第8話 復讐への第1歩
割と暴力表現多めな話です
「ンッン〜こちらへ来ればその老ぼれは殺さないでおいてあげますよ」
ルードが上機嫌に話しかける、声すらも胸糞悪い。私は広場のテーブルにあった包丁を手に取りルードへと近づく。
「やれやれ‥やはりこんなクソ田舎に住んでいる女は馬鹿なんですかね」
ルードが手を振り下ろす。それと同時に私の胸元に鋭い痛みが走る。アランさんを殺した槍だ、でも今の私にその程度の事で怯んでいる暇は無い。
『死ねえぇぇぇぇぇぇ!!!』
私は全力で走り、ルードの胸元に包丁を突き立てる。包丁は狙いから少しそれ、ルードの肩に突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!刺された!!死ぬっ!死ぬぅぅぅぅぅぅ!!!」
ルードが悲鳴を上げる、鎧の男の1人が私を突き飛ばし、ルードの肩に刺さった包丁を抜く。
「ルード様、御安心を。急所は外れていますのですぐに治療致します。」
鎧の男はブツブツと何かを呟くと、私の刺した傷があっという間に治ってしまった。傷が治るや否や、ルードは私の方へ歩いて来た。
「痛ったいですね!このクソアマ!!」
そして、私の顔に拳を振り下ろした。
「このっ!このっ!!」
ルードは何度も、何度も私の顔を殴りつける。ついに鎧の男の1人が止めに入り、ルードは私の胸の傷が治っている事に気づく。
「私の光槍で貫いたはずなのに‥!やはりこの女が噂の不死!!」
ルードは男達に私を捕まえる様に命令し、男達が一斉に私の方へと向かって走ってくる。 私は咄嗟に森の方へ走る。男達が私を追って森の中に入る時既に日は暮れ、森は暗闇に包まれた。
『こっちよノロマ!!』
私の声を頼りに男達は私を追う、しかし鉄の鎧は重く素早くは動けないようだ。
逆に、毎朝アランさんと森の中を見て回った私にとってこの森は庭も同然。ついに、男の1人が熊用の落とし穴に落ちる。
「うわっ!助けてくれ!」
「上から岩が落ちてくるぞ!避けろ!」
「クソッ!足を何かに噛まれた!!」
男達の声が次々と暗い森に響き渡る。 1時間も逃げ回っただろうか、男達の叫ぶ声は聞こえるものの私を追う足音はついに1つも聞こえなくなった。
『…後は、あの男』
広場へ戻ると、ルードが椅子に座りバーン君へのプレゼントを開けている所だった。
「チッ、大層な箱に入っているから何かと思えば、ただの布切れか…」
『おい、その汚い手でそれに触るな』
「なっ!?何故ここに!!私の騎士達はどうしたんです!?」
ルードが慌ててガタッと立ち上がり、光槍を構える。
『あっちの森でまだ遊んでると思うよ、見てくれば?』
光槍が飛んでくる、だが焦っているせいか狙いは不正確で掠りもしない。しかし私が近づくにつれ槍は私の頬を掠め、胸を貫く。
『怯むと思う?これしきの事でさぁ!』
ルードの鳩尾に思いっきり拳を叩き込む。
「カヘェッ…」
情けない声をあげその場にうずくまるルード、間髪入れずにルードの顔面を殴る。
ベシャッと音を立て倒れたルードをまだ殴ろうと近づく私の足を光槍が切断する。
『痛ッ…!』
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
ルードが森の方へと走り出した、再度足を見ると既にほぼ再生していたのでまだ少し痛むが気にせず走って追いかける。
「誰か!誰かいないのですか!!」
大声で叫びながら走ってくれるお陰でルードの居場所は簡単にわかった、足も走っている間に治った様で痛みももう無い。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
一際大きな叫び声が上がった後、ルードの大声はしなくなった。音がした方へと近づくと、そこには大型の獣用のトラバサミに足を挟まれ動けなくなったルードの姿があった。
「す!少し待ちなさい!私はこの任務を終えて国へ帰れば貴族へ昇格できます!!」
ルードが早口で捲し立てる、正直どうでも良いが最後まで聞いてやる事にする。
「その際貴女にも広い土地とある程度の地位を約束しましょう! どうです!悪い話では無いでしょう?望むもの何でも手に入りますよ!」
『なら、村の皆を生き返らせられる?』
「それは……」
『どっちなの?』
ルードは目を見開き大声で捲し立てた
「そんな事出来るわけ無いでしょう!!魂が既に肉体から離れた時点で蘇生など不可能ですよ!!」
私の抱いていた1つの希望、ここが何でもアリの異世界ならゲームみたいに蘇生することも出来るんじゃ無いかって思ってた。
でもその淡い希望は、無慈悲にも一言で打ち砕かれた。私はどうしようも無い怒りや悲しみを目の前の男にぶつけていた。
『お前のせいだ!お前のせいで皆!!』
怒りに任せ顔を、腹を殴る、その度に「ほげぇ」や「へぶっ」と言った声を発していたルードも殴り続けると次第に静かになり、真っ暗だった空が白み始める頃には、何も言わなくてなっていた。
『…皆んな……ごめんね‥ごめんねっ……』
私はせめて皆を埋葬しようと村へと戻った。 すると焼かれ更地になった村を見つめる1人の男がいた。男は私の方を見ると瞬時に距離を詰めた。
「ここで何があった、返答次第ではタダでは済まさんぞ。」
聞き覚えのある声に私はハッとし、男の顔を見る。朝日に照らされた男の顔は数ヶ月前に私が見た織田信長そのものだった。
『信長‥さん?』
「お前…葵か!そうかこの村にはお前が住んでいるのだったな、何があった!」
私は信長さんにこれまでの経緯を説明する、昨夜いきなり攻めてきた鎧の男達、ルード名乗った男の事、そして…村の皆が殺された事。
「そうか…少し前に村長から連絡が入ってな、村長は既に城へ転移させ今治療させている。」
ところで、昨夜襲ってきたという奴らはどこに。と信長さんが聞いてきたから私は森の方を指差す。信長さんは躊躇無く森へと入りしばらく歩くとポツリと呟いた。
「ふむ…罠が破壊された跡があるな、逃げたか」
そしてすぐに動かなくなったルードを発見した信長は私に話しかける
「これはお前がやったのか?」
『はい…』
恐る恐る答えた私に信長は驚いた表情を向ける。
「この男の服装は竜の国‥つまり他の国の上級騎士の制服だ。よく倒せたな。」
信長さんは村へ戻ると私の方へ向き直り真剣な顔で話しかけた。
「今一度ここで貴様に問う、ここで過去を貪るか、俺と共に竜の国への復讐への1歩を踏み出すか」
『信長さん、私はもう誰も失いたく無いんです…貴方の軍に入れば…私は強くなれますか?』
信長はニヤッと笑った
「最後は貴様次第ではあるが、俺の元へ来れば大切な物を守り抜く力をくれてやろう」
『よろしく…お願いします!私を!強くして下さい!』
私はその後、村だった場所に簡易な墓を立てそこにバーン君にあげるはずだったマントをかけてあげた。そして信長さんと共に龍に乗り、再び王都オワリへも戻るのであった。
一応第一幕完、みたいな感じです