第一話 帰宅
俺はこの町の町民から嫌われている。その理由に関しては理解できないが。この前町内会費を払えと年寄りが家に押しかけてきたので
「それを払って俺に何の得がある。なぜお前たちの老後生活に俺が投資をしなければならない」
と追い返してやった。それに休日の朝から公園なんかに集まってなにやら騒いでいるので覗いてみるとせっせと雑草を抜いていた。今の公園のほとんどで球技遊びが禁止になっているのでもはや需要があるとは思えばない場所をせっせと清掃していたので俺はせっかくなので行きがけの駄賃に近くに道路に落ちていた空き缶をゴミ袋の中に入れた。これで一応ここらへんを綺麗にするという活動に参加したことになるだろう。何故かすごいにらまれたけど。
そんなことを繰り返すものだから町内で着いたあだ名が「人でなし」まあ妥当な判断だとは言えるだろうが正直どうでもいい。重要なのはこの町から追い出されないかいなかであるさすがに警察や市役所なんかから迷惑な住人認定されたら焦りはするだろうが、そうでないうちはこのままでもなんら問題はないだろう。
職場でも基本定時に帰るし、急な出勤以来は自分の成績にかかわりそうならするがそうでないないならスルーする。それでもし不当な減給やいじめが起ころうものなら面倒なだが裁判沙汰にしてから退職すればいいと思っている。
そんな俺が結婚した
「忠雄君側の知り合い誰も来てないね」
「ごめん」
「いいよ、これから少しずつ変わっていけばいいんだよ」
せっかくの結婚式なのにかなりの数の席が空いているという失態を犯してしまった。それでも笑って許してくれる妻に感謝しつつ、誓いのキスをした。
「おかえり」
「あん」
「もうただいまでしょ」
「面倒くさい、意図は伝わるし」
「確かにそうだけど」
妻はふくれっ面をしながらフライ返しをふるった。今日の夕飯はハンバーグのようだ。
「でもね、妻の私としては旦那さんが無事に帰ってくるか常に不安なの」
「心配しなくても、よぽっどの事がない限りはなんとかなる」
「確かにそうだけどね。今日一日自分の旦那さんが無事に帰ってきたことを少しくらい喜んじゃダメかな?」
「好きにすれば」
妻はハンバーグが入っている鍋に蓋をする。強火でさっと焼いてから弱火でじっくり蒸すのが妻のお決まりの作り方だ。そしてフライ返しを置くとなぜか料理の途中なのにエプロンを外し近づいてくる。そして急に抱きついてきた。
「おかえりなさい。私の最愛の旦那さん。今日も無事に帰って来てくれてありがとう」
「大げさだな」
「そんなことないよ、あなたは気が付いていないかもしれないけど。私はあなたが仕事から帰ってくるたびに毎日これくらい喜んでるんだよ」
「そ、そうなんだ」
「うん、そうだよ」
恐らくただいま、おかえりというあいさつの中にそのような意味があるわけはないのだが妻はそのような解釈を付け加えたのだろう。それに振り回されるなんてまったく持って御ごめんだが。
「まあ・・・そのただいま」
「はい、おかえりなさい。初めて言ってくれたね。私嬉しい」
「そう。それはよかったな」
「うん」
妻はまわしていた腕をほどくと再びエプロンを身に着け晩御飯の調理に戻った。何故か鼻歌を歌いながら