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元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。  作者: ありま氷炎
第五章 ざまぁの子は復讐を……。
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25


 人と魔族の全面戦争は1日で終結。

 人の国の王位を簒奪さんだつしたジョセフィーヌは、魔族へ宣戦布告する。戦場にて魔王ザイネルを討ち果たすが、その友ヴァンによって反撃、死亡。

 トール王の甥でもあるセインが人の国の王へ即位。王妃にはリグレージュの魂を持つメルヒが迎えられた。


 セインは人でありながら魔の国で成長した王、その妻メルヒはかつて魔族であったとも言われていた。しかしながら、彼が統治してから街の治安もよくなり、税が抑えられることになって、民衆の暮らしはよくなっていく。

 その事もあり、彼への民衆の支持は高い。

 民衆から意見をくみ上げることも多く、要職にはそれまで城に仕えていた者以外を登用することもあった。

 魔族とのいがみ合いはなくなり、交流が始まった。

 街で魔族を見かけることも多くなり、人が魔の国へ出かけることも可能になった。


「メルヒ」

「なんだ?」


 二人は城の一番高い塔の上で、沈んでいく太陽を眺めていた。


「……僕は間違いを犯した」

「何がだ?」

「もし、僕が素直に王になっていたら、トールも、ジョセフィーヌも、ザイネルも死ぬことはなかった。フェンデルすら……」


 橙色の光が悲し気なセインの顔を照らす。

 メルヒはそれから顔を逸らして、半分ほどの大きさになった日を見つめる。


「私のせいだ。お前の憎しみを煽った私の……」

「違うよ。メルヒ。それは違う」

「だけど、幼いお前に憎しみを植え付けたのは私だ」

「違う、メルヒ。違うんだ」


 泣き出しそうなメルヒの細い腕を掴んで、セインは首を横に振る。


「君のせいじゃない。僕の……」

「またウジウジしているんですか?」

「本当、暇だな」


 空からバイゼルが、ラギルと共に降りてきて悪態をつく。


「なんで、ここに?」


 人と魔族の争いはなくなった。けれども人も魔族にもよからぬ事を考える者がいる。あまりにも安易に侵入できる人の国の城の警備を見直したはずなのにと、セインは色々対策を考えながら聞く。


「ヴァンから伝言だ。正規の手続きだと色々面倒だからな。飛んできた」


 バイゼルがまったく悪気なしに答えて、セインは頭痛を覚えた。


「世界を統一しないか、だとよ」

「またか」

「本当、諦めが悪いな」


 ヴァンからの伝言に、セインとメルヒは溜息をつくしかない。

 ザイネルが死亡して、ヴァンは暫定的に魔王になった。実力世界でもある魔の国、ヴァンを負かせるものがなかなか現れず、彼は魔王という座に縛り付けられたまま、日々業務をこなしている。

 タトルや、ザイネルの側近だったものが補佐しているので、仕事にも問題はないはずなのに、彼は定期的にこういう伝言を寄こす。


「タトルとかは魔王になりたくないのかな?」

「いや、タトルには無理ですよ」

「まあ、オレがそのうちめっちゃ強くなって、ヴァンを打ち破る予定だからな」


 ラギルが両手を振り、バイゼルは力こぶを作り強さを表す。それが可笑しくてセインは笑い出す。メルヒも同様だ。


「ザイネル様はジョセフィーヌと戦えてよかったと思うぞ。楽しそうだったし。あとヴァンと一緒に戦うのも」


 彼の死の原因はジョセフィーヌを止められなかったセインにある。けれどもラギルもバイセルもセインを責めようとしなかった。ヴァンに至っても同じだ。

 メルヒがリグレージュの魂を持つと知って、憎しみが向けられると思ったのだが、ジョセフィーヌを殺した段階で彼の気持ちにけりが付いたようだった。


「償いだと思うなら、しっかり王をやることじゃないですか?ボクは今の状態が物凄く好きですよ。美味しいものも気軽に食べれるし。そういえば人が魔の国にお店を出したんですよ。結構評判がいいんですよ」

 

 ラギルは笑いながらそう言う。

 その笑顔にセインは少し救われたような気持ちになった。


「世界統一したかったら、ボクも手伝いますよ」

「オレもな。その後に、お前を倒すのもいいかもしれない。強くなっとけよ」

「そんなこと考えないよ。今の状態を維持する。それを僕は頑張るよ」

「そうですか」

「それなら。まあ、オレが魔王になるから、そん時はよろしくな」


 バイゼルがそう言うと、翼を広げた。そしてラギルを掴むと空高く飛んで行く。


「高さか。あそこまで飛ぶと見えないもんな」


 日はすでに落ちていて、空は闇色だ。

 空に溶け込んでいくバイゼルとラギルを見送りながらメルヒがぼやく。


「メルヒ。僕は頑張るよ」

「そうだな。頑張ろう。二度と道を誤らない様に」


 メルヒが頷き、セインが彼女に手を差しだす。


「戻ろう」

「ああ」


 幼い時に差し出された彼女の手はとても大きくて、温かかった。

 命を救ってくれたメルヒ。

 生きる意味を与えてくれた。

 それは間違った意味だったかもしれない。

 だけど、セインがそれに救われたのは事実だった。


 重ねられた彼女の今の手は、小さい。

 壊れてしまいそうなくらい。

 だけどその温かさは変わっていなかった。



 ーThe Endー





最後までありがとうございました!!

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