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いかれた帽子屋 その2

帽子屋の章だと言っておきながらその2にも帽子屋は出てません。早く出したくてしょうがないのに(泣)


帽子屋~! 今回でまた白ウサギと少しお別れです。

「白ウサギ?」



静まり返った城内の廊下。いくら私が尋ねても、白ウサギは何も答えない。



「どういう事よ……」



白ウサギが姉さんを知っているはずがない。いや、絶対に知らないはずなのだ。それなのに何故、彼はまるで知っているかのように話すのだろう?



「アリス……私はあの女が嫌いです。あの女は貴方を傷つけた」



傷つけた? 姉さんが? 私を傷つけた?



そんな事があるはずない。姉さんはいつだって私に優しく笑いかけ、どんな事をしても私をしかったりせず、私に手を上げることもなかった。



そんな姉さんが私を傷つけたはずがない。




「勝手な事を言わないで! 姉さんの事なんか、ろくに知りもしないくせに!」



「あんな女の事なんか、知りたくもないです。彼女は貴方を傷つけた。それだけで罪に値します」



「だからそんな事一度だって……」



「本当に? 本当にそうですか?」



何を言ってるの?



白ウサギが何を言いたいのかわからず、私は呆然と白ウサギの方を見る。



「アリス……何で彼女をそこまでしてかばうんですか?」



「当たり前じゃない。たった一人の姉よ!?」



そう、たった一人の私の姉。優しくて、美しい、私の自慢の姉。



やましいことなど何もないはずなのに私の胸の鼓動は早くなり、口の中が渇く。




何故だろう? 何かが違う気がする。それでもどこが違うかが私にはわからず、考えれば考えるほど頭がずきずきと痛む。



私は間違っていない。それなのに……




「アリス……貴方は本当にあの女を許すんですか? あの女は……」



「止めて! 聞きたくない!」




頭が痛い。白ウサギの言葉の一つ一つが鋭利な刃物になって私へと襲いかかる。



何かを……何か重大な事を私は忘れている。でもそれがなんなのか、全くわからない。



「アリス……あの女は貴方を……」



「うるさい!」



私は有らん限りの声でそう叫んだ。



それを聞いてはいけない。聞いたら私は帰れなくなる。




「何なの!? 訳のわからない事ばかり言わないで! 貴方が姉さんを知るはずがない!」



私の知ってる姉さんは優しくて、上品で、美しくて誰もが羨むようなそんな人。母が死んでからはいつだって母の代わりに私のそばにいてくれた。そんな人が私を傷つけたはずない。



「アリス」



「姉さんは悪くない! 何も悪くない!」



「アリス」



「姉さんはいつだって優しかった! あの人は一度だって怒った事がなかった!」



「アリス」



「姉さんは悪くない! 何も悪くない!」



「アリス……貴方は……お姉さんが嫌いなんですね……」




何を言ってるの? 嫌い? 私が? そんなはずない! 姉さんを嫌うだなんてそんな……



頭ではそう思っているのに否定の言葉が出てこない。



「アリス……」



優しげな、それでいてどこか冷たい白ウサギの声が鼓膜に響く。



聞きたくない! これ以上何も聞きたくない!



「うるさい! もう何も言わないで!」



私は白ウサギに背を向けるとさっさと歩きだす。



「アリス……」



「ついてこないで! 一人にして!」



それだけ言うと私は逃げるように走り出し、白ウサギをあとにした。










「見ちゃった」




どこか脳天気な声が聞こえ、アリスの行ってしまった方向をぼんやりと眺めていた白ウサギが気配のする方へと視線をやる。



そこには満面の笑みを浮かべたチェシャ猫が立っていた。



にやにやと意地悪く笑うチェシャ猫を白ウサギは無言で睨みつける。



「どう? アリスにふられた心境は?」



「誰が? 私はふられていない」



「そんな恐い顔で睨むなって」



チェシャ猫はおどけたようにそう言うが白ウサギの目は相変わらずきついままだ。



「ねえ、白ウサギ」



「何だ?」



「何であのアリスにこだわるのさ?」



「お前には関係ない」



「気になるんだ。教えてくれてもいいだろう?」




チェシャ猫はニヤニヤとした笑みを浮かべ、何かを探るように白ウサギの方を見る。



「何であの子を新しいアリスに選んだのさ? 可愛いだけが理由じゃないんだろう?」



「だからお前にその理由を話してやる義理はない。さっさとどこかへ行け。私がお前を撃ち殺す前にな」



「わあ~、恐い恐い」



「黙れ」



「仕方ないな。白ウサギが相手してくれないならアリスのところにでも行こうっと」



白ウサギの目が鋭くなる。普通の人ならたじろぐところだが、チェシャ猫はそれでもやっぱり笑っていた。



「アリスに何かしてみろ。生きてる事を後悔させるようなめに合わせてやる」




「冗談だから怒るなって。そんなにアリスが大事なら1人でどこかになんか行かせなければいいのに」



そんなチェシャ猫の言葉に、白ウサギは何も答えず、黙り込む。それを見て、気のせいかチェシャ猫の笑みが深まった気がする。



「私だって1人になんかさせたくない。だが、アリスは出口を探してるんだ。出口を探すには時には1人なるしかない。この国の出口には私達は近づけないからな」



「あっそ。でも1人っていうのは本当に危ないからね。誰かに撃ち殺されたりするかもよ?」



そうチェシャ猫が言ったと同時に白ウサギは目にも止まらぬ速さで剣を取り出し、チェシャ猫の首もとにその先を突きつける。




これにはさすがのチェシャ猫も僅かに身じろいだ。



「うわっ……本気だな。そんなにあのアリスの事気に入ってるんだ」



「チェシャ猫」



「何?」



「私は冗談が嫌いだ」



その声は冷たく、背筋にぞくりとしたものが走る。



チェシャ猫は視線を反らし、小さく舌打ちする。さすがにその顔は笑っていない。



「みんなしてアリス、アリスって恐ろしいね。よくそこまで執着できるもんだ」



「お前にはわからない」



「うん。わからないな」



呆れるようにチェシャ猫はそう言うが、白ウサギは全く気にしない。



「所詮、猫のお前なんかにアリスを理解する事なんかできないさ」




白ウサギのその言葉にチェシャ猫がバカにしたように笑う。



「そこまで一心に思い続けるなんて狂気のさただ。帽子屋の事だけを悪くは言えないね」



「そうさ。アリスがいなくなった時に既にこの世界は狂っているんだ」



白ウサギはそう言うとチェシャ猫に背を向け静かに歩き出した。

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