいの。私、特に気にしてないし……」




「気にしてない? 私が気にしているんだ! どうするんだ、アリス? こんなに短くしてしまって……」



どうすると言われても、今頃どうしようもない。



「ああ……私は長い方が好みなのに……」



そんな事であんなに悲しんでたの!? 正直どうでもいいですけど!



「いや、もちろん今でも十分可愛いが……ショートヘアーが嫌いだとかそうゆう訳じゃないんだが……」



誰もそんなことは聞いていないし!



話が確実にそれてきたな……



はっとして周りを見渡せば、さっきまでいたはずの帽子屋がどこにもいない。




ま、まさか……逃げた!?



三月ウサギと二人だけとか、白ウサギとはまた違う怖さを感じる。



そんな事を考えていると突然、ぬれたハンカチを顔に押し付けられた。



「え? ちょっ、ちょっと!?」



あまりのことに私が反応できないでいると、三月ウサギは容赦なく、押し付けたハンカチで私の顔をごしごしとふく。



「いたっ!? ちょっと、何!? 何なの!?」



「動くじゃない。女の子が顔に血なんかつけるものじゃないだろう?」



何の事かすぐにわかった。帽子屋がトランプ兵を斬った時に飛んだ返り血のことだ。



そう言えばまだそのままだった。見れば服にも血しぶきがついている。




それにしてもどこでぬれたハンカチなんか用意してきたのだろうか?




三月ウサギは顔を丁寧に拭いてから私の手をひいて、歩き出す。



「どこ行くの?」



「血まみれのままじゃ、気持ち悪いだろう?」



確かに……



体を洗いたいし、できれば服もかえたい。



私は仕方なく三月ウサギの後に続く。別に手をつなぐ必要はない気がしたが、三月ウサギがそうしたいならそうさせた方がいい。



へたに怒らせてライフルでも構えられたらもう止めようがない。



「何があったんだい?」



「え?」



「君が血まみれだなんて、本来あっちゃいけないことだよ」



三月ウサギは静かにそう言った。城の外に出たのを怒っている訳ではなさそうだが、やはりどこかその声に責められている気がする。



「帽子屋は血まみれになってもいいわけ?」



「彼が血まみれなのはいつもの事だよ。彼はどうでもいい奴らをこの城に近づけさせないのが仕事だからね。彼が血まみれなのは真面目に役目をはたしている証拠だよ」



三月ウサギがくすりと小さく笑う。



「なにせ、彼はいかれた帽子屋だからね」



何のためらいもなく少女を斬り捨てた帽子屋を思い出す。



無表情で剣を振るう帽子屋。しかしそんな彼に私は助けられた。




だからだろうか? いかれた帽子屋というどこか蔑むような言い方に私は何故だかむっとして言い返す。




「いかれた帽子屋なんて言って……この世界の住人はみんないかれてるじゃない」



その一言に三月ウサギは目を見開き、次の瞬間声を出して笑い始めた。



「そうだな。この世界はとっくの昔におかしくなっているんだよ。アリスがいなくなったその日からね」



そう言って、また三月ウサギは笑い出す。その笑い声はしばらくおさまりそうになかった。

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