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奇怪なお茶会 その4

3月ウサギは本当は眠りネズミの事が大好きなんです。大好きだからこそついついこんな事しちゃうんです。

「その調子でそのバカも殴って、起こしてくれると助かるんだがな」



3月ウサギはここで始めて机に伏せて眠る男に視線をやった。



記憶違いでなければ、確か彼は眠りネズミと呼ばれていたはずだ。



特徴的に跳ねている、短めの金髪。顔はわからないがなかなかの身なりをしている。



「その人……貴方の代わりにお茶会の準備をしてくれたんじゃないの?」



確か、それで寝不足だと聞いたが……



その言葉に3月ウサギは目を細める。



「そうだがそのいかにも私のせいみたいな言い方は気に入らないな。確かに多少の準備はやらせたが何も休憩時間をやらなかった訳じゃない。そのバカが勝手に寝不足なったんだ」




そう言って3月ウサギはわざとらしくため息をつく。



そんな3月ウサギの態度を見て、帽子屋がそっと私にだけささやく。



「実際そこにいるバカは何もしていない。お茶会の準備は全てネズミがやったんだ」



「え? そうなの?」



「ああ、しかもそのバカに真面目に付き合って十日十晩寝ずにな」



そりゃあ……誰だって眠くなるよ。



私は呆れて3月ウサギの方を見る。自分でお茶会を開いたくせに準備を他人に押し付けるなんて、とんでもない奴だ。



むしろその眠りネズミの努力を讃えてあげたいと思うのは私だけなのか……



そんな事を考えていると、いつの間にか3月ウサギが勝手に話を1人で進めていた。




「そうか、そうか。アリス、やはり君もそう思うか」



「え? 何も言ってないんだけど……」



「そうだな、客人を前にして堂々と居眠りはいけないな。だいたい眠るなんて時間がもったいない。そんな時間があるならもっと有効活用するべきだ。全くもってこいつはなっていない」



3月ウサギはゆっくりと立ち上がるとアリスに、にこやかに笑いかける。



「やはり、こうゆう奴にはお仕置きが必要だな」



そう言って3月ウサギは手をぱんっと一回叩く。すると手元がぼおっと光り出し、たちまちそれはあるものへと変化した。



「ちょっと!? 貴方、何構えてるのよ!?」




「何って……見てわからないかい?」



3月ウサギはそう言って可笑しそうに笑う。その両手には大きなライフルが一丁、握られていた。しかもあろうことかその銃口はぴったりと眠りネズミに向けられている。



当然ながら、そんなものは人に向けていいものではないし、そんな至近距離で撃っていいものでもない。



「あ、危ない! そんな距離で撃ったらその人、確実に死んじゃうじゃない!」



「あはははっ、そうだね。おそらく頭がこっぱみじんになるだろうね」



そんなグロテスクな光景は嫌だ! せっかくのお茶会だがもはやお茶会どころの騒ぎではない。



私は必死に3月ウサギに説得を試みる。




「や、止めて! 落ち着いて! お願いだからそんなこと止めて!」



「私のお茶会の最中に眠るとはいい度胸だ。2度とその顔を見せられないようにしてやる」



「だめ、だめっ! そんなことしちゃだめ! 止めて! そんなの見たくない!」



「やはり、そうだねアリス! 君はよくお茶会というものをわかっている。お茶会なんてこんなものさ。気にしなければ何てことない。例え、テーブルクロスがどんなに真っ赤に染まっていようといくら死体が床に転がっていようと気にしなければそれまでさ。何の問題もない」




「問題大有りでしょう!!」




テーブルクロスが真っ赤に染まるのも床に死体が転がるのも絶対に嫌だ!



私は半分泣きながら3月ウサギに縋るように言う。



「お願いだからそんなグロテスクなお茶会にしないで!」



「そうだねアリス。この後は一緒にアップルパイでも食べようか? あははっ、全く、笑いが止まらないよ。これだからお茶会はやめられない」



「お願いだから止めて!」



忘れてはいけない。相手は誰もが嫌がる3月ウサギだ。こちらの話などまともに聞くはずがない。



もう駄目だ……。



3月ウサギは嬉しそうにライフルの引き金に指をかける。耐えられず私は耳を塞ぎ、目をきつく閉じる。



「何とかしなさいよ! 帽子屋!!」



無意識に口から出た私の一言に帽子屋は笑って答える。



「大丈夫だ、アリス」



少し低い、どこかぶっきらぼうな声。耳を塞いでいるはずなのにその声は鮮明に私の耳に届く。



「眠りネズミは殺気に敏感だ。万が一当たっても頭はそうそう吹っ飛ばないだろう。まあ、体の一部くらいなら飛ぶかもしれないがな」



「それのどこが大丈夫なのよ!!」



全然大丈夫じゃない。



しかしあながち帽子屋の言ったことは間違いではなかった。



まさに引き金が引かれるその瞬間、眠りこんでいたはずの男の体がぴくりと反応し、そのまま一気に後ろに飛び退いた。




紙一重でライフルから発射された銃弾は眠りネズミがついさっきまで伏せていた場所に打ち込まれ、テーブルの一部分に大きな大きな穴が空いた。



間一髪、銃弾から逃れた眠りネズミは床へと転がり、顔をひきつらせて3月ウサギの方を見上げる。



なるほど、顔からして真面目そうな人だ。銀色の細身の眼鏡にきりっとした瞳。同級にいた優等生によく似ている。



眠りネズミを見て、3月ウサギはわずかに眉をひそめる。



「ちっ……」



おそらく本心からの舌打ち。こちらまではっきりと聞こえた。



「な、な、なぁーっ!! 3月ウサギ! 貴様という奴はまた私を撃ち殺そうとしたな!!」




眠りネズミは顔を真っ赤にさせてそう怒鳴る。それに3月ウサギは悪びれもなく答える。



「あはははっ、本当に君って奴はどうしていつもいつもいいところで起きちゃうんだい? あともう少し、そのままでいてくれたら痛みも感じずに永眠できたのに」



「冗談じゃない! ライフルなんかで撃ち殺されたら後味最悪じゃないか!」



「安心しろ。顔どころか頭までぐちゃぐちゃに吹っ飛ぶから後味どころの騒ぎではないよ」



「よけいにたちが悪いじゃないか!!」



眠りネズミはそう言ってきっと3月ウサギを睨む。しかし目はすでに涙目で全く威圧感がない。




それに比べ3月ウサギは相変わらずの笑顔を浮かべ、何とも余裕そうに見える。



こんな状況であれだが、私は学校にいたいじめられっ子といじめっ子を思い出した。

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