第九話「王都の祭り一日目」
「そういえば、魔物ショーって見たことあります?」
「魔物だって?」
俺は異世界に来てから初めて聞いた単語に心を躍らせつつも、若干の不安を覚えながらロロットからの詳細説明に耳を傾ける。
「そっかぁ、村では魔物を見る機会なんてほぼありませんし。ユウタさんが知らなくても無理ないですね。魔物は動物が魔法の力に目覚めたり、魔力の強い場所で自然に形作ったり結構曖昧な存在なんです。人に近い魔物もいますし、お化けや虫みたいなのもいます。知らないとは言っても、ユウタさんも既に魔物を食べているんですよ?」
「心当たりは全くないんだが」
「肉肉野菜炒め」
村の居酒屋シッポ亭で最初に食べた料理の名前だ。あれ魔物の肉だったのかよ!?
「その肉は因みにどんな魔物なんだ?」
「動物ベースの魔物ですね。村から王都と反対側の森で狩ってるはずです。」
全然知らなかった。というか、なんか気持ち悪くなってきたぞ。
俺の表情を見て、ロロットは食べ物からショーへと話題を戻す。
「いい機会なので一緒に見に行きましょうか!」
「え、出店はどうするんだよ」
「今日の売れ行きすごく良かったと思いません? ほら!」
途中からロロットに接客を任せていたのでよくわかっていなかったが、テーブルの上は残り少なくなっていた。
「もうセール始めちゃいますね」
そう言うとロロットは全品半額ののぼり旗を掲げる。
「全品半額セールしまーすっ! 六時半まで! 今から三十分だけですよー」
ロロットってこんな大きな声が出るのか。俺が感心していると、ロロットは机の下からのぼりと同じ色の布を笑顔で俺に渡す。
「ユウタさんのぼりもう一個あるので通路に出て振ってください!」
ロロットの半額開始のタイミングは絶妙で俺たちの出店が完売となると同時のタイミングで周りの店舗も値引きを開始していた。
「全部売れたし、魔物ショー見に行きましょ! ユウタさん」
ロロットは出展者招待席と書かれた魔物ショーのチケットを二枚俺に見せてくる。チケットの絵柄はまるで某国の雑技団のような、バランス感覚でポーズをとっていた。ライオンが。
魔物ショー会場のテントの前には大行列ができていた。
「こんなに人気があるのか」
「祭りの時くらいしか王都ではやらないみたいですからね~」
俺たちは出展者専用の入り口から入り、二階の会場全てが見渡せる席へと案内される。
小太りな男が記憶に残る変なアクセントの喋り方で挨拶しショーが始まった。
「おお~」
某国の雑技団と比較しても遜色ないバランス感覚に加え、人間には真似出来ないであろう魔物特有の身体能力の高さを生かしたアクセント。ロロットが見た方がいいというのも納得だ。ロロットも他の観客同様、夢中でショーに見入り拍手と歓声をあげている。
「次は本公演初披露の高速組み手でぇす。お楽しみぃください」
一際盛り上がる会場、カーテンの裏には二人の影が自分の武器を表すかのようにポーズをとる。片方は狼のような頭に大きな爪、もう片方は蹴りと尻尾だろうか一見ワニの擬人化をイメージさせられるシルエットだ。そしてカーテンの幕が上がるとゲームの戦闘BGMのような音楽とともに両者が向き合い駆け出す。
「こいつらにはどうやって芸を仕込んでいるんだ」
俺は、言葉が通じないであろう魔物にどうやって芸を仕込んでいるのか不思議でたまらなかった。
「特別なスキルを持っている人が調教しているみたいですよ~」
ロロットは、どこかで聞いたらしい情報を教えてくれた。
「あるじ~爪の狼男なんかへん。モヤモヤしてる」
からあげが俺の肩に乗り囁いてくると同時に、多くの息を飲むような悲鳴が聞こえ、会場を沈黙が支配する。
そこにはさっきまでの激しい動きは無く、爪ごと腕を相手の胴体に突き刺し息を荒げる狼男と、血を流しぐったりとしたワニ男が立っていた。
「グググゥルウウァァァ!!」
狼男は正気ではない叫び声をあげ、血まみれの腕を引き抜く。そのまま客席のほうに向けた顔は、まるで全てを喰らい尽くさんという真っ赤に染まった目と剥き出しの牙で怒りに満ちていた。
観客は危機を察知したのか叫び声をあげながら我先にとテント出口へと駆けていく。会場に目を戻すと男狼はもう姿を消していて倒れて血を流す人影だけが残されている。俺は目の前で起きた事件にショックで広がっていく血を只々凝視していた。
「ユウタさん! ユウタさん! 逃げましょう!」
「え、ああ」
俺たちは出店のあった場所に戻り、周りの出店者と情報交換をする。
今は各自自分のスペースにて待機命令が出ていて、運営が安否を確認して回るそうだ。
「私たちのお店は何も問題ありません。被害のあったお店もあるんですか?」
ロロットが安否確認に来た運営に質問をしていた。
