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【ずんだ団子 ジャックと豆の木】②

 私の名前は清野かおる。ブスということがずっとコンプレックスだったので、少しくらい顔をいじってきれいになりたい。人は親からもらった顔に傷をつけるのはよくないとか言う。でも、気に入らない顔だったら? その顔で損ばかりして恋愛もできなかったら? 大幅に変えようとは思っていない。私生活があるわけで、免許証の顔と全然違えば問題も起きる。職場の人との兼ね合いもある。だから、ちょっとだけ顔を変えたいと思っていた。


 あれ、この感じなんだろう? 心地いいな……と思いながら眠ってしまったような気がしたが、気が付くと、日付は未来だった。本当に夢みたいだけれど、現実感があった。あのドリンクの効果はすごいと驚きを隠せない。


 なんと私は、整形したあとで、顔が変わっていた。鏡を見て驚いたのは、別人とわからない程度にしたこともあり、絶世の美人にはなっていなかったのだ。瞳を二重にして目を少しばかり大きくしても、美しくなったとはいいがたい。手術の後は、一重から二重にするだけでも結構腫れがあったりコンタクトが入れられなかったり面倒なこともあると聞く。少しは以前より美しくなったかもしれない顔で街を歩く。


 ナンパされることもないし、新しい出会いもない。何も変わらない日常があった。それでも満たされる何かが心の中に溢れていることを私は感じていた。ショーウィンドウにうつった少しばかり大きくなった瞳を誇らしげに大きく開いてみる。


 他人がどう思うかではなく自分がどう思うかを私は一番大事にしたい。そう思った。大々的に顔を変えてみるこにも憧れるけれど、今ある顔に少しプラスしたい。失敗するというリスクもあるかもしれない。でも、変わってみたい。そんなささやかな乙女の願いがここにあった。親に何と言われようと友人に何か言われようと二重にしてみたい。ねがいが決まった。おんなの賞味期限は餅と同じで劣化も早い。だからこそ、今やらなければ一生後悔すると思ったのだ。


 何もかわらない日常を体験した私は、いつのまにか店内に戻っていた。美しいお兄さんがこちらを見ている。この人はきっと顔立ちで悩んだことはないのだろう。そんなうらやましさが胸を襲う。


「ねがいは何にしますか?」

「まぶたを二重にしてください」

「大々的に整形しなくてもいいのですか? 二重にするだけですか?」

「やっぱり憧れるのです、たいして美人度があがらなくても、自己満足でいいのです。愚かな憧れですが、女には譲れないものがあります。それに、同級生に会って整形したと気づかれたりするのはプライドが邪魔をするのです」

「女心というのは複雑ですね」

「はい、超美人になれなくても、1ミリくらい美しくなりたいものです。自己満足でいいのです」

「わかりました、目をつぶってください、するとこの店はあなたの前から消えます。そして、ねがいがかないます」

「ありがとうございます。そして、おいしいずんだをありがとう」


 瞳をあけると、私は手術することなく二重になっていた。既にブスという記憶はなくなっていたので、自分をブスだなんて思わない高飛車な勘違い女になっているなんて1ミリも思わずに今日から街を歩くのだ。私はハイヒールを得意げにカツカツ鳴らしながら人ごみを堂々と歩く。まるで、自分が主人公になったかのような気持ちになって。


 ♢♢♢


「ずんだシェイク、俺氏にギブミー!!」

 あまりにも存在感を消していて、いることも忘れていたが、今日も黒羽はここで執筆している。

「ぐひひ……最近、どこかで調べられて俺氏の家の前に女が待ち伏せしてるんで、マジ都市伝説並みに恐怖っす」


 黒羽が都市伝説のキャラに見えるのだが、これを待ち伏せしている女がいるとは、口裂け女の類の妖怪なのではないだろうかと思う。


 ずんだシェイクを作りながら、アサトさんは先程の女性に言及する。シェイクでも何でもできる材料や機材がそろっているというこの台所は無敵だと思う。不思議な空間だ。


「ブスだと思っている記憶がなくなり、高飛車が災いすることがあったとしても、自己責任ですよね」


 こういったことに対して冷静で冷酷とも思えるアサトさんの変わらない感情に少しばかり疑問を感じる。


「女性は美人だという幸せな勘違いを手に入れたんだね」


 まひるもドライだ。相手の立場に立ってかわいそうとかそういった感情を見たことがない。だからこそ、この店が続けられるのだろう。いちいち感情的になっていたら身が持たない仕事なのかもしれない。所詮は他人という乾いた気持ちが必須な職業なのかもしれない。

 

 先ほどの女性が黒羽のように外見に無頓着であれば、一重まぶたでこんなに悩むこともなかったであろう。しかし、足して二で割ったくらいがちょうどいいのかもしれない。無頓着すぎる人間と美貌を気にする人間。

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