第二話 ボランティア
休日の朝がやってきた。俺は一度目が覚めたが携帯で日付を確認し今日が休みであることを確認すると再び眠りに就いた。折角の休日だこのまま10時11時くらい寝ていても妻は文句を言わないだろう。そう確信して俺は再び布団で体を包み込んだ。この温かさかにできるだけ長く包まれていかったが。
「忠雄さん、朝ですよ起きてください」
「残念今日は休日。俺にはもう少し眠る権利があります」
「でも早く起きないと遅刻するよ」
「だから会社は今日はお休みだってば」
「会社じゃなくてね。ボランティア清掃だよ」
「なんだそれなら俺は参加しないから。一人で行って来いよ」
「そんなわけにはいかないよ」
でもボランティア事態に本来強制力はない。義務教育の間に数々のボランティアに強制参加させられて勘違いしているやつもいるかもしれないが本来は自主的に参加するものだ。だから対して自主性のない俺は参加する気など端からない。しかしこのことを誰かにど咎められるいわれはない。何故か町民はそんな俺を冷めた目で見ているが。
「忠雄さんが疲れているのも分かるけど。私これ以上忠雄さんが町内の人から悪く言われるのを聞くのは嫌なの。だから少しずつでいいから忠雄さんのイメージを変えて行こう。結婚するときにそう誓ったよね」
ああ、確かに誓った。結婚式なのに親族すらまともにそろえられない自分の姿にひどく情けなさを覚えた。それと同時に生涯を共に過ごすパートナーにまで恥をかかせてしまったことへの罪悪感も加えて覚えている。
「分かった。着替えるからいったん部屋から出てもらっていい?」
「うん、分かったその他の準備は私がしておくからゆっくり着替えてね」
「了解」
適当に着替えを済ませドアの前で待つと妻とともに外でると真っ先に紫外線が俺に向かって注がれる。これだからあまり外に出たくないんだ。なんだか変頭痛がしてきた。
「今日は公園の清掃だって。あの辺りは雑草が多いから手ごわいよ」
「えーまじかー」
「まじです」
妻はにこにこしているが俺にはその理由がわからない。だって雑草って根っこまでしっかり抜かないとまたそこから再生してくるじゃん、あの緑色の星人みたいに
そんなことを考えながら歩いているとあっという間に公園の前まで到着した。やってきた僕らを見るや否やひとりの老人が声をかけた
「あら若奥さんおはようございます」
「田中さんおはようございます」
「今日もご参加いただきありがとうございます、ってええー」
「主人も連れてきました」
「おはようございます」
「お、おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」
そう言って田中は恐る恐るその場を去った、まあ当然かだって妻に連れてこられなかったら絶対に来ないからな。
「まあ、今日頑張ればきっと状況は変わるよ」
「だといいな」
その後町内会の人の簡単なあいさつを聞いた後妻から軍手をもらいせっせと雑草を抜く。こんな炎天下の中ひたすらにこれを繰り返すのはかなり酷だそれでも大半の人はおしゃべりをしながらだらだらと作業に取り掛かっている。
はっきりと言うが俺はこの状況が嫌いだ。目の前に終わらせなけれはいけない課題があるのにそれに集中して取り組まずただだらだらと時間を浪費する。まったくイライラしてたまらない。
「ねえ、忠雄さん楽しんでる」
「まったく、これのどこに楽しむ要素があるんだ?」
「それを探すのも醍醐味だよ」
「無茶いうなよ」
「そういわずに~、ほらたとえばあそこにタンポポが咲いてるよ」
「それが」
「もう、そんな事言わないでよ」
妻は笑いながら俺を小突く。その仕草は地味に子供じみてかわいい。
「あのーすいません奥さん、申し訳ないじゃがあそこのごみ袋を運んでくれんかの~わしらには重すぎて」
「分かりました。お任せください」
