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元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。  作者: ありま氷炎
第五章 ざまぁの子は復讐を……。
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「大樹の神託を受け、私が王になった。停戦しろ!」


 セインは戦場に辿り着くと声高に叫ぶ。

 混乱している場ではそれはかき消され、彼はジョセフィーヌを探した。

 ザイネルとヴァン、バイゼルがジョセフィーヌと戦っている。


「ジョセフィーヌ!!」


 先に彼女の名前を呼んだのはセインではなく、メルヒだった。


「ケリル……。セインも。そう、そうなのね」

 

 ジョセフィーヌは手を下ろして、二人に顔を向ける。


「もう少し待っていて。魔王を倒したら、世界統一はすぐそこなのだから」

「ジョセフィーヌ!世界統一なんて必要ないんだ!僕は人の国の王になり戦争を止めに来た。もうやめろ!」

「駄目よ。セイン。それではまた戦いが起きるわ」

「ジョセフィーヌ。いやリグレージュ様。魔王を倒して僕が世界の王になっても戦いは終わらない。魔族側が納得しないからだ。僕は人だ。魔法も使えない、王家という血筋だけが王の証の、ただの人にすぎない。魔の国は、魔族が支配すべきだ」

「そうだよ。いい事言うね。セイン君」


 随分小汚くなったザイネルが頷き、いつの間にか魔族も人も動きを止め、やり取りを遠巻きに見ていた。


「それではまた争いが……」

「ジョセフィーヌ。喧嘩はだれもするもんだ。それが大きくならないようにすればいいだけじゃないか」

 

 メルヒは戸惑うジョセフィーヌに説いて、彼女は首を傾げる。


「喧嘩……?」

「人も魔族もリグレージュの子だ。兄弟喧嘩なんてよくあることじゃないか」

「喧嘩か……。メルヒ?なんでそんなこと知ってるんだ」

「私も思い出したんだ。大樹の中で見せられたことを。この世界の始まり……争い」


 メルヒは顔を上げると、セインを見つめた。その顔は夢でみたリグレージュそのもののようで、どこかあどけなかった。


「でも駄目よ。それでは何のために、何のために私は……。トール様!」


 ジョセフィーヌが顔を押さえ、苦しみ始める。


「私はやり遂げないといけないの。トール様の命を犠牲にしたの。だから!」


 再び顔を上げたジョセフィーヌはすっきりした顔をしていた。


「魔王ザイネルを殺す。それで私の使命は終わるのよ」

「ジョセフィーヌ!」


 セインとメルヒが叫ぶが、それは彼女から放たれた魔法によって消された。


「ち、くしょう!」


 一瞬だった。

 突風がザイネルを襲い、防御魔法を展開するよりも先に彼の体を跳ね上げた。

 ヴァン、バイゼルが彼に駆け寄る。


「ジョセフィーヌ!やめろ!」

「魔王を殺すまでは私の使命は終わらないわ」


 彼女の茶色の目はすでに正気を失っていて、ただ一心にザイネルの姿を追っている。

 ジョセフィーヌの動きに呼応して、再び動き出した人の兵たち。


「王命だ!停戦!停戦だ!ジョセフィーヌは正当な王ではない。私、セインが、王である。退け!」


 セインが命じて、兵たちは戸惑う。魔族たちはすでにザイネルによって退却命令が出されているため、人の追撃がないうちに退いていく。


「人よ。私はリグレージュの魂を持つ者だ。この戦いは無意味だ。退きなさい!」


 セインの隣に立ったメルヒがその瞳を輝かせて、命じる。

 同時に彼女から長い耳が尻尾が消えていく。


「メルヒ?!」

「……リグレージュは記憶と力をジョセフィーヌへ、魂を私へ移したのだ。私は人でもなく魔族でもない」


 メルヒの姿が輝きを増して、戦場が光に包まれた。


「リグレージュ……」


 セインが頭を下げ、人々がそれに習っていく。


「……ケリル……。どうして、なぜ」


 ザイネルにとどめを刺そうとしていたジョセフィーヌが動きを止め、メルヒに問いかける。


「ジョセフィーヌ。ごめん。もっと早く思い出せてばよかった。リグレージュはこんなことは望んでいない。……ジョセフィーヌ……」

「そんなこと、そんなこと!」


 彼女は首を横に振り、わなわなと震え始めた。


「私は、記憶も力もいらなかった。なぜ?あなたがいるなら、私は!」


 ジョセフィーヌは手のひらをメルヒに向けた。


「リグレージュ、神などいらないわ!」

「メルヒ!」


 魔法が放たれる瞬間、セインはとっさに動いていた。

 メルヒの前に飛び出す。

 しかし、ジョセフィーヌから魔法が放たれることはなかった。

 彼女は口から血を吐き出すとその場に崩れ落ちる。

 背後に立つのはヴァンだった。


「ヴァン!」

「仇だ。一族の……そしてザイネルの!」


 彼の一つ目が、その手が真っ赤に染まっていた。



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