「現時点では魔物ショーテント付近で突進された形跡があるくらいで他に連絡は入っていません。ですがまだ犯人は見つかっておらず、腕に覚えのある方へは捜索の協力をお願いして回っていて城下町の門に集合しています」
捜索か。からあげから説明を受けた俺の能力が生かせる内容かも知れない。
「腕に覚えがあるってどれくらいのレベルを言っているんだ? 俺は戦うのは自信が無いができる範囲で協力したい」
「もしかしてサーチ系の魔法が使える方ですか?」
「ああ、まあそんなところだ」
「ありがとうございます! それではお待ちしています!」
一礼して運営は次の店へと向かう。
「ちょっと待ってください! そんな危ないこと普通の人はしない方がいいですよっ! 怪我しちゃったらどうするんですかっ!」
「ロロット落ち着いて、俺に考えがあるんだ。からあげ」
「あるじ、しゃべるなっていってたのに」
「こんな小さい鳥が喋った!?」
俺はロロットに、昼間契約してしまった自称女神の使い魔からあげを見せる。
「俺はこの鳥と契約をしてしまってツイートという能力を得たんだ。ロロットが言うように直接戦うことはできないけど、捜索や足止めくらいならできるはずなんだ。だから俺は行く。ロロットはここで待っててくれ」
俺の真剣な表情で止めるのは無理だと察したのか、ロロットは沈黙の後に俺を見つめる。
「……私も行く」
「いや、それこそ普通の人は危ないって」
「私、一人で薬草集めに魔物のいる森に入ってるんですよ? ちょっとした魔法くらい使えます!」
俺に普通の人扱いされたことが気に食わないのかロロットは頬を膨らませ、証拠を見せる様に魔法を唱え、指先に灯りを灯して見せた。
集合場所の門に行くと既に三十人ほどの人が集まっていた。腕に覚えのある人というのは本当の様で皆強そうだ。
「皆さん、お集まりありがとうございます。これより狼男捕獲に向けて安全第一の注意点を説明します。捜索は三人以上一組となって行ってもらいます。どんな理由があろうとも一人で向かっていくことのないようにお願いします。それからご存知かと思いますが、今回逃走中の魔物は一見獣人に近いですが言葉の通じない相手ですので説得は不要です。その他の注意点として――」
俺とロロットは他に一人で来ていた武闘家らしきおっさんと共に捜索に出かける。
「どこから探しましょうか?」
「それなら私が魔法で見てみます」
ロロットがネックレスを両手に乗せて何やら呪文を唱えると、ネックレスが光を放ち浮き上がる。
「こっちです!」
ロロットが案内する方向へ俺たちは警戒しながら進んでいく。
「お嬢ちゃんすげえな。俺は魔法はからっきしだからよ。素直に羨ましいぜ」
おっさん、俺はその長身とガタイが羨ましいよ。
「ありがとうございます。そろそろ近そうです、何か見えませんか?」
「おい、屋根だ!」
俺たちに気づいたのか狼男は逃げるように屋根の上を走る。
「狼男は屋根を踏み外す、ツイート」
狼男は俺のツイートにより、足場があるような動作で空を蹴って転ぶ。更に走っていた勢いの所為で家の壁にぶつかったようだ。
「狼男は足をつって立てなくなる、ツイート」
「うぉぉぉ」
情けない声が夜空に響く。お、本当に足をつったか。
ここぞとばかりに武闘家のおっさんが狼男を押さえつけた。だが抵抗されて苦しそうだ。
「武闘家のおっさんの筋力が最高のパフォーマンスになる、ツイート」
がんばれ、武闘家のおっさん。我が命に従い、獣を屠れ。
「なあ、ロロット、この捜索隊の責任者を連れてきてくれ。ここで俺らが狼男を食い止めておく」
俺と武闘家のおっさんで狼男を確保しているうちに、ロロットに応援を呼んできてもらう。
「わかりました。でもあんまり無理しないでくださいね」
ロロットは捕獲隊の詰め所へと走った。
「狼男は眠くなる、ツイート」
どの程度効果が出るのかはわからないが、ロロットが責任者を連れて来てくれるまで多少は時間が稼げるはずだ。
これで完全勝利、そう思い、もはや肉塊と化しただろう狼男に視線を向けると、狼男はまだ武闘家のおっさんと組み手をしていた。
全然寝てねえじゃん。
拮抗した揉み合いが続く中、捜索に出た他の猛者たちがロロットに案内され駆けてくる。
「あの建物の屋上にいます」
俺の指すところを確認した人達が次々と建物に登っていく。言うまでもなくあっさりと掴まった狼男はいたって普通で、人体に爪で風穴を開けた時の様な恐ろしい顔付きになることはなかった。
俺が武闘家のおっさんと拳を合わせていると、最初に説明していた責任者らしき人に声を掛けられた。
「あなた方のチームが彼を見つけ、更には取り押さえてくれていたと聞いています。なんとお礼申し上げたらよいか」
「俺はただ隙だらけになった奴を押さえていただけさ、この若い二人が便利な魔法で探して動けなくしたんだ、一番の功労者だろ」