妻は笑顔でごみ袋の方に走って行ってしまったので俺はとうとう話し相手がいなくなってしまったので仕方なくただ黙々と草を抜く。まったく退屈な作業だまあ、会社にいるときに比べればまだましだがもうそろそろ飽きてきた。
「忠雄さーん、ちょっと助けてー」
遠方から妻の叫び声が聞こえてきたので俺はやっていた作業を中断し妻の下へ向かう。
「どうした」
「いやーそうぞう以上にこれ重くって忠雄さん手伝って~」
「なんだそんな事か」
俺は袋の端を持って軽く力を込めると袋はすぐに持ち上がった。正直このくらいなら非力な妻でも持ち上げられそうな気がする
「で、どこに持っていけばいい?」
「えっと公園の入り口のところに集めるらしいからそこに置いて」
「ああ、分かった」
俺は言われた通りに運ぶ。入り口にはすでに何個もゴミ袋が置いてあるのでそれが目印代わりになった。俺はそこにゴミ袋を下ろすとすぐさま踵を返そうとしたが。目の前で老婆が一人で袋を引きずりながらやっとこさっという感じで運んでいた。その時俺は会社にいる新人の事を思い出した。できもしないのに「できます」っといった結果オフィス中を大混乱に陥れた。今の老婆は何となくそいつに似ている。だから無性にイライラする
「貸してください」
「え、いいんですか」
「そっちの方が効率がいいだろ」
「まあ、ありがとうございます」
まったくとため息をつきながら俺は老婆から袋を受け取り先ほど運んだ袋の横に置いてから妻の下へ戻った。
「おかえり、ちょっと遅かったね」
「べつに」
「そう、」
それからは特に会話もないまま時間ばかりが過ぎ、あっという間に公園の雑草の大半が片付いた。そして町内会員の終わりの挨拶を聞き流し俺は妻とともに家に帰った。
「今日はお疲れ様」
「まったくだもう二度とやりたくない」
「もう、またそういうこと言う」
妻は言葉では怒りながらも表情はにこやかだった。
「でも今日も忠雄さん、かっこよかったよ。お婆さんもゴミ袋を持ってあげてたでしょ」
あの行動を見られていたことにひどく恥ずかしさを覚える俺をしり目に妻はニコニコ笑っている。なんだか腹立たしいが今の俺には対抗策がない。
「あれからね、あの人すっごく感謝していたよ。そしてねここれくれたの。あなたの旦那さんにって」
妻はテーブルの上に缶の野菜ジュースを置く。それは本来参加した清掃に参加した子供にしかもらえないもののはずだった。
「ねえ、忠雄さん何で今日のボランティアに忠雄さんを参加させたのか分かる?」
「いいや」
「それはね、忠雄さんに気が付いてほしかったの。人は皆一人ぼっちでは生きていけないいてことに。こう言うと忠雄さんは、俺は違うって言いそうだけど。でも忠雄さんは今私に支えられてる、と思う。そして私の忠雄さんに支えられてる。皆そうやって生きているの」
「そうだな」
「だからね、忠雄さんに負担をかけるかもしれないけど。もう少し見知らね誰かの事を思いやってみようよ。もしかしたらまたこうやって何か得られるかもしれないよ」
そんな低確率な賭け事のようなことをして何の意味がある。それなら自分の事を各々がしっかりこなし、できないことはできないと割り切る。それでいいじゃないか。それの何が悪い。でももし本当に誰かの役に立てるなら。そうしたらこんな自分にも価値が生まれるかもしれない・
「まあ、余裕があるときくらいならな」
「うん、それでいいよ」
じゃあ乾杯しよっか、と妻も実はまったく同じものをもらっていた。どうやら子供しかもらえないのは俺の思い込みのようで実際は参加者全員にもらえるものなのだそうだか配られているとき俺は公園の外にいたのでもらい損ねていたらしい
「ああ、かんぱい」
「かんぱい」
その時飲んだ野菜ジュースは、とても甘く感じた。
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