ポケットの中の給付金
嗚呼、もっと、給付金が欲しい……。
足りない……足りない……。
ふっと耳に、懐かしい童謡が流れてきた。
何を思ったか、ポケットに給付金を詰め、上から叩く。
こんなことして、増えるわけがない。
ない……。
ない……?
ある……!
ポケットの中のふくらみが増えた。
「まさか……!?」
今度は両方のポケットに入れて、叩く。
ポケットの中のふくらみが、明らかに増えた。
「ウソだろ!? おい!」
それから、狂ったように給付金をポケットに詰めて、叩く、叩く、叩く、給付金が倍に、さらに倍に、倍の倍の倍に……。
とうとう、“給付金”という概念になり、想うだけで“給付金”が支給された。
「給付金」
口に出すことで、イメージがより鮮明になる。
「給付金」
諭吉達がウィンクする。
そんなある日、自販機で飲み物を買おうとした時のこと。
「給付金」
チャリーン!
そこには、鈍く光る十円玉があった。
「あと十円あれば、と思ったな」
かさばるから、お釣りが出ない方が良い。
ーーその日以来、想うだけで十円玉が支給されるようになった。
(了)