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奇怪なお茶会 その7

どんどん寂しくなるお茶会の会場。そろそろ第二章も終わりです。

「ぐはっ!!」



鈍い音とともに再び白ウサギが倒れる。



今度は心に決めた通り容赦なく顔を狙った。顔面ストレートである。



二回目となれば慣れたもので痛む手もあまり気にならなくなったし、今度は帽子屋も何食わぬ顔で紅茶を飲んでいる。



しかしやはりと言うべきか。殴られている方はそうではないようで、白ウサギは顔面を抑えながら倒れこみ、痛みのあまりからか、ゴロゴロと床を転がっている。



ちょっと強くやりすぎたかな? でも白ウサギなら大丈夫だよね。



何の根拠もないのだが、叩いても殴っても崖から落としたとしても白ウサギが死にそうには思えない。



「アリス」



「何?」




「前々から思っていたがお前は……何でそんなにケンカ慣れしてるんだ?」



ケンカ慣れ?



きょとんとしてから帽子屋の方を見る。まずい、激しく誤解されている。



「慣れてない! 慣れてないから!」



「しかし……」



帽子屋はじっと握られた私の拳を見る。その目が何だか、すっごく痛い。



「違っ、ケンカとかそんなこと本当にやってないから」



これでも元の世界の学校ではずっと大人しい子を演じていたのだ。表立ってはこうやって人を殴ることはおろか、ケンカだってした事がない。



まあ、だからと言って、完全にそういう場面がなかった訳ではないのだが……



「そうですよ。アリスは私だけを殴ってくれるんです! 貴方は殴ってなんか貰えませんよ?」



そう言って、白ウサギは立ち上がり、私と帽子屋の間にわって入る。



やはり少し強くやりすぎたみたいだ。鼻血が出ている。



「ちょっと白ウサギは黙ってて……って言うか早く鼻血をふきなさいよ!」



白ウサギが入ると大抵の話がややこしくなる。



しかも鼻血を流しながらも私を見て、にこにこと笑うものだから、はっきり言ってかなり恐い。



正直、近づかないでほしい……



「心配してくれるんですか? やっぱり、アリスは優しいですね」



「そうじゃなくて……ああ、もうどうでもいいから早く鼻血をふいて!」




「アリス……そんなに私のことが心配だなんて……大丈夫ですよこれぐらい。鼻血くらい全然平気ですから。前なんか内臓がちょっとはみ出ちゃったこととかありましたし」



内臓がはみ出たって……ちょっとだろうが何だろうが危ないでしょう!?



しかも鼻血をふけって言ってるのに全然ふく気ないし……



「ああ、もういい。どうせ気にするだけ、無駄よね。貴方から鼻血がどれだけ出ようと内臓が出ようと私には関係ないし」



「そんなこと言っていいんですか? 私が死んだら元の世界に帰る手がかりが何にもなくなりますよ?」



そうだった……。



「そうよ! 早く私を元の世界に返して!」




自慢じゃないが、もう十分この物騒な世界を楽しんだ。何度も死にかけたし、グロテスクな光景を見せられそうにもなったし……とにかくもう私を元の世界に戻して欲しい。




「帰しなさいよ! 私は早く帰りたいの!」



「え~、まだ来たばかりじゃないですか」



「もう十分だから! これ以上何かある前に私は帰りたいの!」



そう怒鳴って白ウサギに詰め寄るが白ウサギは全く動じず、まるで聞き分けのない子供を諭すように私をなだめる。



「落ち着いて下さいよ、アリス。そんなに怒鳴ったって帰れませんよ」



「なっ……」




言葉に詰まる私に白ウサギは笑顔で言う。



「言ったでしょう? 貴方を連れて来るのは色々大変だったって。帰る時もそうです。貴方が元の世界に帰るには色々大変な事をやって貰わないといけないんです」



「何で私が……」



「だって、貴方はアリスですから」



何でもかんでもアリスだからの一言ですまされるとか納得いかない。



だいたい私はアリスじゃないし。



「じゃあ、何をすれば私は帰れるの?」



苛々とそう尋ねると白ウサギは笑って答える。



「出口を探して下さい。この世界の出口を。そうすれば帰れますよ」



「だからその出口はどこにあるのよ!?」



「さあ、どこでしょうか?」




「はあ?」



「この城のどこかにあるかもしれないし、街にあるかもしれないし、森にあるかもしれないし、女王の領地にあるかもしれない……探して下さい。それがアリスの、貴方の役目です」



何それ? 結局、私は自分でどこにあるかもわからない出口を探すしかないの?



