第11話 悪魔
大変お待たせしましたこの話で魔剣完成です。
アルボさんとヒュー君が起きた翌日、悪魔を宿す工程の説明を受けた私はアルボさんと2人、召喚を行う部屋の鉄の扉の前に立っていた。
「この魔法陣の上に乗ったら、あとは呪文を唱えるだけだ…死ぬなよお嬢さん。」
『頑張ります。村の皆の為にも…』
私が頷くとアルボさんは私に召喚の呪文が書かれた重々しい本を手渡し私に背を向けて歩き出した。
「それではな」
そう言い残しアルボさんが部屋を出ると、重々しい音を立てて扉が閉じられる。部屋の中には私と、大きな魔法陣があるだけだ。
『よし…やるぞ…』
先ほど渡された魔導書を開きゆっくりと詠唱を始める。村で習った基礎的な魔法と違い複雑な詠唱だ。
『アラマカ・サマヤアータサ・イワコンサマキマ・レクテッゴオ・ナイタベタ・クニキヤ・ロヤサマナタラナハ』
詠唱を終えた途端、魔法陣が眩い光を発し光が収まる頃には黒いマントに身を包んだ人影がそこに立っていた。
「オレ…吾を呼んだのは貴様か…」
『貴方が悪魔…?』
私の問いかけに人影は答える。顔は見えないのに私はその人影の口角がニヤッと上がったように感じた。
「そうだ、吾こそは悠久の時を生き、生物の理を超越せし者…貴様ら人間が悪魔と呼ぶ存在だ。」
アルボさん曰く悪魔は嘘をつかない、つまり自分の目の前にいる人影は間違い無く悪魔なのだろう。 私が覚悟を決め再度口を開こうとしたその時、悪魔の方から私に語りかけてきた。
「面倒な話は苦手だ、早速契約の方に移ろうじゃ無いか。オレを呼ぶと言うことはつまりそう言うことなのだろう?」
『契約の内容は、貴方にこの剣の中に入って欲しい。私の仲間になって欲しいの。』
悪魔は再びニヤリと笑い右手を私の方に突き出してきた。
「テストだ、お前がオレの主人に相応しいか…試させてもらう。決して逃げるなよ…」
その言葉を最後に私の意識は少しずつつ薄れて深い闇の中へと落ちていった。
『ここは…?』
再び意識を取り戻した私は真っ暗な空間にいた。この空間がどこまで続いているのかもわからない中、遠くの方で何かが動いた。
「グルル…」
聞き覚えのある音と共に爛々と光る2つの目玉が私の方を向く。間違いない…カリダだ。
『嘘‥なんでこんな所に!』
咄嗟に逃げようと身構えた私の耳元で再びあの悪魔の声がした。
「逃げるなよ…」
『そうだ、これは試練だ…逃げちゃダメだ…』
そう思っても私の体は無意識に震え、気を抜くとすぐに足が逃げ出しそうだった。その間にもカリダは私の方へと凄いスピードで近づいて来る。
「グルオオオオ!!!」
あまりの恐怖にその場に蹲った私の足元に、アルボさんが作ってくれた魔剣が落ちていた。
『これは…』
それは半分無意識の行動だった。私は剣を手に取り立ち上がった。そして慣れない手つきで剣を振り上げ、力任せに振り下ろした。
「グァァァァァァ!ガ…ガァァァ!」
断末魔と共にカリダの体は真っ二つに切断され、カリダだった物は灰が飛び散る様に消滅した。
「葵…ね…ちゃ……」
カリダのいた所から小さな声が聞こえた。掠れるような、聞き覚えのある声。あの日私が無力だったせいで死んでしまったバーン君の声だ。
「ねえ…なんで…?」
声は少しずつ大きくなり、灰の中から姿も少しずつはっきりと見えてきた。その姿は皮膚が焼け、既に所々炭化している少年の姿はだった。
「なんで助けてくれなかったの!!」
こちらを向いた少年の顔は、笑顔の絶えなかったバーン君の顔とは違い深い悲しみに満ちていた。
「信じてたのに…!」
バーン君の右目から涙がこぼれ落ちる。顔の左半分は焼け焦げ、既に涙も流れないのだろう。
『ごめんね…ごめんね……』
私は屈み込み、バーン君を抱きしめた。その体は炎のように熱く、私の体にも焼けるような痛みが走った。
『痛かったね…ごめんね…助けられなくて…』
不意に抱きしめていたはずのバーン君の感覚が無くなった。唖然とする私の耳元で、ふとバーン君の声がした。
「葵ねーちゃん、僕達は大丈夫だから…ねーちゃんも幸せになってね!」
その声は、私が何度ももう一度聞きたいと思った優しいバーン君の声だった。
そしてカリダも、バーン君もいなくなり、私は暗い闇の中に1人座り込んでいた。すると、私の耳元で再びあの悪魔の声がした。
「よく耐え切ったな…貴様を我が主人と認めよう……」
その言葉と共に、私の意識は再び薄れて行った。再度目を開くと悪魔の姿は無く、そこには私と、先程までの無機質な金属の輝きとは違う淡い紫色の光を放つ魔剣が一本あった。
『バーン君…私頑張るよ…!』
魔剣を手に取ると、私の頭の中にあの悪魔の声が響いた。
「これにて契約成立だ、これからよろしく頼むぜ主人様」
『ねえ、1つだけ教えて…私が見たアレは何だったの?』
私が見たカリダやバーン君の姿は幻覚だったのか、はたまた夢だったのか… その問いに悪魔は意外とあっさりと答えてくれた。
「マスターの記憶と、周りを漂っている魂の残滓を利用させて貰った。だからほぼ全て偽りだが…あのガキの最後の一言だけは本心だったはずだ」
『そっか…ありがとう…』
私は剣を鞘にしまい、重い鉄の扉に手をかけた。今度こそ、何も失うまいと覚悟を決めて。
最近モチベが下がって来て書く速度が非常に遅くなってます。もしここまで読んだ方がいたらなんでも良いので何か残していってくれると嬉しいです。