第9話 魔法金属を探して
久々の平和パートです、ここからしばらくは割と平和な話が続く予定です
『うわぁ〜この洞窟ってこんなに深かったんだね。』
「今いるここが第3階層っすね、目的の魔法金属が採れるのは6階層なんであと半分っす!」
私の前を行く青年が明るく笑う。彼の名前はヒュー、アルボさんの息子で見習い鍛冶士らしい。
「お!下層への階段が見えたっすよ!こっから先は魔物の出没例もあるので注意っすよ」
「大丈夫♪そーゆー時の為に私が来てるんだから!」
暗い洞窟にミリアちゃんの明るい声が響く。今私はヒューさん、ミリアちゃんと3人で魔法金属を取りに洞窟の奥へと向かっていた。
こうなった全ての理由は3日前の信長さんの一言から始まる
—3日前、オワリの城—
「葵よ、やはりお前弱すぎるな… 他の高ランクスキル持ちと互角に戦うには魔剣を作る他に道は無いだろう。」
『そういえば、結局カリダのせいで有耶無耶になってましたもんね。ところで…魔剣って普通の剣とどう違うんですか?』
「は?大山の奴から説明は…その顔は無かったようだな。 いいか、魔剣とは』
その後約5分程の説明を端的にまとめると
魔剣とは豊富な魔力を内包する金属、魔法金属を素材とした悪魔を内部に宿した剣の総称らしい。
「そして、魔剣は主人…つまり持ち主の魂の一部分を悪魔の魂と混ぜる事で完成する。」
『え?魂を混ぜるってどういう事ですか?』
「文字通りだ、理由は魔力の質が近くなり扱いやすくなる事と、悪魔が従順になるからな。この工程で失敗すると魔剣は暴走し持ち主を乗っ取る事もある。』
そして、私は馬車で再度洞窟へ向かう事になったのだが、護衛として冒険者を1人付けて貰えることになった。そして護衛の冒険者として私の所に来た。
ミリアちゃんと2人で馬車に1日揺られ到着した洞窟では、アルボさんと青年が1人私達を出迎えてくれた。
「久々だなお嬢さん、コイツが俺の息子だ。少し危なっかしい事もあるが洞窟の構造については俺よりも詳しい。」
こうしてヒュー君と私達は簡単な挨拶を交わし、アルボさんの家で夜を過ごし、翌朝洞窟へと入った。そして、そこから数時間歩き続け今に至る。
「うわ!何コイツ気持ち悪っ!!」
ミリアちゃんの目の前に2メートル近くありそうな大きなカエルが現れた。
「オオトノサマガエルっすね、こっちから刺激しなければ危険は無い魔物なので触らないように気をつけて。」
『ヒュー君って魔物詳しいの?』
洞窟に入ってから出会った全ての魔物の名前と弱点をヒュー君は熟知していたのだ、そのおかげでミリアちゃんが迅速に対応出来た事も多い。
「幼い頃から親父と洞窟に潜ってたのと、純粋に好きなんすよ魔物。」
ヒュー君は幼い頃から魔物の観察が趣味らしい。更に、私の質問が彼の魔物愛に火をつけてしまったようで、結局彼の魔物講義が終わる頃には私達は第6階層へと続く階段の前にいた。
『ここを降りればついに…!』
「はい!魔法金属が採れる第6階層っす!」
階段を降りた私達を待っていたのはこれまでの様な岩肌が剥き出しの洞窟では無く半透明の鉱石が淡い光を放つ幻想的な風景だった。
「わぁ!すっごい綺麗!」
「虹水晶っすよ、中に溜まった魔力が虹色の光を放つ鉱石っす。砕けると中の魔力が解放されるので良く魔術師とかが身につけてるんすよ。」
私とミリアちゃんが見惚れているとヒュー君が解説してくれた。そして解説の最後に
「ちなみに、大山さん曰く〔もしこっちの世界にも世界遺産があったら確実に登録されるだろうな…〕だそうです。」
と付け足した。
そして第6階層についてから幻想的な風景の中を5分ほど歩くと、突然広場のような場所に出た。そしてその広場に木霊する様に謎の美しい声が響き渡る。
「人の子よ…何をしにこの奥まで来た。返答次第では命は無いぞ」
「水晶竜様!アルボの息子、ヒューっす!魔法金属を少し頂きに来たっす!」
ヒュー君が物怖じせずに堂々と答える。数秒の沈黙が流れた後、壁の一部が動き出し、5メートル程の虹色に輝く竜へと姿を変えた。水晶竜と呼ばれたその竜が先ほどまでとは打って変わって明るい声で口を開いた。
「おぉ!あの小僧か!大きくなったねぇ、後ろの2人は友達かい?」
「葵さんと、ミリアさんっす。今日は親父からの依頼で葵さんの魔剣を作るために魔法金属を採りに来たんすよ」
水晶竜は魔法金属のある所まで私達を案内してくれ、ヒュー君は魔剣を作るのに必要な量の魔法金属を採取し始めた。その間、水晶竜は私に話しかけてきた。
「葵ちゃん、だっけ?魔剣は危険な代物よ。アルボの事だし剣の器としての強度は確かなものだけど‥アンタの魂の強さも大切だからね。」
信長さんの言っていた【魂を混ぜる】工程の事だろう。少し前の私ならば怯えていたかも知れないが、今の私にもう迷いは無い。
「はい、親切にありがとうございます。精一杯やれるだけやってみます。」
水晶竜は私に小さな水晶の欠片を渡し
「それを大切にしなさい。いざと言うとき役に立つはずだよ。」
そう言うと水晶竜はゆっくりとヒュー君の方へと歩いて行った。そして、私とミリアちゃんが他愛ない話をしながらしばらく待っていると
「よーしっ、採り終わったっす!」
ヒュー君が大きな黒い鉱石の塊を背負い水晶竜と一緒に戻ってきた。虹水晶とは全然違う漆黒の鉱石だ。ヒュー君は水晶竜にお礼を言い、アルボさんの待つ第1階層へと歩き始めた私達に
「またおいで」
水晶竜は私達にそれだけ言うと、再び淡く光る第6階層の奥へとゆっくりと戻って行った。
次回ッ! いよいよ魔剣完成!?!?
尺の都合上次々回になるかも知れません、ご了承下さい。