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迷子の侯爵様 その3

まだまだ続く侯爵とアリスの2人旅。


白ウサギにロリコン疑惑が浮上。


ちなみにアリスの年齢はいちよ14~17ぐらいの設定です。

「名前って……そんな簡単に教えていいものなの?」



「そうじゃねえけど、あんたはアリスだからな。他の奴に教えれば命とりになるがアリスには別に教えても構わない。俺達はアリスのためだけに存在しているからな」



そんなような事を誰かも言っていた気がする。アリスは本当にこの世界に欠かせない存在らしい。



どうして皆、そこまでアリスにこだわるのか……私は本当のアリスではないと言うのに……



「俺は教えても全然構わないんだがな……あいつに名前を名乗るのを禁止されてて……」



「あいつ?」



私が首を傾げてそう尋ねると侯爵は僅かに顔を赤くした。



「その……あの……あいつはだな……」




ごにょごにょとひどく照れくさそうにする侯爵。それを私は驚きながら見つめる。



少なくともついさっきまで大人の風格が漂っていたはずの侯爵だが、こうなると余裕をなくしたただの子供にしか見えない。



そのあまりの慌てぶりから、もしかしたら思ったよりも年が若いのかもしれない。



私は興味深けに侯爵を見ていると顔を赤く染めたまま、今にも消えそうなほどのか細い声で彼はつぶやいた。



「俺の……妻だ……」



「はい?」



侯爵の言葉にあまりに驚き、思わずそれを聞き返す。すると先ほどよりも若干大きな声で彼は答えた。



「だから……妻だ。あいつは……俺の妻のことだ……」




よほどそう言うのが恥ずかしかったのか、気づけば侯爵の顔は今にも湯気が出てきそうなほど真っ赤になっていた。



これは面白い話のねたを見つけたものだ。内心ほくそ笑んで、侯爵に話しかける。



「へぇ~、結婚してたんだ?」



「そうじゃねえよ!? ただ、俺の呼び名が侯爵であっちが侯爵夫人だっただけだ」


そうは言いつつ、やはり顔は赤い。



「そう? そのわりにはえらくはっきりと妻って言ってたじゃない」



「それは……いや、あの……こっちが勝手に思っていると言うか……何て言うか……」




たどたどしくそう言い、焦る侯爵を見て、私は声を出して笑ってしまった。



本当に奥さんの事が好きなのだろう。侯爵は完全に冷静さを失い、私が笑ってる事にさえ気づいていないようだ。



そう言えば白ウサギ達が前に言っていた。チェシャ猫は侯爵夫人の飼い猫だと。



だんだん私は侯爵をここまで惚れさせて、あのチェシャ猫を飼い慣らしている、侯爵夫人という女性がどんな女性か興味を抱いた。



「ねえ、侯爵夫人ってどんな人なの?」



「どんなって……言われてもな……」



侯爵は口ごもり、ひどく困ったような顔をする。



「美人?」



「そりゃあ……美人かどうか言われるとそうだが……」




侯爵は少し考えてから小さな声で付け足す。



「どっちかと言うと……可愛い感じだな……」




「へえ~可愛いんだ」



ニヤニヤと意地悪く侯爵の方を見ると侯爵はひどく照れくさそうな顔をする。



「な、何だよ……」



「別に?」



ひやかされるのは嫌いだが人をひやかすのは何とも楽しいものだ。



調子ずいた私はさらにその可愛いらしい奥さんについて侯爵に聞こうとする。



「ひょっとして……年下だったりする?」



「なっ!?」



私の質問に侯爵は目を見開き、固まる。その様子からしておそらく図星だろう。



「そうなんだ。やっぱり年下なんだ」



「違っ……いや、その……何というか……」




「違うの?」



何とも曖昧に答える侯爵にそう尋ね返すと彼は黙り込み、しばらく何やら深く考えこむ。



「侯爵?」



「いや……そのだな……」



言葉を濁す侯爵に徐々に不安がつのる。



「その……もしかして聞いちゃいけないことを聞いちゃった?」



そう尋ねると侯爵はゆっくりと首を振る。



「そうじゃねえよ……そうじゃねえんだけどな……」



そう言いつつも顔はどこか困っているように見える。やはりあまり触れてはいけないところに触れてしまったみたいだ。



でも……そんな困るような質問じゃないと思うんだけどな……。ただ、年を聞いただけなのに……。




「なあ……あんたから見て俺はいくつに見える?」



「えっ!? 貴方? えっと……」



私はじっと侯爵の顔を見つめる。



40代? いや、もしかしたらもっと若いかもしれない。30代くらいだろうか?



あまり高い年齢を予想して、実年齢よりも上だったら相手に失礼である。



侯爵はそういった事でも気にしなさそうだが、やはりここは少し若く言っておくべきだろう。



「えっと……30代くらいかな……」



その答えに侯爵は僅かに頷き、そうだよなと言った。



ちょっと落胆したような侯爵の態度に私は焦る。



しまった……もしかしたら20代後半だったのかも……。




「えっと……もしかして……もうちょい若かった?」



心配になってそう尋ねると侯爵は笑う。



「いや……そうじゃなくてな……実を言うと俺達は年をとらないんだ」



「えっ!? 年をとらない?」



驚く私に侯爵は丁寧に説明してくれる。



「つまりな……俺達は存在した時からこの年で、それから年をおうことはない。だから俺もここに住む他の奴らもみんな外見は若くても実際はずっと年上だ」



そんなバカな……。



「それって……つまり貴方は子供だった時がないってこと?」



「ああ、俺は意識があったその時からこの容姿だ。子供だったことはない」




侯爵の説明に唖然とし、私は言葉を失う。



本来ならそんな事信じたりしないがそれは不思議の国である。



年をとらないなんて私の世界では有り得ない事だが、この不思議の国でならおこりそうな気もする。



そもそもここに住む彼らだって普通の存在だとは思わない。



そうでなければあんなふうに知り合い同士で殺し合いなどしないだろう。



だから例え存在していた時からその外見で、その外見のまま年をとらないと言われても、あながち可笑しい事ではないのかも……



「いや、可笑しいか」



駄目。やっぱり何て可笑しな世界なんだろう。



存在した時からみんな今の外見。だとしたら白ウサギもあんな見た目だけど実は私の父親よりも年上かもしれない。



そう思ったら、ひどく頭痛がした。

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