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迷子の侯爵様 その4

アリスと侯爵の二人旅……だんだん寂しくなってきました。登場人物が少ないと寂しいですね。何だかんだ言っててもアリスも白ウサギがいなくて寂しいと思います。

不思議で可笑しな国に住む、年をとらないどこか奇妙で物騒な住人達。何で……私はこんな事に関わるはめになってしまったのだろう……



もとはと言えば全てはあの白ウサギとかいう男のせいなのだ。



「白ウサギのバカ……今度あったら覚えておきなさいよ……」



絶対にまた殴ってやる。密かにそう決意していると侯爵は僅かに目を見開く。



「白ウサギ? あんた、白ウサギに会ったのか?」



「会ったも何も……あいつが勝手に私をこの国に連れてきたのよ」



さらに嫌みのつもりでかなり強引な方法で無理やりにねと付け足す。



すると侯爵は心底驚いた顔をし、私の方を見る。




「白ウサギがあんたを連れてきた? あの白ウサギが?」



動揺を隠せない様子の侯爵に今度は私の方が驚いてしまう。



「何もそこまで驚かなくてもいいじゃない……」



「いや、だって、あの白ウサギが……まさかそんな勝手な行動をとるなんて……」



とるでしょう……。あいつなら何だってアリスのためとか言ってやってしまいそうだ。



「あの性格で勝手に行動しないわけがないじゃない……」



「確かに白ウサギは少しばかり癖がある性格をしているが……真面目で意外と良い奴なんだぜ?」



「あの白ウサギが!?」




有り得ない……絶対に有り得ない……



あまりにも露骨に表情が出てしまっていたのか侯爵が苦笑する。



「そんなに信じられないのか?」



「そりゃあ……」



確かに悪い人と言うわけではないがどう考えたって真面目ないい人には思えない。



「あんなのただの変態よ……やたらと触ってくるし、気持ち悪いセニフを吐くし、かなりのひねくれ者だし……」



ふと侯爵の視線が気になり、言葉を止める。侯爵は私の方を何故だか感心したように見ている。



「なっ、なに?」



「あんた……白ウサギと親しいんだな」



「ええっ!? 親しくない! 絶対に親しくない!」




必死になって否定するが侯爵はただただ穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ている。



「仲いいんだな」



「よくない!」



「そう言って、あんたさっきから白ウサギの話しかしてないぜ?」



「貴方が話をふったんでしょう!?」



「うんうん、仲いいっていいことだよな」



「ちょっと、だから違うって!!」



「照れんなよ」



「照れてない!」



ここの住人達は本当に人の話を聞いてくれない。



私と白ウサギは仲が悪くはないが良くもない。と言うより私が嫌。仲がいいなんて認めたくない。



「実はな俺、白ウサギを探してるんだ」



「白ウサギを!?」



「ああ、どこかで会わなかった?」






会うもなにも……



私は僅かに苦笑いをしつつ、侯爵の方を見る。



言えない。ついさっきまでその白ウサギから逃げていたなんて言えない。



言えばおそらくまた誤解されるに違いない。



「うん? どうした?」



「えっと……白ウサギならさっきお茶会の会場にいたかな?」



曖昧にそう答えれば侯爵はえっと問い返す。



「お茶会って三月ウサギのやつか?」



「うん……」



「あんた……」



「な、何?」



「三月ウサギとも仲いいんだな」



「……」




どうしてそうなる!?



侯爵の言葉に私は頭を抱える。それがまた何の意図もなく、無意識に発せられるものだから余計にたちが悪い。



「あのね……私はまだこの世界に来たばかりなの……だからそんな会ったばかりの人達と仲良くなんかなれるはずが……」



と言うより……はっきり言ってあんな物騒な奴らと仲良くなんかなりたくない。そんな私の思いをよそに侯爵は少し考えこむ。



「お茶会の会場か……よし、じゃあ行ってみるかな?」



侯爵はそう言って、私の方に向きなおり、笑いかける。



「じゃあ、俺、お茶会の会場に行ってみるな」



「えっ!? あ、そっか……」



寂しいというわけでもないがなんとなく1人になるのは少しばかりためらわれる。




とは言え、侯爵は白ウサギを探している。ついていって、彼にまた会うのも正直めんどくさい。



どうせ侯爵と歩いている姿を見れば、白ウサギは浮気だ、裏切りだと言ってまた騒ぎたてるに違いない。



「じゃあ、気をつけてね」



「ああ、あんたも気をつけろよ? 城の中だからそうそう何も起こらないと思うが万が一ってこともあるからな……あんまし無茶とかすんなよ?」



「私だって子供じゃないんだからそれぐらいわかってる……」



心配そうにする侯爵を見て、その姿から私はふと叔父を思い出した。



私にいつもよくしてくれた叔父。



仕事ばかりでめったに家族と関わろうとしなかった私の父。




そんな父のかわりによく叔父さんが私のもとにやって来ていたものだ。



叔父はいつもお土産を持って私のもとを訪れる。



甘い甘いパウンドケーキ。



それは叔母さんの得意料理でいつも焼きたてのケーキを片手に叔父は家にやってきたものだ。



もっともそれも今になっては遠い昔の事だが。



叔父が亡くなったのは私がまた10にもならない時だった。



事故だと父が言っていた気がする。あの時の私は酷く混乱していて気づけば全てが終わっていた。



叔母も一緒に亡くなったらしい。



あの甘い甘いパウンドケーキはもう二度と食べれない。




ゆっくりと思考を止める。止めた。そんな昔の事を思いだしたってどうにもならない。



「そうだな、子供じゃねえもんな。すまん、あんたみたいな奴を見ているとついつい心配しちまうんだ」



やっぱり、侯爵は良い人だ。



「じゃあ、またな」



そう言って笑顔で歩み出す侯爵を私は慌てて止める。



「待って! そっちじゃない」



「えっ?」



「お茶会の会場に行くんでしょう? だったら逆よ」



お茶会の会場からここまで走ってはきたもののほぼ一直線だった。だから私の来た方向に行けばいいのだが侯爵は何を思ったのか全く逆方向へと進んでいる。




何か近道でも知っているのだろうか?



「あれ? あんた……さっきこっちから来なかったか?」



「逆だけど……」



「あれ?」



困惑ぎみに何度も辺りを見渡す侯爵。もしかして……この人……実は極度の方向音痴なのでは?

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