第6話 新たな日常
トップクラスで平和なお話です。
怪獣カリダを大山さんが退治したから3日が経った、私はあの後、信長さんの誘いを断る事を大山さんに伝え、大山さんはカリダの事と私の意思を信長さんに伝える為オワリの城へ帰って行った。
私はアルボさんの計らいで山の近くにある小さな村に住まわせて貰える事になった。
『葵と言います。慣れない事も多いと思いますけどよろしくお願いします』
「よろしくな、俺はアラン、向こうにいるのが妻のリリィと息子のバーンだ。」
私はアランと言う男性の家に住まわせて貰える事になった。アラン一家は私をすぐに受け入れてくれ、とても親切にしてくれた。
「葵ねーちゃんはさ、信長様に会った事あるんでしょ? どうどう?カッコ良かった?」
『1度だけね。信長さんは少し怖いけどカッコいい人だったよ。』
バーン君は良く信長の話を聞きたがった、
「将来は信長様の所で騎士になるんだ!」
と口癖の様に言っていた。村人が総勢20人程の小さな村だが、他の村の人達も皆とても良い人で、私はやっと、安らげる自分の居場所を見つけた様な気がした。
この村の北側には大きな木が1本生えていて、東側には小さな湖がある。オワリの外れに位置しているらしく、村人は皆村の南にある森には絶対に入ってはいけないと村長から強く言われている。
私は昼間はバーン君と釣りをする事が多かった。村にはバーン君を含め5人の子供達がいた。年齢順に
15歳のリウム君、
13歳のグレナちゃん
12歳のロッカス君
11歳のバーン君
8歳のユノちゃん
の5人だ。私はすぐ子供達と友達になり、皆んなから葵ねーちゃんと呼ばれる様になった。
村に若者はほとんどおらず、老人と親子達の村だった。村長のデンドウさん、はこの村で唯一の転生者で若い頃は冒険者として名を挙げたらしい。
「葵ちゃん、森の罠を確認しに行くから着いてきてくれるかい?」
森に仕掛けた罠を調べるのがアランさんの毎朝の仕事だ。最近は私もアランさんに付き添い罠を調べる事が多い。普段この罠に生き物が掛かっている事は少ないが、今日は落とし穴に猪が掛かっていた。
私達が猪を持って村へと帰るとアランさんはたちまちヒーローだ。
「父ちゃんすげぇや!!」
「わぁ!猪だ!母ちゃんに伝えてくる!」
村に帰ると途端に遊んでいた子供たちからの歓声が上がる、それもそうだ。肉が取れた日の夜は村の真ん中にある広場に集まり大人達が星空の下、焼けた肉を肴に酒を飲むことが多いからだ。
「葵ねーちゃん!遊ぼ!」
大人達に酔いが周り、肉も残り少なくなって来た頃、川の近くで遊んでいた子供達から呼ばれ私は川の方へと向かう。
「みてみて!ホタル!」
ユノちゃんが川の真ん中に淡く光る物を指差して言う。確かに蛍のようにも見えるが…1匹だけだ、私は違和感を感じ子供達を川から離そうと試みる。
『ねえ、少しこっちへおいで』
皆が私の方へと走ってくる。だがユノちゃんだけは川のそばに屈み込み、手を叩いている。
「ホタルさん、こっちだよー」
光は少しずつユノちゃんの方へと近づく、私は嫌な予感がしユノちゃんの方へと走った。途端
ザバアッッッ!
と言う大きな音と共に水の中からトカゲの様な大きな生き物が飛び出した。その軌道は確実にユノちゃんの手首を狙っている。
『ダメッ!間に合わない!』
トカゲの鋭い歯がユノちゃんの手首に食い込むより僅かに早く横から飛んできた火の玉がトカゲを吹き飛ばした。
「ハァ…ハァ…危ない所じゃった……」
振り返ると村長さんが息を切らしていた。あの火の玉は村長が撃った物らしい。
「ん…?魔法を見るのは初めてかな?」
村長さんが私の方へ笑いかける『あ、はい』と答えた私に村長さんは笑いながら
「ホホ…このくらいなら葵さんも練習すれば、きっと使えるようになりますぞ」
と言ってくれた。そして私は明日の朝から村長さんに、他の子供達と一緒に魔法を教えてもらえる事になった。
「それでは、まず魔法の原理から教えますぞ」
翌朝、私と子供達は村の外れの広場で村長さんの話を聞いていた。村長さん曰く、魔法とは、体の中に存在するエネルギー、すなわち魔力を特定の形にし体外へ放出する物らしい。
「まあ、感覚としては自転車みたいな物じゃから慣れれば簡単じゃよ」
と言っていたが、私は才能が無いのかそれから1週間経っても魔法が打てるようにはならなかった。 子供達はそれぞれ適性があったようで
リウム君は土の魔法
グレナちゃんは水の魔法
ロッカス君は強化の魔法
バーン君は炎の魔法
ユノちゃんは光の魔法
の基礎段階をそれぞれ習得したようだ。特にロッカス君は属性魔法こそ弱いが、体内の魔力を一部分に溜め、身体強化を行う魔法の才能はピカイチみたいだ。
「こちらの世界で生まれた子供達は元々、内包する魔力量が多いからなぁ」
と村長さんは言っていたが、私は悔しくて、深夜まで練習に励んだ。
その結果、1ヶ月近くかかったがやっと下位炎玉と言う魔法を習得する事が出来た。
威力も弱く、実戦では役に立たなそうな魔法ではあるが、子供達はみんな笑顔で「おめでとう」と言ってくれた。
『ありがとね、みんな』
子供達はとっくに飽きてしまい魔法の修行はしていなかった為、私も今では子供達と同じくらいの魔法は操れるようになっていた。
翌朝、私は久しぶりにアランさんと罠の確認に来ていた。
「葵ちゃん、魔法使えたんだってね。」
空っぽの罠を確認しつつアランさんが言う。
『あ!はい!少しですけどやっと使えようになりました。』
と答えた私にアランさんは切り出した、実はね、来週の金曜日がバーンの誕生日なんだよ。
『そうなんですか?お祝いしないと!』
と言う私にアランさんは笑いながら、
「その時に君からバーンにプレゼントを渡してあげて欲しくてな。」
そう言ってアランさんは前から作っていた信長のマントのレプリカがある事を私に告げた。
こうして、私達からバーン君への誕生日サプライズ計画が始まった。
お誕生日、どうなるんだろうねぇ