第2話 第六天魔王
第2話です!
派手なパートはありませんが楽しんで行って下さい!
『えっ?信…長…ってあの…』
固まってしまった私に対し信長と名乗った男は続ける
「驚くのも無理は無い、俺があちらで死んだのはもう450年ほど前だからな。だがしかし、俺がここにいる事も紛れも無い真実!サインもOKだぞ」
『え?えっ?えと…あの?信長さん…私は何をすれば‥』
そう答えるのが精一杯だった、いきなり飛び出した信長というビッグネーム、虚言や嘘の可能性は目の前に座っている男の風格や威圧感が否定している。
「さて改めて…女、貴様名は?」
私の目を見つめ短く、しかしはっきりと私に問いかけた。先程までの楽しそうな声とは違い、その声は威圧感の中にどこか安心できる優しさのある声だった。
『水野葵です…』
「葵か、良い名だ。 さて改めて葵よ、俺の為に働く気は無いか? お前も気づいているとは思うがSSランクのスキル保持者は貴重でな、是非とも俺の為に…この国の平穏と天下の為に働いて欲しい。」
まさかの就職勧誘それもあの織田信長からの…今の私に断る理由なんて無いが、自分が役に立てるとは到底思えない…言葉に詰まった私に信長は言葉を続ける
「返事は後で良い、ひとまず休め。
これから数日間は大山にこの国の中を案内させよう。 答えはそれからで良い。」
そう言うと信長は立ち上がり、大山さんに私に城の中と城下町を案内するように指示し部屋を出て行った。
「今から街へ行くから10秒程私の肩に手を置いて目を瞑って下さい。離したら助けられる保証は無いから気をつけてな」
言われた通りに肩に手を置き目を瞑る、が数秒後とてつもない気持ち悪さが私を襲った。例えるなら車酔いを何十倍にもしたような気持ち悪さだ。
『ウプッ‥オェェェェヴォロロロロロ』
「到着だ」と言う大山さんの言葉と同時に私は地面に向かって吐いていた。私は大山さんに寄りかかりながらなんとか近くにあった甘味処まで連れて行ってもらい縁台に寝転がった。
大山さん曰く、黒い宝石のような転移石という石を握って特定の場所を強く思い浮かべれば一度行ったことのある大抵の場所へは瞬間的に転移する事が出来るらしい。
しかし転移は三半規管への負担が大きいらしく人によっては酷い転移酔いを起こす、そしてどうやら私は特に転移酔いしやすい体質みたいだ。
「大丈夫か?転移酔いは本当にキツいらしいからな…無理だけはしないで下さいね?」
今さっき買ったであろう団子を食べながら大山さんが私の顔を覗き込む。
『もう大丈夫です。私もお団子頂けますか?』
「勿論、そういえば貴女転生してからまだ何も食べて無かったんですね。 女将さん!この人にも団子とお茶を頼む」
「あいよ!龍二さんなんだい、浮気かい?」
この店の女将さんなのだろう、少し膨よかな40代くらいの女性が笑いながら大山さんと話している。と言うか大山さん彼女いたんだ… などと考えていたら女将さんがお団子と温かいお茶を持って来てくれた。
「お嬢ちゃん、この男はやめときな。この人の彼女さんめちゃくちゃ怖いんだから。」
「やめてくれよ女将さん、浮気なんかじゃ無いって。」
数分後、お団子を食べ終わった私は女将さんにお礼を言って店を後にした。オワリの城下町は私の想像していた時代劇のような町では無く、思ったより西洋風のオシャレな街だった。何より驚いたのは自転車が普通に走っていた事だ。
鉄製の鎧を着た冒険者風の男の横をTシャツの男の子が自転車で走り抜けていく。この町では普通の光景なのだろうがなんだろう、凄い違和感を感じる。
『あの、大山さん。この世界にも自転車ってそんな普通にあるんですか?』
「ああ、この街では広く普及しているよ。外では使えないからあくまで街の中限定ですけどね。あと車がほとんど無いから自転車が基本的には1番早い移動手段なんですよ。」
『あと大山さん、敬語無理してません?気にしなくて大丈夫ですよ?』
大山さんの敬語がなにか不自然だから聞いてみたが、私の言葉を聞くなり大山さんはニカッと笑い
「ありがとうな葵さん、確かにこっちのが楽だ。畏まったのはどうも苦手でな」
と言ってくれた。その後私は日が傾くまで大山さんに色々な所を案内して貰った。
「不味いな、そろそろ日が暮れる。」
『日が暮れるのが不味いんですか?』
「ああ、帰りも転移する予定だったからな、仕方ないからこの辺りで宿を取ろう。」
大山さんはそこから1キロほど離れた所にある〇〇というホテル、と言うよりはザ・宿屋という感じの場所だった。
大山さんは宿屋に入ってすぐ宿屋の主人らしき人と話した後、私を連れ2階に上がり、廊下の1番奥の部屋へと案内してくれた。
「良いか葵さん、俺は今から報告書作りやらで一度城に戻らないといかん。朝が来るまで絶対に宿屋の外に出ないでくれ。」
大山さんが真剣な顔で言う。確かに右も左も分からないような女1人で夜の街を歩くのは危険だ。
『なるほど、わかりました。それじゃ大山さん、おやすみなさい。』
「ああ、おやすみ。 明日は朝の8時くらいに迎えに来る、夕飯と朝食は1階の食堂で済ましておいてくれ。」
宿屋の主人に話は通してあるからお金の心配はいらない、と言い残し大山さんは私の目の前から城へと転移した。
部屋1人に残された私は、とりあえず部屋の中を見回してみる。木製の簡素なベッド、薔薇のような装飾が施された姿見、7時を指している壁掛け時計。他にも色々あったが1番気になったのは、小さな冷蔵庫のような扉のついた白い箱。私は好奇心と期待に胸を躍らせ箱についた扉開ける、中は冷たい。
『凄い…ほんとに冷蔵庫だ!』
冷蔵庫の中にはにガラスの瓶に入ったお水とジュース、それにワインが冷えていた。
私はジュースを手に取り飲んでみた、リンゴジュースだ。冷蔵庫からジュースを取り出し飲む、たったそれだけの行為にここまで感動する日が来るなんて思っても見なかった。
ジュースを飲み干した私はベッドに横になる。織田信長との会見や街中を歩き回った事で疲れていたのだろう。少し瞬きをしただけのはずが、薄暗かった街はすっかり暗くなっていた。
時計を見ると針は10時を指していた。何時間か眠っていたのだろう、その時不意にお腹が鳴る。お団子以降何も食べていなかった事を思い出した私は1階にあると言われた食堂で夕食を取る事にし部屋を後にした。
大山さんは身長180センチ超えのイケメンですよ。