第7話 最悪の誕生日
さあタイトルにネタバレ含む7話です
1週間後に行われるバーン君の誕生日パーティーの準備は着々と進められ始めた。
「葵ちゃん、明日久々に街へ行くんだだが、一緒にどうだい?」
『街ですか!是非行きます!』
こうして、私はアランさんと街へ行く事になった。 街までは馬車で3時間くらいの距離らしく私達は朝早くに家を出た。
『それじゃ、行ってきます』
リリィさんとバーン君に見守られながら村長に貸してもらった馬車で街へと向かう。
到着した街は城下町とは少し違い、市場で様々な物が売り買いされていた。中には初めて見るような不思議な生き物や植物も混ざっていた。
『アランさん、今日は何をしに来たんですか?』
私の問いかけにアランさんは
「ケーキの材料を買いにさ、後は酒だな。」
と笑いながら答えてくれた。買い物は順調に進み、昼の3時頃には必要な物は大体馬車に積み終わった。
「よし、やる事もやったし帰るかぁ」
アランさんは馬車に乗り、私も乗ったのを確認すると荷物が揺れないように馬車をゆっくりと走らせた。
「葵ちゃん腹減ったろ、これさっき屋台で買ったから食べな」
アランさんはバッグからサンドイッチを2つ取り出し1つ私にくれた。
『あっ!美味しい!』
サンドイッチを一口食べた私は思わずそう言ってしまった。鶏肉のようなお肉がジューシーですごく美味しい。
「そうだろ?あの街の名物の1つ、兎肉のサンドイッチだ。」
『兎肉!私初めて食べます!』
私とアランさんはその後、日本食などの話で盛り上がり、気がつくと私達はもう村のすぐ近くにいた。
「意外と早かったのね、おかえりなさい」
家の近くに馬車を停めるとリリィさんが笑顔で出迎えてくれる。私達はバーン君にバレないように買ってきた物の大半を棚や冷蔵庫の高い所に隠し、アランさんはそのまま馬車を村長さんの所まで返しに行った。
そして私達は、ついにバーン君の誕生日当日を迎えた。
この日は皆朝から大忙しだった。子供達は皆、村長さんと広場を飾り付け、母親達は朝から様々な料理を作る。父親達は、テーブルや椅子を並べたり、大きな焚火の準備をしたりしていた。
「葵ちゃん、卵とってくれる?」
『はーい!これですか?』
私はリリィさんや他のお母さん達と一緒にバーン君のケーキを作っていた。ケーキは豪華な3段重ねのフルーツケーキになる予定だ。
「んん…おはよう…」
すると、バーン君が起きて来たようだ。私はバーン君に目隠しをしてもらい村の広場に連れて行く。
「「バーン!お誕生日おめでとう!」」
村の皆が広場に集まりバーン君の誕生日をお祝いする、私とリリィさんは定期的にケーキがちゃんと焼けているか確認しに行き、昼過ぎにはケーキは問題無く焼き上がった。
1日中お祭り騒ぎだった村もやっと落ち着いてきた夕方頃、リリィさんが飾り付けの終わったケーキを広場に持ってくる。遊んでいたバーン君と村の子供達もケーキを見るとすぐに集まって来た。
しかしその時、南の森から鳥が一斉に飛び立った。そして森から10名程の人がこっちへと歩いて来るのが見えた。
私達は皆を村長さんの家の中に避難させ、広場には村長さん、アランさん、私の3人だけが残った。
近づいてきて見えたのは口髭を生やした細身の男1人と、鎧を着た10数名の男達だ。
私達と5メートル程の距離まで近づくと、細身の男が口を開く。
「ンッン〜、私はルードと申します。最近この村に新しく来た女がいませんかね?」
「なんだアンタは、そんな女は知らん!」
アランさんが荒々しく答える。するとルードと名乗った男は軽く舌打ちをし
「本当か?そこにいる女は?」
と聞いてきたルードに、アランさんは毅然とした態度で
「彼女は俺の娘だ。」
と答える。
「ンッン〜、良く見ると中々の美人ですねぇ。その女をこちらに渡しなさい、そしたらこの村に転生者の女はいなかった事にしてあげますよ」
「断る、村の皆には指一本触れさせん」
「そうですか‥ならば死ぬがいい!!」
ルードはそう言うと何かを放り投げるように後ろで組んでいた手の右手だけを前に出した
「カハッ‥ゴハッ!‥‥」
その瞬間、光の槍がアランさんの胸を貫いた。アランさんは口から血を吐きその場に倒れる。
『アランさんっ!!』
「私のスキル、光槍は光速に近い速さの槍、つまり避ける事は不可能!」
ルードが聞いてもいないのに能力の説明を始める。
「即死じゃ‥もう助からん‥‥」
アランさんを見た村長さんは悔しそうに唇を噛み締め、魔法の詠唱を始める
「炎の上位精霊よ‥我が声に答え今一度その力貸し与えて賜え!上位火球!」
巨大な炎の玉が上空に現れ、そして炎の玉はルードと鎧の男達に向かって落下し始めた。
「「「魔法之盾」」」
男達は口を揃え唱える、すると巨大な半透明の盾が炎の玉とルード達の間に現れる。
そして2つがぶつかると炎の玉は呆気なく消滅してしまった。
「やれやれ、上位魔法であの程度の威力ですか‥‥お前達、お手本を見せてあげなさい」
「「「上位炎球!(フレイムボール)」」」
村長さんの炎の玉よりも数倍大きな炎の玉が上空に現れ、私達へと落ちて来た‥
いや、狙いは私達では無かった。村だ
『嘘‥ そんな‥‥』
村は一瞬で炎に包まれた。バーン君達が居る村長さんの家も赤々と燃えている。私はただそこに立ちすくみ、燃え盛る炎を見つめる事しか出来なかった。
「葵さん‥ワシが時間を稼ぐ‥‥逃げるんじゃ」
掠れた声で村長さんが私に話しかける。
私は、また逃げるだけなのか。家族から逃げて、社会からも逃げて、死ぬ事で世界からも逃げた。カリダから、信長さんからも逃げて‥まだ逃げるのか。
『殺す‥』
私の心は、初めて戦う事を選んだ。私は気がつくとそう言っていた。私の心が、初めて戦う事を選んだ。私が大山さんみたいに強ければ村の皆は死ななくて済んだんだ。
『村長さん、休んでて‥私は絶対に死なないから!』
次回ッ…葵ちゃん覚醒!?