【ジューシートマトドリア】②
「ザクロ君って誰?」
「ザクロってのはあたしの幼馴染で家が近所の男子なんだけどさ」
ライチが説明するとすぐに本人がやってきた。百聞は一見にしかずだ。
「こんにちはー」
水色の髪の毛をした男子がやってきた。もしかして、ザクロ君? やっぱり地毛なんだよね、水色の髪の毛なんて間近で見るのは初めてだ。
「はじめまして、僕の名前はザクロです」
八重歯がかわいい子供だ。こちらの世界の小学生くらいだろうか。
「いつも無料でおいしいご飯をありがとうございます」
手を合わせたザクロ君は、とても礼儀正しくて、ライチとは正反対のタイプだった。例えるならばザクロは優等生。ライチは不良生徒のようだ。
「ザクロ君にもおいしいトマトドリアを作ってあげるよ」
アサトさんとまひるの手際よさには驚くばかりだ。あっという間に、ジューシートマトドリアの出来上がり。横に添えた色とりどりのフルーツトマトとりんごもとってもおいしそう。栄養バランスもよさそうな一品だった。
「いただきます」
お辞儀をしてから、ザクロ君は食べ始めた。
「今日は僕たちに話があったのですよね。僕はあなたたちの心が読めるので、話さなくてもわかります。僕はあなたたちに従います。将来の国王様」
「ザクロ君はすごい能力を秘めていることは感じていたけれど、まさかここまでとはね」
アサトさんは予想以上の大物がいたことにすこし驚いていたようだった。
「基本は日本世界の食材を使っているんですか?」
ザクロ君は食材に興味があるらしく色々質問する。
「そうだね、日本の食材は天下一品だと思うよ。僕たちの世界の料理は見た目こそきれいだけれど、味は日本に比べたら劣ることは確実だから。だから、時の世界の住人は日本世界の食事が食べられるということで、僕たちのレストランを利用する者が多いんだ。僕たちの国にはないものばかりだからね」
ふと見ると、口のまわりにごはんつぶをつけたまま、ライチが完食していた。食べる速さがかなりの速度だ。飢えているのだろうか。そういえば、ここのお客さんは早食いで大食いが多い印象だ。おいしいからかもしれないが、そう言った人をここの空間が寄せ付けているのかもしれない。
「ごっちそうさまー」
やんちゃ全開で、ライチがお腹をさすっていた。満腹という至福の笑顔だった。もしかして、この子は貧しい家の子で、生活が大変なのかもしれない。そう感じた。ゆっくり丁寧にザクロ君がデザートの最後のひとくちを食べ終わると満足な表情を見せる。
「ごちそうさま」
ここを手伝っていて一番幸せな瞬間は食べたあとに見せる笑顔をみることだと思った。私が一番幸せを感じる瞬間だ。
「いただきます」から「ごちそうさま」に至るまでの時間。食べた人がいかに幸せになれるのか、それは食べることの尊さを感じる出来事だった。人はおいしさを感じることで満足感を得て、幸せになることができる。魔法ではないけれど、不思議な力だと感じた。
「この子たち、お腹空かせているのかな?」
「この国は、貧しいからね。国王がなんとかしなければならない問題なのだけれど、僕はできることをやっているよ」
「この子たちの親も仕事で忙しいの?」
「この子たちの親は片親だったり、仕事をしても裕福にはならないことが多くてね、大変な時代だよ。子供も仕事をしているよ。王室は裕福な暮らしをしているのにね」
何となく、苦労を知らないおぼっちゃまという印象だったアサトさんの優しさとボランティア精神が伝わってきた。人間として良い人だ、と思えたのだった。
「君たちは将来お金に困らない暮らしをしてみたくない?」
「そりゃ、お金がいっぱいあればうまいもん食えるからな」
「じゃあ、もしもお金に困らなかったらという未来を見てみない?」
アサトさんはもしもの世界を見せるつもりなのだろうか、記憶を奪うということだろうか? 私は不安な気持ちになっていた。
「噂の虹色ドリンクなら飲んでみたいぞ」
ライチがまだまだお腹に入るぞというポーズをとる。ザクロが優等生らしい意見を述べる。
「僕は母さんたち家族が困らない仕事に就きたいと思っているけれど、なかなか時給が低い仕事しかないからね、勉強はしているけれど進学は難しいと思っているよ」
「あなたたち、特別夢がないならば、将来、朝の王と夜の王になってみない?」
まひるが提案した。
「僕はここに来るまでに承諾する覚悟を決めてきました。特別な夢なんてまだ僕にはないですよ。大学で研究してみたいとは思っているけれど」
ザクロが述べる。
「大学で研究したあとに、朝の王になったら? 今の国王の後釜がアサトお兄ちゃんなの。国王が逝去したあとにアサトお兄ちゃんが国王になると朝の王の席が空くのよね」
能力の高さを評価したまひるがスカウトする。
「毎日食べるものに困らないなら、どんな仕事でもやってやるって」
ライチが力こぶを作るポーズをする。
「あなたたちが前向きに検討してくれるならば、記憶をなくす必要はないから虹色ドリンクは飲む必要なんてないのよ」
「うまいなら飲みたかったなぁ、虹色ドリンク」
ライチががっかりする。
「あれは、危険なドリンクなのよ。記憶がなくなるということはとても怖いことなのよ。できればお勧めはしないわ」
まひるが冷静に諭す。やはり頼りになるお姉さんのような存在だ。
「ライチには礼儀作法を1から訓練します。能力を伸ばして将来夜の王となるべく勉強しませんか?」
アサトさんは厳しい家庭教師のようなまなざしだった。
「オイラやってみる!!」
「じゃあ、近々ご家族にご挨拶に伺います。ライチ、オイラではなく、私と言う習慣を身に着けてくださいね」
きっとライチの指導には時間がかかりそうだけれど、アサトさんならばしっかりじっくり面倒を見そうだと思えたが、ライチが音をあげなければいい、それだけが気がかりだと思えた。




