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迷子の侯爵様 その2

しばらくは侯爵様とアリスの二人旅です。



迷子って一人でなるとテンションがた落ちですけど、二人とかでなると何故かテンション上がりませんか?


あれ? 私だけですか?

「何だよ……そんなに見て……俺、どこか可笑しいか?」



男は自信なさげにそわそわと自らの身だしなみを見る。



どうやら悪い人ではなさそうだ。



少なくとも誰かと違って私の話を聞こうとは思っているようだし、どこかの奴らとは違い、私に銃を向けたりもしない。



まとも……かどうかはまだわからないが服装もわりかしいいし、ぶつかられて下敷きにされてもなお悪態一つつかないところを見るとかなりのお人好しかもしれない。



「ごめんなさい……そうゆう訳じゃなくて……私まだここに来たばかりだから、この世界に慣れてなくて……」




自分でも言い訳がましいなと思う私の説明に男は少しも嫌な顔せず、ただ僅かに目を丸くし、私を見る。



「この世界って……あんた……ひょっとしてアリスか?」



そう言われて私は言葉につまる。



「私は……」



どうしよう……アリスだと名乗るべきだろうか? しかしそれでは自分の名前をアリスだと認めてしまうようなものだ。



そう言われれば名乗るのはこの世界に来て初めてだ。前までは誰かしらが私の意志に関係なく勝手に紹介してしまったり、何も言わなくても相手が勝手にアリスと呼んでいた。




今さらだが……本当にアリスと名乗っていいのだろうか?



この世界の住人は皆、私のことをアリスと呼ぶがそれはもちろん私の本当の名前ではない。かと言って白ウサギが言うには本名を言ってしまえば、私は元の世界に帰れなくなってしまうらしい。



どうしよう……。男は私の方をじっと見つめ、返事を待っている。



「私は……アリスよ」



まあ、みんな私の事をそう呼んでいる訳だし、あながち嘘と言うわけでもないだろう。



そんな軽い気持ちでそう名乗ったのだが男はそれに目を見開き、次の瞬間私の手をつかみ、一気に駆け寄る。



「アリスか!! アリスなのか!? いや~良かった! アリスに会えるなんて、たまには迷うのも悪くないな!」



男はひどく興奮してそう言い、つかんだ手をぶんぶんと振る。本人はおそらく握手でもしている気なのだろうが、あまりにも激しく振るため、何度も私はよろめいた。



「迷ったって……貴方も余所からここに来た人なの?」



「いや、ここに住んでいる」



男はそう言って笑う。しかしそこは笑うところでは全くない。



「へっ? 貴方ここに住んでるの?」



「ああ、住んでいる」



「でもさっき迷ったって……」



「ああ、迷った。今だって迷ってる最中だ」



堂々とそう言う男を私は呆然と見つめる。



「迷ったって……貴方……」



「まあ、よくあるよな」




「いや……普通、自分の家では迷わないと思うけど……」



と言うより、普通迷えないだろう……。いくらこの城が広いと言えど毎日いれば自然とどこに何があるかくらいわかるはずだし、いったい何をどうしたら迷うと言うのだろうか? そっちの方が謎だ。



「そうなんだけどよ……気づいたら廊下が一本増えてたり、部屋の数が多くなってたり、壁が変わってたりしてな……」



「ま、待って! 何で廊下とか部屋が増えるの?」



普通は増えない……って言うか絶対に増えない。



うん? でもこの国なら廊下が増えたりするのが当たり前なのかな? 何かこの国すっごく変だし、そんなことが2つ1つあっても全然気にならない気がする。



「三月ウサギとかがいつでも勝手に改造しちまうんだ……」



原因はあいつか。なるほど……三月ウサギならいかにもそうゆう事をしそうだ。



「それは……大変ね……」



心の底からそう思い、私は男に同情した。確かにそんなことされたら迷うかも……って言うかそんな所に住みたくない。



「ああ……。廊下や部屋が増えるならまだしもトラップでも仕掛けられた日には……」



「トラップ?」


「ああ。落とし穴とか扉を開けたら何かが飛んでくるとか爆弾を部屋に隠したりとか……」




三月ウサギ! 貴方いったいこの城で何をしようとしてるのよ!?



