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いかれた帽子屋 その3

何度も何度も同じことを言いますが今回も帽子屋が出てきていません。


タイトル変えようかな……

お姉さんが嫌いなんですね?



白ウサギに言われた一言がぐるぐると頭の中で回る。



姉さんのことを? 私が?



足が自然と止まる。ちらりと後ろを振り返れば、もうそこには白ウサギの姿はなかった。



ゆっくりと視線を前へと戻す。どこまでも広い廊下をひたすら前へ前へと私は進んで行った。










「アリス」



「何?」



「この服どう?」



ある土曜日の午後。私は姉さんに連れられ、ピアノの発表会に着るドレスを買いに出かけた。



店に入ってすぐに姉さんが手にとった服はリボンがやたらとついた赤いドレスで正直少し派手だと思った。



「姉さん……少し派手じゃない?」




「そうかしら? ピアノの発表会なんだから少しぐらい派手でもいいわよ」



「でも……」



「アリスによく似合うと思うわ」



姉さんはうっとりとした目でそう言い、私に着てみるように促す。



言われるがままに着てみると派手な赤いドレスはあまり私に合っていない気がした。それでも姉さんはよく似合うと私を褒め、結局私はそのドレスを着て、発表会に出た。



本当はピアノなんか習いたくなかったけど姉さんがやってほしそうにしてたからやることにした。



本当は友達と一緒に外で遊びたかったけど姉さんがおしとやかにしなさいと言うから黙って部屋で本を読んでいた。




姉さんが望むように、姉さんの望む妹を演じてきた。



母の代わりに私を育てくれた姉さん。そんな姉さんに私ができた唯一の事だったから。



「帰らなきゃ……」



無意識出た一言。しかしその言葉が頭に響く。



帰らなければ……あそこへ帰らなければ……。



気づけば私は最初にいた玄関ホールへと戻ってきていた。自然と足が入り口へと向かう。



頑丈で豪華な装飾が施された大きな扉。まるで外に出ることを阻むかのようにきっちりと閉められたその扉の取っ手に私はゆっくりと手をかける。



そうだ。



いつまでもこんなところにいては駄目だ。



帰りたいなら出口を探しにいかなければ。




出口はどこにあるかわからないが、少なくともこの城にはない気がした。



きっともっと外。



ここではないまだ見た事ないところそこにこの世界の出口があるのだ。



いつまでもこんなよくわからない世界にいるわけにはいかない。



試しに外に出てみて、どうしても帰れなかった時はこの城にまた戻ってくればいい。



そんな軽い気持ちで私は扉を開けた。










城の外はやっぱりただの森だった。右を見ても左を見ても同じような木だけが永遠に並んでいる。



まずい……。私は足を止め、周りを見渡した。



周りをどんなに必死に見渡しても、そこにはすでに城の影さえ見えない。




まずい……完全に迷った。



やっぱり、一人で出てきたりしなければ良かった。今ごろそんな事を思ってもしょうがないのだが……



どこに行ってもいいかわからず、それでも足を止める訳にはいかず、私はとぼとぼと森の中を歩く。



変わらない景色をぼんやりと眺めながら、私はふと先ほどの事を思い出す。



白ウサギはあの時……何を言うつもりだったんだろうか?



何か重要な事を言おうとしていた気がする。でもそれを知ることをためらっている自分がいる。



知りたい気持ちも少なからずあったが、それよりも怖い気持ちの方が勝った。



それを知ってしまったら何かが変わってしまう。そんな気がしてならない。




「ひっく……」



ふと人の声のようなものが聞こえ、足を止める。



誰だろう? わかることは白ウサギ達の声ではない。もっとか細く、弱々しい、まるで泣いているような……



どこから聴こえてくるのだろうか? 声の聴こえる方へと足を進めて行くと奥の茂みが不自然にゆれた。



そっとそこに近づくと茂みの中に隠れるように一人の少女がうずくまっていた。



私が覗きこむと少女がゆっくりと顔を上げる。



まん丸としたビー玉のような瞳が涙でゆれ、頬がぬれている。幼なげな少女は私を見ると小さく悲鳴を上げ、体を縮こまらせる。




「貴方……大丈夫?」



「ひっ、ひっく……」




少女は泣いているばかりでなかなかしゃべらない。泣きはらした赤い目が痛々しい。



「ほら、泣かないで。どうしたの?」



姉さんが小さい子によくしたように目線を合わせ、優しく問いかける。



すると少女は幾らか落ち着いたのかか細い声でぼそぼそ言う。



「道に迷っちゃって……」



少女はそう言うとまたわっと泣き出す。



「早く帰らなきゃ……首をはねられちゃうよ……」



いったい誰に首をはねられと言うのだろうか? 親だろうか? 何て過剰な親なんだろうか。



「ほら泣かないで……お姉ちゃんも迷子なの」



「お姉ちゃんも?」




少女は泣きはらした目でそっと私を見上げる。



「そう。だからね、一緒に森から出ましょ」



私が手を差し出すと少女はしばらくそれをじっと見つめ、それからゆっくりとその手を取った。




手を繋いで、二人で森の中を進んで行く。一人でいる時よりは幾分か心が楽になり、少し余裕が生まれてくる。



「ねえ、貴方名前は?」



そう言ってから私はあっと思う。普通に名前を聞いてしまったが確かこの世界では名前を不用意に名乗ってはいけないはずだ。まずいことを聞いてしまった。



そう思ったが少女はたいして気にもせずに答える。



「名前なんてないよ」



「え? 名前がないの?」




そう問い返すと少女は頷く。



「私はトランプ兵だから……名前がないの……」



トランプ兵? また聞き慣れない単語が出てきた。



トランプ兵と言うぐらいだから兵隊なのだろうか? しかしどう見ても、こんな幼気の少女が兵隊のようには見えない。



「えっと、じゃあ……貴方は周りから何て呼ばれてるの?」



「ハートの5」



「ハートの5?」



「そう、ハートの5」



少女は当然のようにそう答える。



ハートの5とは彼女の呼び名なのだろうか? それにしても今までの呼び名とどこか違う気がする。




それにトランプ兵って何のことだろう?



その事について考えていると少女が無邪気な笑顔を浮かべて問いかけてくる。



「ねえねえ、お姉ちゃんの名前は?」



私はその問いかけにあまり深く考えずに答える。



「私はアリスよ」



もはや違和感もなくなったその名前を聞いて、少女はにっこりと微笑んだ。



「そっか、貴方が……アリスなんだ……」

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