武闘家のおっさんはあとは任せた言わんばかりに俺に目で合図する。
「そうでしたか。ですが体を張って事態を収めていただいたのです。何かお礼をさせてください。尚、お礼の内容は他言無用でお願いします」
「そうかい、じゃあ俺は金が欲しい。あとでギルドに行けばいいかい?」
頷く責任者にまた後でと言い残し、武闘家のおっさんは現場から去っていった。責任者は残された俺たちにもお礼の品の希望を聞いてくる。
「いや、俺たちは金や名誉のために捜索隊に参加したわけじゃないから、礼は不要だ。まあ強いて言えば、王都に来ている人々の笑顔で十分だ。あ、明日も祭りは中止せずにやってくれよ?」
嘘である。本当は、褒賞とかお金とか名誉が欲しいが、ロロットの手前格好を付けてしまった。
「おお、まさかお礼の品を辞退されるとは。さてどうしたものか……」
しかし、この回答をよほど気に入ったのか責任者は、俺の予想を上回る提案を持ちかける。
「わぁ~すごいです~」
ロロットは責任者からの思いがけないプレゼントに驚嘆の声を上げる。
「王宮でディナーなんて一生の思い出になりそうです」
責任者は王宮でそれなりの地位を得ているらしく、俺らを王宮でのディナーに招待しれくれた。
「テラスからは今宵の花火も見れますし、いいムードですから告白するにはうってつけですよ」
俺たちをからかっているのか、それとも本気でそう考えているのかわからないが、責任者は余計な一言を添える。
まあ、確かに王宮のテラスで花火を見ながら告白などしたら、一発で落とせてしまえそうだが今はそんな気はまったくない。
「余計な気を回すな、俺たちはそんな関係ではない」
「そうでしたか、これは出過ぎた真似をしました。まあ、今回の宴は王宮の料理人が腕によりをかけて作った料理です、ぜひ存分に味わっていってください」
そう言い残すと責任者は給仕を三人ほど残し、部屋から退出した。
「ユウタさん!とっても大きなサラマンダーのお肉がありますよ! あ、こっちは世界樹の果実で作ったフルーツタルトです! 全部食べたいけど、種類が多すぎてもう選べません~」
俺たち二人だけのために用意された料理の種類は有に百を越えている。王宮の威信を見せつける様な料理に圧巻されながら、至福の時間を味わうことにした。
俺は飯を取るテーブルをうろちょろしていると、いつの間にか戻ってきていた責任者に声を掛けられた。
「ユウタ様、少しお話があるのですがお時間よろしいですかな?」
「ああ」
「何やら珍しい魔法を習得しているとお聞きしまして、ご興味があるかと思いまして」
責任者はもったいぶって核心を話そうとしない。
「なんだ? そこまで言ったなら教えてほしい」
「見たところ王都に来るのは初めての様ですし、ギルドの活用はまだ手を付けていないのですよね? 私はこの都市の冒険者ギルドのサブマスターに就任していましてな、ぜひユウタさんにも入会して頂けないかと思いまして」
魔法だってあるんだし、魔物もいる。冒険者ギルドだってあるんだろうが、何も実績のない俺がいきなり入会だと? しかも話し方からして都市毎に派閥でもあるようだ。
「俺は何も実績や経験はないんだが、俺が入ることで何かメリットでもあるのか?」
俺は一番疑問に思っていることを尋ねてみる。責任者改めサブマスターは俺の質問が前向きだと思ったのか馴れ馴れしく更に距離を縮めてきた。
「勿論! 実績なら此度の案件で十分ですし、私はユウタ様の珍しい魔法に大きな可能性を感じているんですよ!」
サブマスターががっちりと俺の肩を掴み、逃がしませんよと眼力で伝えてくる圧力に俺は上半身がどんどん反っていく。
「と、取り敢えず俺は、出店での結果を世話になっている人に伝えるため村に戻るんだ。その後なら話を聞いてもいいと思っている」
「決まりですね!」
半ば強引に、がっちりと握手されてしまった。
「もうすぐ祭り一日目フィナーレの花火ですので、お嬢さんとお楽しみください。それでは失礼いたします」
一礼し、サブマスターは去っていった。
辺りは、静寂に包まれている。俺とロロットの声だけが響く。いつの間にか落とされた照明が、まるでこの場には俺とロロットしか居ないかの様に錯覚させる。
一発、もう一発と花火が上がると、花火の輝きでロロットの横顔が明るく照らされる。
「こんなに近くで見たの初めてです~。今年はユウタさんとこれて良かったな~」
俺とロロットは二人肩を並べ花火を見上げる。
「~~~」
ロロットが何かを言ったようだが、花火の音で聞こえなかった。
「ん? ロロット何か言ったか?」
「ふふふ、秘密です」
花火に照らされ続けるロロットの横顔は、どこか悪戯じみた笑顔を浮かべていた。
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