「しかも夜な夜な改造してるから止めようがなくてな……」



「そりゃあ、ねえ……」



三月ウサギは寝ないという話を聞いていたがどうやら真実らしい。



そんな時間に何してるんだか……



「全く……管理してる俺の身にもなってほしいぜ……」



「管理してる? 貴方がこの城を所有してるの?」



「まあ、形だけな。ここはあくまでアリスの……あんたの城だからな。俺は立場上、この城の管理者でな。アリスがいない間、この城の管理や整備をしているわけだ」



「そうなんだ。貴方ってひょっとして偉い人なの?」



服も白ウサギ達よりもどこか高そうに見えるし、そう言われれば身なりもよく整っている。



「あー、実はなぁ……俺、侯爵なんだ」




「へぇ……どうりで格好がいいと思った……」



そこまで言って、私は言葉を止める。



うん? 侯爵?



「じゃあ、貴方が侯爵様なの!?」



「へっ? ああ、俺は侯爵だけど? それがどうした?」



どうしたも何もない。侯爵と言えば、私達のような一般人からしてみれば雲の上の存在だ。



とは言ってもちらりと私は男の方を見る。何だか想像していた感じとだいぶ違うんですけど……



「ごめんなさい……私、貴方が侯爵様だと知らなくて……」




どうしよう……今さらだが敬語を使った方がよいだろうか? いや、その前に私、侯爵様を下敷きにしちゃったなんて……通常なら即刻、捕まえられてしまう。



「止せよ。別に俺が侯爵だろうが何だろうがいいだろう? あんたはアリスなんだ。何にも遠慮することはない」



この世界では侯爵よりもアリスの方が地位が上らしい。



そう言えば白ウサギも女王よりも重要なのはアリスだと言っていた気がする。



「でも……」



「いいから、俺のことは気軽に侯爵とでも呼んでくれ」



そう言って侯爵はにかっと笑う。笑うと最初の印象とはうってかわり何とも子供ぽい感じがする。



何だか、想像してたのと全然違う。私はすっかり緊張をとき、笑顔で話す。



「何だか意外ね。貴族ってもっとオーラがあるというか煌びやかで人を見下すような人達だと思っていたのに」




侯爵はそれに苦笑し、困ったような顔をする。



「まあな。確かに自分の地位を周りに威張り散らす奴も結構いるが俺はそうゆうのは好きじゃない。何て言うか……そういうの苦手なんだ」



何だか……本当に思っていたのと違う。貴族と言うのはもっと高飛車と言うか傲慢で我が儘なものだと聞いていた。



私の学校にも位は低いが貴族の血をつぐ子がいた。その子はまさに想像していた貴族そのもので人にやたらと命令するわ、自分勝手に考えるわ、最低な奴だった。



それに比べ今、目の前にいる人はどうだろう? 人を見下すこともなく、私に文句を言うこともなく、優しげに笑っている。



「私もそう思う。貴方がそういう感じじゃなくて本当に良かった」



「そうか?」



「うん。何かこうあからさまに貴族って人にはどう接したらいいかわからないし、貴方が貴族らしくなくて本当に良かった」



貴族らしくないと言うのもそれはそれであれなのだが、それを聞くと侯爵は嬉しそうな顔をした。



「本当か?」



「うん」



「そっか。アリスにそう言われると悪い気はしないな」



侯爵は嬉しそうに笑う。本当にひとのよい人だ。



「あんたとは気があうな。俺、あんたのことすげー気に入ったぜ」



「え、本当に?」




この世界の住人にそう言われて初めて嬉しいと思った。



「ああ! あんたになら俺の名前を教えてやってもいいぐらいなんだけどな……」



「え? 名前!?」



私はぽかんと侯爵を見る。侯爵はにこにこと笑らいながら私の方を見返してきた。

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