早く帰りたいのに。早く帰らないといけないのに。



苛立って乱暴にテーブルに叩く。



静まり返った室内にその音は大きく響いた。



「アリス。女性がそのような事をするべきではない」



帽子屋はそう言うと空になった紅茶のカップを静かにテーブルに置いた。



別に責められてる訳ではない。そうわかっているのに何故だか申し訳ない気分になった。



「……ごめんなさい」



「謝る必要はない」



「そうですよ! そんな奴に貴方が謝る必要なんかありませんよ!」



偉そうに。誰が原因だと思ってるのよ。



白ウサギを睨みつけてると何も言わず帽子屋が席から立ち上がった。



どうしたのか見れば、彼はそのまま扉に歩み寄る。



「帽子屋?」



「主催者がいなくなったんだ。お茶会はおひらきだろう。俺は帰る。あとはその男に相手をして貰え」



そんな!? 白ウサギと2人っきりになれって言うの!? 冗談じゃない!



慌ててその背を追いかけようとしたら白ウサギに肩を捕まれ、引き止められた。



「そう言う訳ですから。私と一緒に2人っきりのお茶会をしましょう」



「は、はい?」



絶対に嫌!



何でそんな身の危険を感じるような事しなきゃいけないの!?



しかしそうこうしてるうちに帽子屋は薄情にもさっさと部屋から出て行ってしまった。



まずい。この男と2人っきりとか。本当にまずい。



とにかく話題を。何か話題を見つけて、話を上手くそらさないと。



「アリス、やっと2人っきりなりましたね。さあ、楽しいお茶会を…」



「さ、さっき女王様って言ってたでしょう!? この世界には女王様もいるの!?」



「えぇ、まあ」




上手く話の矛先を変えれたようだ。



私ににじり寄っていた白ウサギが少し離れた。



「女王様は森の先のお城に住んでるんです」



「ここ以外にもお城あるんだ」



「ええ。女王様なんて言って、ただのわがままな嫌な奴ですよ。短気だからすぐに鎌を振るって首を斬ろうとするんです」



「はい!?」



首を斬ろうとする女王様?



「ま、待って! 何なのその人!?」



そんな女王様、聞いた事がないんだけど。



「え? 何って、女王様ですよ?」



それはわかったから! 聞きたいのはそこじゃないから!



「そんな女王様でいいの!?」




仮にも一国を治める主だ。そんな暴君でこの国は本当に大丈夫なのだろうか?



「いいって……まあ、彼女だって呼び名が女王というだけですからね。だから本当の意味ではこの国を治めてる訳ではないんですよ」



「治めてないって……でも女王様なんでしょ? だったら普通は……」



そう言いかけた私の手を白ウサギは無言でとり、その場に跪く。



驚いて固まる私をよそに白ウサギはその手のこうにそっとキスをする。



「……っ!!?」



無意識に顔が赤くなり、その場で硬直する。



「女王なんて所詮、この国では大した価値もありませんよ。この国の本当の支配者はアリスだけですから」



「何して……」




「アリス……私達にもこの国にもアリスこそ必要なんです」



何も言わずに私は白ウサギを静かに見つめる。いつもみたいに皮肉の一つでも言えば良かったのに私は結局何も言えなかった。



何故かはわかっている。



そう私に告げた白ウサギの顔はいつものあのどこか胡散臭さそうな笑顔とは違い、ひどく悲しげなものに見えた。

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